―留置場にて―
とても不思議に感じられたことがあった。
今朝起床して布団を収納しに房を出て戻った後、
房内の厠(かわや)で小用を足していたら
ふと
『新しくもう一度誕生して違う生命となって輪廻の流転に戻っても、そうなっても、別に良いかもしれないな』と思った。
悟道を知ってから、そんな事を考えることは無く、そんな思いを持つ時が来るなど予想外であった。
これを思ったその時、ほんの一コマ、一瞬の閃きに
『小学生くらいの少年として、畦道(あぜみち)を早足で歩いているようで、地面を蹴りながら進む、自分の足先(靴も靴下も履いていた)を見ている映像』が、生々しく頭に浮かんだ。
同時にその少年らしき者の気持ち、また生きている感触や、その少年の心情が暖かいものとして感じられ、伝わってきた。
幻覚や不可思議な出来事というのではなくて、もっと単純な、ふっと湧いたイメージなのだけど、
なにより
「もう一度、生まれ変わってもかまわない」
と思ったことが不思議で、自分でも「何があったのだろうか?」と疑問に思うくらい衝撃だった。
…二日前に「歎異抄(たんにしょう)」、前日に「オーデュポンの祈り:伊坂幸太郎、著」を読んだことの影響はあるかも、と後に思い考ええたのだが、
その理由は忘れてしまった。