あらすじ
ボストン郊外で便利屋として生計を立てている主人公が、兄の死をきっかけに故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーへと戻り、16歳の甥の面倒を見ながら過去の悲劇と向き合っていく―。
製作国・地域:アメリカ上映時間:137分
監督
ケネス・ロナーガン
脚本
ケネス・ロナーガン
出演者
ケイシー・アフレック
ミシェル・ウィリアムズ
カイル・チャンドラー
ルーカス・ヘッジズ
カーラ・ヘイワード
ベン・オブライエン
クインシー・タイラー・バーンスティーン
ミッシー・ヤガー
スティーヴン・ヘンダーソン
メアリー・マレン
ルイス・D・ウィーラー
C・J・ウィルソン
スーザン・プルファー
つぶやき
ケイシー・アフレックが演じるリーの表情を、映画は決して急がせない。彼が町に戻ってくるたびに、過去の何かが静かに疼きはじめるのを、私たちは遠くから見つめるしかない。海の見える住宅地、冬の鈍い光、広がる静寂——それらがリーの心の内側にある巨大な空洞を、埋めることも、照らすこともできない。むしろ、彼が抱え込んだ「取り返しのつかないもの」を、よりはっきり縁取ってしまう。
この映画が美しいのは、救済を安易に提示しないところだ。ハグひとつで癒える傷もなければ、過去と未来をつなぐ劇的な転換点も用意されていない。むしろ、人生は時に、人を完全には立ち直らせないまま続いていくのだという現実を、柔らかいまま差し出してくる。リーと甥のパトリックが、ときにぎこちなく、ときに温かく距離を縮める場面がある。だがその瞬間にも、リーの胸に沈む重りは決して消えない。消えないままでも、人は誰かのそばに立つことができる——映画が語るのは、その静かな可能性だ。
ミシェル・ウィリアムズが演じるランディとの再会シーンは、本作の核心の一つだろう。互いに謝罪しようとするのに、言葉が追いつかず涙が先にあふれる。あの場面のぎこちなさと温度は、いかにも“人間の感情”そのもので、観客として胸が痛む。人生を壊してしまったあとに、どうしても消せない罪悪感と、それでも相手を思い続ける優しさが絡まり合う。赦すことの難しさと、赦されたいという願いが、同時に漂っている。
映画全体を通して、マンチェスターの海辺はほとんど感情のように存在する。冷たく、美しく、逃れられず、どこか懐かしい。その海を背にしたリーの孤独は、観客に「自分だったらどう生きるのか」を静かに問いかけてくる。人生は立ち直るためではなく、ただ続けるために続いていく。その過程で、誰かがそばにいてくれたり、思いがけず笑ってしまったり、少しだけ荷物が軽くなる瞬間があったりする。 この映画は、そういうささやかな“生き延びる力”を丁寧に写し取った物語だ。
