私の住んでいる町の辺りは昭和30年代までは東京郊外の畑や林の多い農村風景の残る静かな住宅地で、戦前から結核治療のための病院や療養所がいくつもあったので知られている。だから激増した住宅地のあちこちに今も大小の病院があり、敷地には広い林が広がっていることが多い。

 

 まだ作家になる前の藤沢周平が結核治療のために私の家の近くに昔あった療養所にしばらくいた時のことを前に「藤沢周平と俳句」に書いたが、そうした病院の一つに今も残る広い林にはあまり人に知られずにキンランやギンランが連休の頃になると静かに咲いている。いつまでもこの静かさが続くように願いながら今年も写真を撮った。

 

 よく手入れがされた林の中にはキンランの黄色がたくさんあるが、ところどころに背の高いササバギンランが、キンランに隠れるように小さなギンランが咲いている。そして今では貴重になった野草たちも。