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働きアリのブログ

働いても働いても遊べません


大きな駅に着いて、その人の多さに驚いた。


今日、一番の人数だろう。

夕方、地下鉄を下りて、目にした以上の人がそこに居た。


田舎とは言え、一日の乗降客数が両線合せてのべ16万人を超す駅だ。
そのうち、ここに居るのは何割だろうか。


「これは。ホフブロイハウス・・・?」自嘲気味なギャグをちょっとかましてみた。


駅の電光掲示版には、▽▽駅と○○駅間の踏切に自動車が進入し、電車と接触した・・・。
とLEDで情報が流れている。
音声では、スピーカーで
「ただ今、復旧作業中です」
と情報が流れている。
そんな受け手の意を汲まない情報なんて、ずっと前から知っている。
いらないよ。今更。


嵐の夜に、群集が集まっている。

誰かを。救世主やら、アドルフの登場を待っている群集。

ずっとざわざわしていた。

人の間から流れる情報のほうがよっぽど重要に思えた。


「自動車を引きずったまま」
「乗客が歩かされた」
「白いアルフォード」
「電車が凹んで」
「運転手は逃げた」
「自動車が電車に突進」
「○○野の会社員だと」
「エンジンかけっぱなしで」

このままいけば、誰の車で、家族構成やら、勤務先まで聞こえてきそうな勢いだ。



発熱した群集。


しかし、その周りをぐるりと警察が囲んでいた。
人の群の中にも規則的に警官が立ちすくんでいる。


警官の制服の前に、怒りの起こりようもなく、仕方ないので分かり切った質問をしていたりする。

何か事があれば、すぐに取り押さえるつもりだろう。


「何で、こんなにおまわりが居るんだ?」
おヤンな感じの兄さんがでかい声を出す。
警察が居るのが落ち着かないのだろう。

まぁ、そう、いきりたつな。


私は知っているよ。

殴られた駅員が出たので、鉄道会社が出動要請をかけたのだ。

さっきは都内だったが。今度は県警だ。


これだけの警官を出すのであれば、この駅まで彼等を届けたマイクロバスで乗客を家まで届けたらどうだ?
サイレン鳴らしてさ。名前入りの地図持ってるんでしょ?

だったら乗っていってもいい(笑)


とはいえ、何もできずにそこでぼぉっと立っていた。


「あぁ?そう?」
近くで携帯電話で話していたオジサンがでかい声を出す。
なんだ?


「あぁ?△△駅では、タクシー分乗させてる?!そう。駅員が券配ってるんだって??」

周囲がざわめく。
これを聞かせたかったか。
オジサンが携帯電話を上に掲げて言う。

「他の駅じゃ、タクシーに乗せてんだっていうじゃないか!!」


そうなんですか?と近くの警官に聞く人も居る。
この警官が知る由もない。

駅員だ。駅員に聞かなきゃだめさ。


「早く情報流せよ!」

群集が改札までぐっと押し寄せる。

もし、本当であれば、我先に『タクシー乗車の情報』を得たいがために。

いや、もう一部は、駅前デッキのはるか先にあるタクシー乗り場に走っている。
走り去る人を見て、人の波がぐっと動いた。


現場は混乱した。

さっきまでの演説をぐっと待つバイエルンの民衆でも、アーロン杖の行方を見守る静かな民でもなかった。


すると。


「ぁーがぁー。あー。」
スピーカーから音声が流れた。
実を言うとここからはもう、改札の様子などわからない。

十重、二十重、五十重くらいの人垣の向こうなど、平均的身長の私には見るすべもない。

でも、たぶん、改札で駅員が話しているのだろう。

「お客様にご案内します。」
それ。タクシーの話しだ。


皆、顔を上げて聞いている。

「この後、22時48分に、お隣の○○@駅から下り、始発電車が発車する予定です・・・」

一つ、一つ、言葉を区切りながら、ゆっくりと話している。


間違いのないように、それでいながら、ひと言話す度に、この駅から責任が離れてゆくように。
言葉を放り出していく。


それは私をこの退屈な集会から解放する言葉になった。

幸いなことに人垣の後のほうに居る。


全部聞き終らないうちに、さっき通った道を逆に辿ることとなった。


「上りはどうなってるんだよぉ!」

そう、大声を上げる人を尻目に、速足に移動することとなった。


まず。

私鉄沿線にはよくあることだが、大きな乗換え駅とその側に小さな電車の始発駅がある。

大きな駅は、この市の玄関駅として、名を馳せている。
振替輸送の路線も当然、この玄関駅と接続している。
ただ、両会社の意見が合わなかったのか、この街の古い気質がそうさせたのか、玄関駅と振替輸送の駅は徒歩10分ほどかかる。

その他に始発駅があり、そこには徒歩3分で辿り着く。
始発駅からは上りも下りも電車が出ていく。
私は下りなのだが、事故があると、パターンとして始発駅から下りの終点までの折返し運転がまず復旧することがある。


まずは、始発駅への徒歩3分を目指す。


本当は大きな通りもあるのだが、車の通らない、他人様の軒先にある細い路を通って3分。
ただ、前の人について歩いていった。


始発駅では、1つしかない狭い改札に人垣ができていた。



△△駅と同じだった。

動いてないじゃん。
嘘つき。


ま、騙そうと思ってとか、貶めようと思って言ったことでないのは想像にかたくない。


「さすがに動いてるんじゃぁーーん???」
ってなノリなんだろう。あっちの路線は事実、すぐ復旧したのだから。



駅員がスピーカで何百回となく言い続けたであろう言葉を発っしている。

「復旧の見込は立っていません。このため、振替輸送を実施しております」


「復旧の見込がないってどういうことだよ!何やってるんだ?」
怒号が飛び交う。


・・。

さっき見た光景だよ。
ついでに言えば、そのやりとりは朝から何度繰り返しているんだ?

「ですから、今、事故を起した車両を移動させていますが、線路にはさまって・・・。
電車のほうもクレーンで・・・」


駅員は必死に状況を説明している。


んーー。
歩いて帰るには、遠すぎる。

川も何本か渡らなければいけない。

遠距離通勤者は本当に辛いなー。


引越前であれば、ここから前の家に無理にでも帰宅できたのに。

以前、終電がないとか乗過ごしたと称して家人が何度かこの駅から自宅へ徒歩で帰宅している。
引越前の家であれば国道沿いに2時間だ。


2年前までは自宅から自転車で勤務先まで15分だった。
ただ、会社は近かったが、出張は毎週のようにあった会社で、基本的に打ち合せは全て都内か客先で行うので、会社が近いというメリットはあまり感じられなかった。
そうそう。その頃は毎週週末に地方に出かけるので、近所のおばさんが、「浮気しているのかも?」などと色っぽい詮索までしてくれた。
残念ながら、朝一番の飛行機で出張し、最後の飛行機で終電で帰宅する私にそんな体力は無いんだ。


だからといって、前の会社・・・良かったかも・・とも思うが・・・。
妄想だ。

ええい!!妄想だってば!



一流企業だったとか、社風はスマートだったとか、僅かながら昇給もあったし、福利厚生も良かったとか・・・。

はい。ごめんなさい。泣き言です。


もっと若いころは、この付近の企業に10年位務めた。
毎日、バイクに乗って、会社に着いて。
・・・やっぱり、出張ばかりだった。
『関東トライアングル』と勝手に私が命名した3つの現場を同時に持っていて、それぞれ自宅から3時間半かかる現場を飛び回っていたではないか。


思えば、会社と自宅が近いかどうかなど、全く問題にならないのだ。
大体、自宅で自営の夫でさえ、車や電車で飛び回るではないか。
何だろう。


サラリーマンであろうとなかろうと、交通インフラの犠牲になるのは避けられない事なのだろうか。
労働力として搾取され、いいように低賃金でこき使われ、揚げ句にこれだ。
いっそ男であれば、一杯ひっかけて、カプセルホテルにでも泊ってしまえるのに。
律儀に帰宅しようとするその習性が恨めしくもある。


「何やってんの?」

携帯電話が鳴り、家に居る夫がいら立ちながら聞く。


「何してるのか、こっちが聞きたい」

「車で迎えに行こうか?」

「どうせ、道も混雑しているから、いいよ。自力で帰る」
どれだけ混雑した道を苦労して迎えに行ったか、武勇伝にされたら、面倒だ。


「○○だと混んでいるけれど、××まで歩いてくれれば、止められるよ」


!?電車止まってるのに、川を渡って2駅分歩けというのか?車を止めるために?
22時に。地図もなく。

そんな御都合主義で『お迎え』なんぞ来てもらっても、嬉しくない。
この人は自分のやりたいようにやり、相手の都合や気持など聞かずに、「喜んでくれると思った」というヘマをやる名人だ。


丁重にお断りしよう。


電話の向こうからはこの「祭り」に参加したいのだという意志が伝わってくる。


「事故でも起きたら大変。取り敢えず、大きいほうの駅で詳細を聞きに行ってくるから」
それだけ言って、電話の電源を切った。電池が切れたことにしよう。
22時28分。携帯電話の電源を切った。


電話で話してみて、確かに大きい駅で詳細を聞いたほうがいいような気がした。
隣の駅はJRが乗り入れていて、もっと混乱しているはずだが、そちらの駅の話のほうが信憑性がある気がした。

有言実行。

くるりときびすを返して、怒れる群集から離れた。


大きい駅は歩いて7分。
近いのだが、ショッピングモールやら、デパートやらファッションビルやらで囲まれているので、途中から車が通る道路ではなく、デッキのような道を延々歩かされる。
これを指して夫は「止め難い」と言うのだ。車を路上に止めて待つのが苦手なので、自分の止め易いところまで、平気で歩いてこいと言う。しかも短時間しか待てない。
マナーの良い運転かもしれないが、待っていてもらおうという気にならない。


こんな駅では絶対待ち合わせはできないな。
この混乱で駅前はひどい渋滞ができていた。


電車になだれこむとき、「どさささ・・・」と音がした。・・気がする。


朝のラッシュでもない。ゆうなれば夕方のラッシュでもない。


ただの痛勤難民が列車に押し込められて、また発車した。

座れはしなかったが、掴れる吊革があった。


手下げバッグの中には、重い新書が入っている。
やっとの思いで吊革につかまるも、バッグが隣の人にあたってしまった。



すいません。と頭を下げると。
「あ」



前の駅で見かけた人だ。
ついでに言えば、この路線に乗換えたときにも見かけた人だ。


「同志よ」心の中で小さくつぶやいた。


ともに難を被り、ともにシオンの地を目指して、電車に乗り続けようではないか!!!
なんてね。・・・なりきりユダヤ人か私は?


そんな選民は何人居るだろう。
次々に降りかかる災難にも、とにかく「家に帰る」という教義を掲げて頭を低く垂れて堪える修道者とも言える。


まだ、いいか。
これが、「社に赴く」となると情けない。

朝は全く社畜ではあったが・・・。


12時間前も確かに理不尽に「痛い目」にあって電車内に居たことは確かなのだ。

同志よ。同じ年ごろだろうか。少し疲れた感の否めない、同志よ。
ともに「家族の待つ家に帰る」べく、闘おう。


どうやってこの災難に向かって闘うのか術を知らぬが、艱苦奮闘して帰宅・・・・。
帰宅するのにそんなに努力が必要なのが、めちゃくちゃでもある。
水面の草藻のように、波打ち際の真砂のように、右に左に、ときにかき回され、砕けながらも抗うことなく、電車に乗り、家を目指す。



ああ。虚しい。

窓の向こうに走る家々の灯は、私のものではないのだ。
通勤の通は「痛い」と書くのよ。

知っているかい?道端の草よ。

私は一人ごちながら、重たい本を左手で差さえ、揺れる度に吊革をひっつかみ、
でもとにかくも、それから乗換え駅に辿り着いた。


私たちの目指すところへはこの路線で乗換えが必要だった。
今度や「ほぅっ」という溜息とともにホームに下り立った。

その駅からは終点まで乗ることとなる。


乗換えホームへ赴くと、改札のむこうにデパートが並んでいて、駅前のターミナルに青い光のモニュメントが立っていた。
ホームから垣間見る青い光がほんの少しほっとした。
携帯電話を取り出して、夫に21時39分に電車に乗ること夜空に浮かぶ光の美しさを伝えた。

「そりゃ、ご褒美だよ」と呑気な返事が返ってくる。
なんのご褒美か?つっこみどころでもあったが、携帯電話のバッテリー残が怪しくなってきたので押さえておくこととした。


そんなことで暇をつぶさなくても、こちとらぶ厚い新書を持っている。


ホームでは、振替輸送先の駅員が川の字にならぶ線路上の安全確認をやっていた。
大きく振り出す腕で指さし確認をするあれである。


先程、事故があったにもかかわらず優雅な動作に
「どうしたら、事故復旧が早いのか?」難民としては聞かせてもらえたらとさえ思った。

ただ、読み途中の本もあるし、次の電車は直に来るしで、やめておいた。



次に来た電車には、案外、多くの人が乗込んだ。
そのうちの何%かは振替輸送で乗込んできた人で、私の同志のはずである。
今まで乗込んだどの電車よりも明るい照明の中、終点に達した。


終点の改札はホテルと商業施設の入口に繋がっていた。


商売上手な路線らしく、いくつもの観光看板と娯楽施設、商業施設とスポーツ応援の看板が軽い音楽の中、立ち並ぶ駅だった。

半分強の人間は普通に改札を通り抜けるが、残りは振替チケットを駅員に渡しながら、一列になって駅を出ていく。


「もう、向こうは動いていますか?」
今度は確実に駅員に聞いておかねば。


「動くとは聞いていますが。行って確認してください」
聞くんじゃなかった。


当り前といえば、そう。でも、聞かないでいるよりはマシという返事であった。
それに、動いても、そうでなくても、ここでは下りるより、私に選択肢はない。


バス。大きなホテル前から出るバス。


バスでもどうにかなるかもしれない。ただ、この振替輸送先の駅同士であればバス網は充実しているが、そうでないので途中までしか届かなかった。夜、夜中、知らない土地で道端に置いていかれても心細いばかりだ。


改札を出て、ロータリーには路線バスやら、市バス、ホテルバスやら、空港バス、果ては高速バスも出ているようだった。


しかし、バスも用を成さなかった。


いや、でもさすがに元の路線も動いているだろう。
何せ事故があったのは、18時。


22時近くなった。
4時間だ。


あー。でも、朝、前轍を踏んだはずである。


これでは、騙されても騙されても懲りないおバカさんではないか。
おバカさんだよね。本当に。


人間関係でも、仕事関係でも懲りないおバカを露呈しているではないか。

どうしようかと、駅前で躊躇していると、同志達が元の路線駅を目指して歩を進めている。
そうか。


信じてみよう。どうせ騙されるならば集団で騙されれば少しは気が楽になるかもしれない。

△△駅で皆、一つになりかけていたではないか。
私はあのとき、自分が吐いた言葉に誰かが呼応した快感を思い出した。
あの一体感は何かイベントを成し遂げるときのそれに似ていた。
一人では何もできないが、誰かとならやれる。
誰かがやるなら応援できる。


駅員を殴ったオジサンを応援した群集のように!


応。

喧嘩上等。

痛勤困民党でも旗揚げするか!!

三日月に向けた顔が気分良かった。


に。しても。
高級ホテルの前にワンボックスの警察車両が止めてあり、駅前からやけに警官が多くなっていた。

彼等を視界に入れ、道を渡って、振替輸送の路線を後にした。