浮遊家具

浮遊家具

映画 大好き また 始めたいと思います。黄斑変性、SLE、双極性障害で仕事ができなくなり、一人、家の中にいる自分、置き場所のない浮遊して漂う家具のよう。ただ、時間だけが進んだ、治癒は進み現在に至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あらすじ

年老いた未亡人トーヴァは、彼女が働く水族館に暮らす気難しい巨大なミナミダコ、マーセラスと、思いがけない友情を育んでいく。しかしトーヴァの知らぬところで、マーセラスはある“使命”を胸に秘めていた。それは、彼女の心を癒やし、人生を大きく変える発見へと導く謎を解き明かすこと。






製作国・地域:アメリカ上映時間:109分


監督

オリビア・ニューマン

脚本

オリビア・ニューマン

ジョン・ウィッティントン

原作

シェルビー・ヴァン・ペルト

出演者

サリー・フィールド

ルイス・プルマン

アルフレッド・モリーナ

コルム・ミーニイ

ジョアン・チェン

キャシー・ベイカー

ベス・グラント

ソフィア・ブラック=デリア

ローラ・ハリス






つぶやき

物語の中心にいるのは、海辺の小さな水族館で夜間清掃員として働く老女トーヴァ。彼女は長年ひとりで暮らしている。家族との距離、失われた時間、埋まらない空白。そういうものを抱えながらも、それを誰かに説明しようとはしない人だ。

この映画は、その“説明しない孤独”を描くのが異常にうまい。

トーヴァは決して感情を大きく爆発させない。悲劇を語り続けるわけでもない。ただ、閉館後の静かな水族館を黙々と掃除する。その姿だけで、人生の長さが伝わってくる。

そして彼女が出会うのが、巨大なミズダコ・マーセラス。

普通なら、こういう映画は「動物が人間を変える感動作」になりがちだ。でもこの作品は、マーセラスを“癒やしのマスコット”として扱わない。むしろ彼は妙に知的で、皮肉屋で、人間を冷静に観察している存在として描かれている。

その距離感がすごくいい。

タコは犬みたいに懐かないし、猫みたいに甘えもしない。ただ、水槽の向こうから静かにこちらを見ている。その視線が、トーヴァの閉ざされた時間に少しずつ入り込んでいく。

特に印象的だったのは、夜の水族館の描写。

この映画、館内の静けさが本当に美しい。青白い照明、水の反射、ガラス越しの影、遠くで鳴るポンプ音。閉館後の空間がまるで“海の底”みたいに感じられる。

人間の世界から少し切り離された場所。

そこでトーヴァとマーセラスは、言葉ではなく“存在”だけで交流していく。

しかも映画は、その関係を過剰に感動的に演出しない。ここがかなり好きだった。

泣けと言わない。
奇跡を押し付けない。
人生を全部解決もしない。

代わりに、「人は孤独のままでも、誰かと静かにつながることはできる」という感触だけを残していく。

途中から登場する青年キャメロンも、実はかなり重要な存在だ。彼は若いのに人生の輪郭が曖昧で、自分の居場所を持てない。トーヴァとは真逆のようでいて、“時間に取り残されている”という意味ではよく似ている。

だからこの映画は、世代を超えた再生の物語でもある。

ただし、かなりゆっくり進む映画ではある。

派手な展開は少ないし、テンポも穏やか。最近の映画に多い“5分ごとに刺激を入れる構成”とは真逆。人によっては退屈に感じると思う。

でも、この作品はたぶん“眺める映画”なんだと思う。

水槽をぼんやり見ている時間に近い。

気づけば、登場人物の感情が水の中でゆっくり溶けていくように伝わってくる。

あと、マーセラスが本当に絶妙だった。

可愛いのに、どこか異質。
賢そうなのに、人間を少し呆れて見ている感じがある。
八本脚で器用に動き回る姿には確かに愛嬌があるのに、同時に「人類とは違う知性」を感じさせる不思議さがある。

そのせいで観ている側も、いつの間にか彼を“動物”というより、一人の登場人物として見始めてしまう。

ラストもすごく好きだった。

大団円というより、“潮が静かに満ちる”ような終わり方。

全部が劇的に救われるわけじゃない。でも、長い間止まっていた感情が少しだけ動き始める。その小さな変化が、やけに心に残る。

観終わったあと、派手な余韻はない。

でも数日後、ふと「夜の水族館って、あんなに静かなんだろうか」と考えてしまう。

そして、水槽の向こうからこちらを見返している生き物に、人間は案外ずっと見透かされているのかもしれない――そんな感覚だけが静かに残る映画だった。