浮遊家具 -3ページ目

浮遊家具

映画 大好き また 始めたいと思います。黄斑変性、SLE、双極性障害で仕事ができなくなり、一人、家の中にいる自分、置き場所のない浮遊して漂う家具のよう。ただ、時間だけが進んだ、治癒は進み現在に至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あらすじ

結婚して十五年目、事故で夫が死んだ。
夫とは長く倦怠期で、不仲なままだった。
残された妻は第二の人生を歩もうとしていた矢先、タイムトラベルする術を手に入れる。
戻った過去には、彼女と出会う直前の夫の姿があった。






製作国・地域:日本上映時間:124分


監督

塚原あゆ子

脚本

坂元裕二

主題歌/挿入歌

優河

出演者

松たか子

松村北斗

吉岡里帆

森七菜

リリー・フランキー






つぶやき

物語は、長い結婚生活の終わりから始まる。主人公のカンナは、結婚15年目の夫・駈との関係がすっかり冷え切った状態で日々を過ごしている。会話は減り、互いの存在が生活の一部として惰性で続いているだけのような関係だ。そんな中、駈は事故で突然亡くなってしまう。離婚を考えていたほど距離ができていた夫婦だっただけに、カンナの心に残るのは純粋な悲しみというよりも、「何も整理できないまま終わってしまった人生」の重さだった。

ところがある出来事をきっかけに、カンナは過去へ戻ることになる。時間は15年前。まだ駈と出会う前の世界だ。そこで彼女は若い頃の駈と出会い、もう一度恋をすることになる。しかしカンナだけは知っている。目の前のこの青年が、15年後に死んでしまうという未来を。つまりこの物語の恋は、最初から結末を知った状態で始まる恋なのである。

この映画の特徴は、タイムトラベルという設定をSFの仕掛けとしてではなく、「結婚を見直すための装置」として使っている点だ。多くの恋愛映画は、出会いから恋へ、恋から結婚へと進んでいく。しかしこの作品は逆の順序を取る。最初に見せられるのは、冷えきった夫婦関係と突然の死。そしてその後に、恋の始まりをもう一度体験する。観客は「終わりを知ったまま始まりを見る」という、少し残酷な構造の中で物語を追うことになる。

カンナはやがてある可能性に気づく。もし自分が駈と出会わなければ、彼は事故に遭わずに生き続けるかもしれない。つまり、彼を救う最も確実な方法は「彼と恋をしないこと」なのではないかという考えだ。愛する人を救うために、その人の人生から自分が消える。恋愛映画としては極めて逆説的なテーマが、静かに浮かび上がってくる。

脚本の 坂元裕二 らしさは、こうした重いテーマを大げさなドラマとして描かないところにある。登場人物たちは哲学的な台詞を語るわけではない。むしろ何気ない会話、少し気の抜けたやり取り、日常の中の沈黙といった細部の積み重ねの中で感情が少しずつ見えてくる。そのため観ている側は、登場人物の感情を「説明」されるのではなく、時間を共有することで理解していく感覚になる。

演技面では、松たか子の存在感が際立つ。未来を知っている女性が、何も知らない若い恋人の前で普通に振る舞わなければならない。その複雑な心理を、彼女は大きな感情表現ではなく、視線や表情の微妙な変化で表していく。一方で松村北斗の演じる若い駈は、未来を知らない純粋さそのものだ。その無防備な明るさがあるからこそ、カンナの葛藤がより痛々しく見えてくる。

作品全体として見ると、この映画が本当に描いているのは恋愛ではなく「時間」だと思う。恋は一瞬の感情だが、結婚は長い時間の積み重ねだ。この物語はその時間をいったん壊し、もう一度最初から見つめ直す。そして最後に浮かび上がるのは、「あの時間は無駄だったのか」という問いではなく、「その時間があったからこそ今の選択がある」という感覚に近い。

観終わった後に残るのは、大きなカタルシスというよりも静かな余韻だ。劇的な映画ではないが、人生の選択や長い関係について考えさせる力を持っている。そしてタイトルの「ファーストキス」は単なる恋の象徴ではなく、人生をもう一度始める瞬間そのものを指しているように感じられる。