あらすじ
1950年代、米国ニューメキシコ州の小さな町ケイリーン。
高校のバスケットボール試合で町がにぎわう夜、ラジオDJのエヴレットと交換台で働く少女フェイは、偶然“奇妙な音”を拾ってしまう。正体不明で、機械とも人間ともつかないそのノイズは、電波を乗っ取り、町の通信網に忍び込んでくるようだった。
エヴレットがラジオでその音を流すと、放送を聴いていた元軍関係者から突然の電話が入る。
「その音を、昔どこかで聞いたことがある……政府に“消された”出来事と関係しているかもしれない。」
さらにフェイは、誰かが町はずれの空に“光”を見たという通報を受ける。
やがて二人は、住民たちが知らない秘密がこの静かな町に埋もれていること、そしてその夜に限って“何か”が接近していることに気づき始める。
製作国・地域:アメリカ上映時間:89分
監督
アンドリュー・パターソン
脚本
ジェームス・モンタギュー
クレイグ・W・サンガー
出演者
シエラ・マコーミック
ジェイク・ホロヴィッツ
ゲイル・クロナウアー
ブルース・デイビス
シャイエン・バートン
つぶやき
映画自体は派手なVFXやパニックシーンに頼らないのに、背筋がぞわっとするような感覚だけはずっと残り続ける。こんなタイプの作品、近年では珍しい。
舞台は1950年代のニューメキシコの片田舎。映画は、町の人々のざわめきやアナログな機械音の残るラジオブースの空気感を丁寧に積み重ねていく。その“音の膜”に包まれているだけで、この世界に入り込んでしまう。主人公のエヴレットとフェイが交わす早口の会話は、まるで観客をそのまま現場に連れていくようで、気がつけば自分も彼らと同じ夜を過ごしている気分になる。
この映画の素晴らしさのひとつは、“見せない怖さ”を極限まで突き詰めている点だ。画面のほとんどは、ふたりの動きと暗闇、そして電話線や録音機といったアナログ機器が映るだけだ。それなのに、聞こえてくる不可解な電波音や、電話口の老人が語る過去の体験談だけで、観客の想像力はどんどん加速していく。何かが近づいている気配だけが、その夜の空気をじわじわと押し広げていく。
そして、この映画はその“気配”を決して裏切らない。
特に印象的なのは、長回しを大胆に使ったワンシーン。カメラが町の中を滑るように横断し、別のキャラクターの元へ届くまでの映像は、まるで自分が町の上空を漂う幽霊になっているような浮遊感があり、この映画の謎めいたテーマと恐ろしいほどマッチしている。おそらく監督が最もこだわった部分の一つだと思う。
フェイとエヴレットの関係性も魅力的だ。恋愛感情を匂わせすぎず、それでいて互いに信頼が芽生えていく様子が、あの短い夜の中に自然に溶け込んでいる。二人とも“誰かに聞いてほしい、理解してほしい”という思いが強く、未知の現象に対する恐怖よりも、真相を突き止めたいという衝動が勝っている。それがまた、観客を彼らと同じテンションまで引きずり込む。
物語の終盤、夜は深く静まり返り、誰もが気づかない場所で何かが“選択”される。答えは描かれているようで描かれていないのに、妙に納得してしまう。この余白の残し方は、古典的SFドラマへの愛と敬意が詰まりつつも、しっかり現代的なセンスで再構成されている。
映画全体の尺は短いが、だからこそ余計なものが何一つなく、すべてが“この夜に起きた出来事”を語るためだけに研ぎ澄まされている。観終わってから、静かな夜の外に出るのが少し怖くなる──そんな感覚を味わいたい人には、心からおすすめしたい一本だ。
