まず。
私鉄沿線にはよくあることだが、大きな乗換え駅とその側に小さな電車の始発駅がある。
大きな駅は、この市の玄関駅として、名を馳せている。
振替輸送の路線も当然、この玄関駅と接続している。
ただ、両会社の意見が合わなかったのか、この街の古い気質がそうさせたのか、玄関駅と振替輸送の駅は徒歩10分ほどかかる。
その他に始発駅があり、そこには徒歩3分で辿り着く。
始発駅からは上りも下りも電車が出ていく。
私は下りなのだが、事故があると、パターンとして始発駅から下りの終点までの折返し運転がまず復旧することがある。
まずは、始発駅への徒歩3分を目指す。
本当は大きな通りもあるのだが、車の通らない、他人様の軒先にある細い路を通って3分。
ただ、前の人について歩いていった。
始発駅では、1つしかない狭い改札に人垣ができていた。
△△駅と同じだった。
動いてないじゃん。
嘘つき。
ま、騙そうと思ってとか、貶めようと思って言ったことでないのは想像にかたくない。
「さすがに動いてるんじゃぁーーん???」
ってなノリなんだろう。あっちの路線は事実、すぐ復旧したのだから。
駅員がスピーカで何百回となく言い続けたであろう言葉を発っしている。
「復旧の見込は立っていません。このため、振替輸送を実施しております」
「復旧の見込がないってどういうことだよ!何やってるんだ?」
怒号が飛び交う。
・・。
さっき見た光景だよ。
ついでに言えば、そのやりとりは朝から何度繰り返しているんだ?
「ですから、今、事故を起した車両を移動させていますが、線路にはさまって・・・。
電車のほうもクレーンで・・・」
駅員は必死に状況を説明している。
んーー。
歩いて帰るには、遠すぎる。
川も何本か渡らなければいけない。
遠距離通勤者は本当に辛いなー。
引越前であれば、ここから前の家に無理にでも帰宅できたのに。
以前、終電がないとか乗過ごしたと称して家人が何度かこの駅から自宅へ徒歩で帰宅している。
引越前の家であれば国道沿いに2時間だ。
2年前までは自宅から自転車で勤務先まで15分だった。
ただ、会社は近かったが、出張は毎週のようにあった会社で、基本的に打ち合せは全て都内か客先で行うので、会社が近いというメリットはあまり感じられなかった。
そうそう。その頃は毎週週末に地方に出かけるので、近所のおばさんが、「浮気しているのかも?」などと色っぽい詮索までしてくれた。
残念ながら、朝一番の飛行機で出張し、最後の飛行機で終電で帰宅する私にそんな体力は無いんだ。
だからといって、前の会社・・・良かったかも・・とも思うが・・・。
妄想だ。
ええい!!妄想だってば!
一流企業だったとか、社風はスマートだったとか、僅かながら昇給もあったし、福利厚生も良かったとか・・・。
はい。ごめんなさい。泣き言です。
もっと若いころは、この付近の企業に10年位務めた。
毎日、バイクに乗って、会社に着いて。
・・・やっぱり、出張ばかりだった。
『関東トライアングル』と勝手に私が命名した3つの現場を同時に持っていて、それぞれ自宅から3時間半かかる現場を飛び回っていたではないか。
思えば、会社と自宅が近いかどうかなど、全く問題にならないのだ。
大体、自宅で自営の夫でさえ、車や電車で飛び回るではないか。
何だろう。
サラリーマンであろうとなかろうと、交通インフラの犠牲になるのは避けられない事なのだろうか。
労働力として搾取され、いいように低賃金でこき使われ、揚げ句にこれだ。
いっそ男であれば、一杯ひっかけて、カプセルホテルにでも泊ってしまえるのに。
律儀に帰宅しようとするその習性が恨めしくもある。
「何やってんの?」
携帯電話が鳴り、家に居る夫がいら立ちながら聞く。
「何してるのか、こっちが聞きたい」
「車で迎えに行こうか?」
「どうせ、道も混雑しているから、いいよ。自力で帰る」
どれだけ混雑した道を苦労して迎えに行ったか、武勇伝にされたら、面倒だ。
「○○だと混んでいるけれど、××まで歩いてくれれば、止められるよ」
!?電車止まってるのに、川を渡って2駅分歩けというのか?車を止めるために?
22時に。地図もなく。
そんな御都合主義で『お迎え』なんぞ来てもらっても、嬉しくない。
この人は自分のやりたいようにやり、相手の都合や気持など聞かずに、「喜んでくれると思った」というヘマをやる名人だ。
丁重にお断りしよう。
電話の向こうからはこの「祭り」に参加したいのだという意志が伝わってくる。
「事故でも起きたら大変。取り敢えず、大きいほうの駅で詳細を聞きに行ってくるから」
それだけ言って、電話の電源を切った。電池が切れたことにしよう。
22時28分。携帯電話の電源を切った。
電話で話してみて、確かに大きい駅で詳細を聞いたほうがいいような気がした。
隣の駅はJRが乗り入れていて、もっと混乱しているはずだが、そちらの駅の話のほうが信憑性がある気がした。
有言実行。
くるりときびすを返して、怒れる群集から離れた。
大きい駅は歩いて7分。
近いのだが、ショッピングモールやら、デパートやらファッションビルやらで囲まれているので、途中から車が通る道路ではなく、デッキのような道を延々歩かされる。
これを指して夫は「止め難い」と言うのだ。車を路上に止めて待つのが苦手なので、自分の止め易いところまで、平気で歩いてこいと言う。しかも短時間しか待てない。
マナーの良い運転かもしれないが、待っていてもらおうという気にならない。
こんな駅では絶対待ち合わせはできないな。
この混乱で駅前はひどい渋滞ができていた。