あらすじ
主人公は、レーシングドライバーを目指す青年・デニーと彼の愛犬エンツォ。エンツォは人間のように物事を理解し、ドライビングや人生についてデニーから多くを学んでいきます。
デニーは結婚し、娘が生まれ、幸せな家庭を築きますが、やがて妻の病気や義理の家族とのトラブルなど、数々の試練に直面します。そんな中でも、エンツォはデニーのそばで彼を支え続け、人生を「雨の中のレース」のように乗り越えていく姿を見守ります。
製作国・地域:アメリカ上映時間:109分
監督
サイモン・カーティス
出演者
エンツォ(声)ケヴィン・コスナー
マイロ・ヴィンティミリア
アマンダ・サイフリッド
キャシー・ベイカー
マーティン・ドノヴァン
ゲイリー・コール
アル・サピエンザ
カレン・ホルネス
つぶやき
一見すると「犬と飼い主の絆」を描いた感動作のようでいて、その実、人生そのものを走り抜ける“レース”の寓話でもある。物語を導くのは、犬のエンツォ。彼の視点から語られることで、私たちは人間の喜びや悲しみ、愚かさまでも、どこか距離を置いて、しかし温かく見つめ直すことができる。
映画の前半は、エンツォとデニーの関係がとても穏やかで、まるで兄弟のようだ。デニーがサーキットで夢を追う姿を、エンツォはまなざしに誇りを浮かべながら見守る。その彼が「雨の中こそ、真のドライバーが試される」と語る場面は、映画全体のテーマを象徴している。人生には晴れの日ばかりではなく、思い通りにいかない“雨”が必ず訪れる。そのとき、どうハンドルを切るか——それが生きることの意味なのだと、この映画は優しく教えてくれる。
デニーの人生は、後半にかけて急激に苦しくなる。妻の死、娘との別れ、理不尽な訴訟。そこにあるのは“愛と喪失”の連続であり、人間の世界の不条理だ。それでも、エンツォは決して彼を見放さない。彼の目線はあくまで落ち着いていて、どんな悲劇の中にもユーモアと希望を見いだそうとする。犬である彼が、人間よりもずっと「人間らしい」存在として描かれているのが印象的だ。
特に心を打たれるのは、エンツォが自分の死期を悟りながらも、「次の人生ではレーサーになる」と信じるラストシーンだ。これは単なる“輪廻”や“夢の続き”というよりも、彼が学び取った人生哲学の集大成なのだろう。どんなに困難な状況でも、自分の信じる方向へハンドルを切り続けること。それが彼の、そしてデニーの生き方だった。
涙を誘う場面は多いが、決して悲しみだけの映画ではない。むしろ観終わったあとには、不思議な温かさと前向きな気持ちが残る。愛する者を失っても、人生のレースは続いていく——そう感じさせてくれる静かな余韻が、この作品の最大の魅力だと思う。
犬を飼ったことのある人はもちろん、夢を追い続ける人、人生の「雨の中」を走っている人にこそ、この映画は深く響く。エンツォのまなざしを通して見る世界は、どこまでも優しく、そして誠実だ。
