電車
バスや、電車や、タクシーや。
乗り物に乗るといつでも、
降りるのがおっくう。
最寄りの駅を素通りして、
このままぼんやりしながら、いつまでも乗っていたい。
永遠に、つめたい夜に吸い込まれて。
たぶんそれは、私には、帰る場所があるから。
だから私は逃げたくなる。
私を追いかけて来ないで。
どこまでも、どこまでも、
走っても、走っても逃げ切れない。
電車を降りて、真っ暗な道を、まっすぐに家路に向かう。
目の端にとらえる、オレンジの明かり。
私はほっと胸をなでおろす。
きょうも無事に帰って来られた。
きょうもこの家は変わらずにここにある。
駅の名前がアナウンスされる。
降りなきゃ。
だけどからだが動かない。
とびらが開く。
何人かが降り、何人かが乗り込んでくる。
みんなうつろな顔をしている。
無遠慮に、きっぱりと、扉が閉まる。
ああ、ついに、閉まった。
いつかこうなる日が来ると思っていた。
だけど、それが、今日だとは。
あたしにはもう、帰る家は、ないのだ