「変わったもの」「変わらないもの」に続きまして、
今日のテーマは「変えてはいけないもの」


皆様もご存知と思います、そして不思議に思われる方もおられるかもしれません。
歌舞伎のタイムテーブル。

初日から数日は、多少早まることがあり、変更されることも
時々ありますが、基本的に歌舞伎はロビーに貼ってあります
「タイムテーブル」通りにお芝居が行われます。

 

生の演技、生の演奏にもかかわらず。
ほぼ、時間通りに始まり、終わります。

 

「終演20時49分」
50分でええんちゃうん?と思いますが、49分なのです。
そして、本当に49分に終わります(笑)

 

そのために、私たちはいつも分単位秒単位で毎日同じことをしているわけなのです。

時計を見ることもありますが、たいてい自分の中のきっかけは
「この音楽が鳴り始めたときに、顔を始める」
「楽屋モニターのこのセリフを聞いたら そろそろ衣装」
といった感じで、毎日行われるのです。

 

毎日同じように舞台が進行しておりますので、同じきっかけで行動をするのです。
「変えてはいけない」流れです。

 


が、これには時々落とし穴がございます。

昔何度か書かせていただきましたが、いつもと少し違うことがありますと、

大変なことになってしまいます。
まさに、毎日のルーティンは「変えてはいけない」のです。
変えてしまったら、舞台が大変なことになることも・・・あります(笑)

 

四段目の大星由良助が出てこなかったり、『伊勢音頭』で喜助が出てこなかったり
それこそ、山のようにあります(笑)残念なことに。

 


私は、何かあったかなあ?と思いましたが、私の思い出よりも
父から聞いた話のほうが印象に残っておりますので、そちらを。
確か書いたことはなかったと思いますが、もし重複してましたらご容赦ください。

 

父、六代目嵐冠十郎が若かった時のお話です。
まだ私が生まれるはるか前です。

 

その時に父は『寺子屋』の松王丸とともに出てくる黒四天のお役でした。
黒四天は名題下ですので、たいてい全員が大部屋に入ってます。

 

まだ楽屋モニターなど無い頃 その時のきっかけは、寺入りの小太郎役の子役さんが

帰ってきたら みな出番の花道へ向かう といった具合だったのだそうです。
毎日、「子役さんが帰ってきたら」・・・と云うきっかけでした。


が、ある日、子役さん楽屋に戻る途中の廊下か階段で誰かと会って
話し込んでしまったそうです。
いつもの時間に戻ってきませんが、大部屋では気づきません
きっかけまだやな くらいの気持ちなのです。
「変えてはいけない」ものが 変わってしまった!


ここまで来ましたら皆様きっとご想像がつきますでしょう(笑)


ハッと気が付きましたら、松王の出の直前!の太鼓の音、
皆焦りますよね。
必死に、死に物狂いで花道へ向かいます・・・。

 

が、なんとか間に合ったのが、8人中たった3人!
しかも、松王が乗ってくる(一応乗っているはず)の駕籠かきも、
1人しか間に合いません!

 

結果、8人いるはずの黒四天、2人のみが供として花道から出ます。
駕籠は、出ないと松王が登場できませんので、駕籠かき一人と黒四天が
担いで出ていきます。

 

花道の途中くらいで2人か3人の黒四天が必死のパッチで登場して合流。

本舞台に到着しましたら、下手からそ~っと、黒四天が合流。


もう、こうなりますと、客席も大笑いするしかございません
神妙な場面が一気に喜劇になってしまったことでしょう。
その日のお客様には 申し訳ありませんが、毎日の舞台、こんなことも なくはありません。

 

変えてはいけないのです、毎日の行動は・・・
ですが、皆がそれだけを頼りにしていては いけないのですが。


父は、この時間に間に合った黒四天なのか、間に合わなかったのか?
これは何と言っていたのか 覚えておりません

ですが、必死に走ったといっておりましたので、おそらく遅れて
合流したほうだったのでしょうね(笑)

 

 

細かいことでは、本当にたくさんあります。
毎日同じ流れで、こうして、こうして、その後にあれを持って。
という流れの途中に、話しかけられたりいたしますと、小道具を
忘れそうになることもあります。

 

一連の流れになっていることが よいことなのか悪いことなのか。

でも、この流れは「変えてはいけないもの」です(笑)

 

 

ちなみに、毎日同じ時間の終演ですので、地下鉄通勤をしております時は
毎日同じ時間の地下鉄に乗ります。

判で押したように、日比谷線に乗り、日比谷で乗り換えるのですが、
この乗り換えが、歩いていては間に合わないことがあるのです。

 

普通に歩いてますと、次のホームについたときに、地下鉄のお尻を
見送るというとても悔しい思いをするのです。

別に一本後の電車に乗ってもいいのですが、間に合わないなら
間に合わないでいいのですが、出たところの車両が見えてしまうと
どうしてもそれに乗りたくなってしまいます。

 

こんな意地は「変えてしまったら」良いのでしょうが、
一度乗ってしまいますと、翌日からは 毎日毎日走ります。
速足程度ですが、走ります。

そして、乗り換えて達成感を感じながら、地元の駅まで帰ります。
これも、ある種変えればいいのに、「変えてはいけないもの」なんでしょうね(笑)

 


今は、地下鉄に乗ることもなく、舞台に立つこともなく、
全く 変わってしまった 生活になっておりますが、
それでも、「変えてはいけないもの」として、毎日のブログの更新
続けております。

 

が、ネタがどうしても絞り出せない時などは つまらない内容に
なってしまっていたら ごめんなさい。

皆様の このブログを見て下さる と云う行動も「変えてはいけないもの」です(笑)

変わらぬご愛顧のほどを お願いいたします(笑)