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浮遊家具

映画 大好き また 始めたいと思います。黄斑変性、SLE、双極性障害で仕事ができなくなり、一人、家の中にいる自分、置き場所のない浮遊して漂う家具よう。ただ、時間だけが進んだ、治癒は進み現在に至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あらすじ

孤児を集めて暗殺者とバレリーナを養成するロシア系犯罪組織:ルスカ・ロマ。裏社会に轟く伝説の殺し屋:ジョン・ウィックを生み出した組織で殺しのテクニックを磨いたイヴは、幼い頃に殺された父親の復讐に立ち上がる。しかし、裏社会の掟を破った彼女の前に、あの伝説の殺し屋が現れる..






製作国・地域:アメリカ上映時間:125分


監督

レン・ワイズマン

脚本

シェイ・ハッテン

主題歌/挿入歌

Evanescence

出演者

アナ・デ・アルマス

アンジェリカ・ヒューストン

ガブリエル・バーン

ノーマン・リーダス

イアン・マクシェーン

キアヌ・リーヴス

ランス・レディック

カタリーナ・サンディノ・モレノ






つぶやき

ジョン・ウィックの世界を拡張するスピンオフとして公開された『バレリーナ』は、シリーズの激しい暴力と独自の美学を受け継ぎつつ、全く新しいヒロインを中心に据えた作品だ。物語は、幼い頃に父親を殺され孤児となった主人公イヴが、暗殺者の集団「ルスカ・ロマ」に育てられ、やがて復讐のために世界へ踏み込んでいくというシンプルな復讐劇を軸にしている。けれどその“復讐”が単なる動機に留まらず、彼女の身体性や心の揺らぎと密接に結びついており、観ていると彼女の動きのすべてが怒りと喪失の延長線にあるように感じられる。

中盤に入るまではややゆったりした導入が続き、観客がイヴの痛みや彼女を取り巻く世界に馴染むまでには少し時間がかかる。だがそれを越えると、映画は一気にギアを上げていく。雪の降るレストランでの乱闘シーン、そして終盤にかけてのガンアクションと肉弾戦は、まるで“暴力の舞踏会”を見ているかのようで、ジョン・ウィック本編とは異なる流れを持ちながらも、確かに同じ世界の血を引いていることを強く感じさせる。イヴが持つバレリーナとしての身体のしなやかさがアクションに優雅さをもたらし、銃撃戦や格闘がただの戦闘ではなく、振り付けられたダンスのように見える瞬間がある。

主演のアナ・デ・アルマスは、アクションの負荷はもちろん、感情の重さを抱えた女性としての存在感をスクリーンにしっかり刻んでいる。彼女の静かな表情の裏にある怒りや恐怖、そして孤独がふとした仕草から滲み出ていて、この役が単なる“アクションヒロイン”ではなく、一人の傷ついた人物として描かれていることを実感させてくれる。ただ、その一方で彼女の過去や内面がもっと深く描かれたなら、物語全体の厚みはさらに増しただろうとも感じた。復讐に突き動かされる人物としては充分成立しているものの、心の底にある何かをもっと掘り下げれば、より強いドラマとしての説得力を持てたかもしれない。

シリーズおなじみの人物たちが登場する場面では、ファンなら思わずニヤリとするだろう。コンチネンタルホテルやルスカ・ロマの存在が“ああ、確かにこの世界だ”と実感させてくれる。ただし、あくまで中心となるのはイヴであり、彼らは物語を支える脇の存在にとどまる。ジョン・ウィック本人を期待して観ると肩透かしを食らうかもしれないが、この作品はあくまで“ウィック世界に生きる誰かの物語”であって、本流の延長ではないと理解して観ると、その側面こそ面白く感じられるはずだ。

観終わったあとに残る感覚は、「これはジョン・ウィックシリーズのコピーではない」という強い印象だった。アクションの豪快さや世界観の緻密さは確かにシリーズのDNAを引き継いでいる。だが作品の軸にあるのは“流麗な身体の動きと、感情の衝動で爆ぜる暴力の共存”というテーマで、その点では本編以上に“身体で語る映画”だと思う。後半のアクションに至っては、ただ圧巻の一言で、身体が反応してしまうような興奮がある。

完璧な映画ではない。ドラマ部分の深掘り不足や序盤のもたつきは確かに感じる。それでも、この世界の別の端で燃えている復讐の炎、そしてそこから生まれるひとつの“殺しの舞”を描いた本作は、シリーズの“外伝”としては十分以上の魅力を放っている。もし今後、イヴの物語がさらに続くなら、その成長や葛藤をもっと深く見たいと思わせてくれるだけの力が、この映画には確かにある。