あらすじ
ウィリー、ジョー、アルの3人は慎ましくも幸せな老後生活を送っていた。ところがある日、長年勤めていた会社の合併によって、年金を止められてしまう。このことをきっかけに、彼らはある企てを決意。なんとしてでも今までの生活を取り戻し、愛する家族と仲間たちとの幸せな余生を続けられるよう、3人は銀行のお金を奪おうと、大胆で危険な賭けに出るが……。
製作国・地域:アメリカ上映時間:96分
監督
ザック・ブラフ
脚本
セオドア・メルフィ
出演者
モーガン・フリーマン
マイケル・ケイン
アラン・アーキン
ジョーイ・キング
アン=マーグレット
クリストファー・ロイド
ピーター・セラフィノウィッツ
マット・ディロン
マリア・ディッツィア
ジョン・オーティス
ジョシュ・パイス
メラニー・ニコルズ=キング
つぶやき
年金の打ち切りや住宅ローンの問題など、現実の社会問題を真正面から扱いながらも、映画全体にどこか温かい風が吹いている――そんな不思議なバランスが、この作品の魅力だと感じた。主人公の三人が置かれた境遇は決して軽くない。長年働いた末に報われない老後、頼るべき制度が突然足元を崩してくるような不安。その重さを冒頭から丁寧に描き、観客にも「これは他人事ではない」と静かに訴えかけてくる。にもかかわらず、映画のトーンは暗く沈み込みすぎず、むしろ人生に対するユーモアとしたたかな希望がにじみ出ていて、観ているうちに三人の奮闘を心から応援したくなる。
特に印象に残ったのは、三人の友情の描き方だ。高齢になってからの友情は、若い頃のそれとは質が違う。長い年月のあいだに積み重ねた信頼や、言葉にしなくても分かりあっている空気感が画面から伝わってくる。銀行強盗という一歩間違えれば悲惨な行為ですら、彼らが決断するとどこか“余生の冒険”のように見えてしまうのは、この関係性がとても真摯に描かれているからだと思う。老いた身体で作戦の練習をしているシーンなどは思わず笑ってしまうのに、そこに流れているのは、人生を諦めたくないという切実な願いだ。
また、作品全体に漂う“老人映画”特有の安易な哀愁に収まらず、社会への皮肉がさりげなく効いているところも好ましい。大企業や銀行の冷酷さがリアルで、観客の多くが彼らの計画に共感してしまうのも無理はない。正義の定義が時代とともに揺れていく中で、弱者が自分の dignity を守るためにどう振る舞うのか――この映画はその答えを単純化せず、でも温かく描こうとしている。
そして終盤、計画が少しずつ実現へ向かうあたりのテンポの良さは、老人三人が主役とは思えないほど爽快で、まるで若い頃の犯罪コメディを思わせる勢いがある。キャスト陣の演技力が抜群で、特にモーガン・フリーマン、マイケル・ケイン、アラン・アーキンの三人が見せる“長年人生やってます感”は、ただ座って喋っているだけでも説得力がある。人生経験を重ねた役者の余裕が、そのまま映画の魅力になっている。
この作品は、年齢を重ねることの切なさとおかしみ、そして人生にまだやれることがあるという小さな勇気を、軽やかに混ぜ合わせた作品だと感じた。観終わった後にふっと笑顔になれるし、「もう遅いなんてことはない」とささやいてくれるような温度を持っている。社会的なテーマを抱えつつも、観客の心を優しく包むようなヒューマン・コメディとして、とても心地よい一本だった。
