10月27日、いわき市国際交流協会さん主催の「スタディツアー」が開催。

外国人観光客にむけ、通訳ボランティアさんが市内の文化と歴史を学ぶ勉強会です。

 

光栄なことに今回はじめて当工房にもご訪問いただき、皆様へ『絵のぼり文化』のご紹介をさせていただきました。

端午節句の絵のぼりは、もともと江戸初期が始まり。

武家では『旗指物』などの武具を虫干しする習慣があり、それが転じておめでたい絵を描く“絵のぼり”が、節句飾りとなりました。

もともとはいわき市に限らず、江戸を中心とした全国的な風習でした。

民俗学では「都市部の文化が周辺地域で残存する」ということが知られていますが、“いわき絵のぼり”もその例のひとつかもしれません。

 

「旗指物」と口で説明しても分かりづらいので、説明のため見ていただいた錦絵。

合戦などで用いた“旗印”です。

 

わたしが図柄の由来を紹介し、通訳ボランティアの皆さまが英訳。

それを通訳の先生が添削、というスタイルの勉強会。

わたしも「英語だと絵のぼりはそうなるのか~」と、感心して聞き入ってしまいました。

 

「登竜門図節句絵のぼり」が描かれた、江戸期の屏風。

絵のぼりの鯉が江戸中期に立体化され、やがて鯉幟に変化したという、あまり知られていない豆知識。

身近な鯉のぼりの意外な歴史に、みなさま驚かれていました。

 

明治~平成までのいわき絵のぼり。

現物を前に、時代背景によって素材が変わってきたという説明です。

 

・明治期の手織り木綿を縫い合わせたもの

・戦中の物資不足によるレーヨン

・現代の機械織り木綿

 

最後に、幕末の浮世絵師『歌川芳輝』の、肉筆節句絵のぼりをご紹介。

有名な「歌川国芳」の弟子が、絵のぼりを手掛けていた実物を見ていただきました。

 

スタディツアーの経緯

今回のツアーは、台風19号の影響で13日から27日に延期になっていました。

ところが25日に、再び豪雨災害が発生。

ツアーの予定地「国宝白水阿弥陀堂」が浸水するなど、いわき市内に新たな爪痕を残しました。

もともと当工房のあとに白水阿弥陀堂だったのですが、拝観中止のため、絵のぼりをゆっくり見ていただく事となりました。

被害を受けた方々の、一日も早い復旧をお祈りいたします。

 

この度は絵のぼりを紹介する貴重な機会をいただき、誠にありがとうございました。

今後も文化の紹介、微力ながら頑張りたいと思います。

 

この二ヶ月ほど、「風神雷神図」の試作をえんえんと繰り返しています。

制作中、ことさらに意識するわけではありませんが、「古来の人々が自然災害に畏敬の念をこめ擬人化された姿」が、風神雷神として表現されているのだと思います。

約一週間前の台風19号では、市内の伯父宅が床上浸水し、改めて天災を身近に感じることになってしまいました。


古来の人々が絵とともに自然災害を口伝し、戒めや慰めとしてきた意味を実感しています。

昔の生活に想いを馳せたところで、絵描きとしては普段通り絵を仕上げるよう集中するしかないのですが。

 

今回感じたのは「床上浸水」という言葉からは、『家が河川に飲み込まれる危機的状況』のニュアンスが伝わりづらいという事。

水が引いたあとは生活が一変し、泥水をかぶった家財の後始末に追われる日々。

思い出の品々を、てきぱき廃棄しなければ前に進めません。

私もお手伝いで体感しましたが、氾濫した水を吸った衣類や畳は、数倍の重みとなってズシリとのしかかってきます。

 

水害の恐ろしさのいっぽうで、尊さを感じるのもやはり水です。

断水のなか、綺麗な水をポリタンクに持ち込んでおこなう清掃作業。

サッシや玄関の汚泥を水で洗い流すと、その部分が清められ、日常が戻ってきたような安心感を覚える事に我ながら驚きました。

まさに清めの水です。


いまでも社寺では参詣の際に水で手を清めますが、昔の人々にとって「邪を洗い清める作法」は、たいへん実感の伴うものだったのではないでしょうか。

とにかく、回復の目途がつくまでは長い時間がかかることになりそうです。

令和元年、新しい絵を描きたい意欲から制作した仏画調の作品です。

「心豊かな人生の境地」という古典の意味合いが心に響いた、禅画の古典「騎牛帰家図」。

今年前半、同図柄の江戸期絵のぼりを入手した事がきっかけになりました。

辰昇作 『 笛吹童子騎牛帰家 』 室内用いわき絵のぼり 約170×70cm 木綿に肉筆

 

牛は「本来の理想とする自己」を、童子は「現在の自己」を表現しています。

 

実はここ100年ぐらい、節句絵のぼりに描かれる機会の少ない図柄です。

我が子の心豊かな人生を祈願した江戸の人々に想いを馳せ、仏画を描く気持ちで創作させていただきました。

禅画「騎牛帰家 / 十牛図」は、時を経た現代の私たちにとっても、人生の伴走者となってくれる古典だと感じます。

 

笛吹童子騎牛帰家

人生の段階を10種類の図と詩で表す禅画「十牛図」の、第6番目。

悟りを求める自己を童子、本来理想とする自己を牛として表現。

迷子となった理想の自己(牛)を探し当て、心の自由を手にした境地(笛を吹き楽しむ童子)を表しています。

一般的に、人間がまず目標とするべき段階だそうです。

創作のきっかけとなった江戸期の節句絵のぼり「騎牛帰家図」。

この素朴な仕上がりの絵のぼりは、決して富裕層が飾った品ではありません。

江戸の市井の人々は、このような教えに親しんでいたようです。

この絵のぼりの作者を知ったうえでコレクションしている人は、日本全国に10人も居ないのではないか?

本来の価値を見落とされ、ぞんざいに扱われたケースがあるのでは?

ネットで紹介することで、興味ある方にぜひ知っていただければと思います。

作者の須藤晏斎氏は幕末~明治初期に活躍した栃木県佐野の画人。

家業である農業を守りながら、近郷はもとより遠方からも注文が数多く入る専門絵師でした。

北斎や国芳を折衷したような武者絵を得意とし、栃木県内には今も絵馬が残されています。

 

須藤晏斎氏の実子は、画家の小堀鞆音(ともと)
「武士図」で知られる、戦前の日本を代表する大和絵の大家です。

帝室技芸員(現在の人間国宝)になった方で、有職故実を画家の川崎千虎氏に、画技はほとんど父に習ったとか。

「武士図」は岡倉天心のアドバイスをあえて聞き入れず、父が描くデフォルメされた武者絵の表情をいかしたことで傑作になったとされます。

また父晏斎と子鞆音が佐野の絵のぼり職人を指導し、佐野赤見の絵のぼりには「赤見」の印が押されている物も。

 

須藤晏斎氏の落款がこちら。
この絵のぼりは速筆でやや荒っぽいですが、じっくり描いた作品については目を見張る素晴らしさ。
詳細不明という理由で、ぞんざいに扱われてはならない作者かと思います。
氏の作品には、絵のぼり、絵馬、掛け軸ほか色々なものがあるようです。

 

光背の集中点がバラバラなのは、同時代の「天岩戸図」に共通の特徴。

またラフな造形から、注文に応じ手際よく仕上げられた創作過程がわかります。

本作はもともと3本組だったようですが、現存するのは残念ながら2本のみです。

 

幕末は開国の落ち着かない雰囲気のなかで神話復興ブームがおこり、この種の絵が盛んに描かれました。

社寺にも奉納された同画題の絵馬は、当時の大スター歌川国貞の錦絵を参考に、様式化されたものだそう。

このように一見何気ない絵のぼりかもしれませんが、当時の世相を表す民俗資料としては希少性が高いものです。

 

約10年前の『日本の幟旗展/松涛美術館』で、「節句絵のぼりは、江戸絵画のなかで研究されていない最後の分野ではないか」という話があったことを思い出します。

今日から始まった「大リヤドロ展」に行ってきました。
普段博物館に入っている作品、美術的な大作、創業者の作品まで観ることができ、目の保養になりました。

絵のぼりの販売でお世話になっている、人形の東月さん(いわき市)で24日まで。
27日からは郡山店で開催予定です。

東月さんでのリヤドロ展は今年で10年目になるそうで、毎回盛況のご様子です。



いわき市泉町滝尻の伝統芸能「滝尻棒ささら」。

夏が戻ったかのような晴天のなか、町内の諏訪八幡神社へ12演目が奉納されました。

滝尻棒ささら保存会と滝尻青年会のメンバー皆様による、お囃子、棒術、獅子舞です。

私が制作した絵のぼりも旗印としてお目見え。大変ありがたいことです。

 

 

 

毎年9月第三日曜日、棒ささらは計12演目が行われます。

 

子供棒術を花棒とよびます。こちらは花棒の相半棒

 

花棒の相薙刀

 

相六尺。児童が頑張ったあとは大人の棒術が始まり、いっそう迫力が増します。

 

相白刃

 

背負投。シャッターミスで背負い投げの瞬間が撮れず、残念。

 

時雨

 

水引

 

素鎌

 

相薙刀

 

山陰。演目が後半になるにしたがい、躍動感ある棒術に。

 

天狗倒

 

手付

 

山田

 

十本続

 

棒術のあと、五穀豊穣を願う獅子舞が神に奉納され、高揚感ある余韻を残しながら祭りは終了。

 

三匹獅子舞

 

剣聖塚原卜伝の息吹を今につたえる、伝統芸能の貴重さをあらためて感じるお祭りです。

 

私は制作資料として江戸期の節句絵のぼりを収集しています。

現代ではめったに描かれない古典を拾いあげ再現することは、大げさに言えばこの職業の役目なのではないかと思います。

 

現在制作中の新作は、「笛吹童子 騎牛帰家(きぎゅうきか)図」。

禅で悟りに至る修行の段階を、10種類の図と詩で表した禅画「十牛図」。

その6番目の段階が、迷える自らを取り戻し心の平安を手にするという「騎牛帰家図」です。

悟りを求める現状の自己を童子、脱走したのち捕らえた牛を理想の自己として表現しているそう。

絵面としてはちょっと地味かもしれませんが、ぜひレパートリーに加えたい古典です。

 

下にご紹介するのは、江戸後期に男児の節句祝いとして飾られた「笛吹童子 騎牛帰家」絵のぼり。

作者&制作地不詳。

心豊かな子供の人生を願ったのだと思われますが、たいへん素朴なタッチで作者名も無い市井の作。

このような禅画が、広く民間に親しまれていた当時の文化水準に驚かされます。

工房の所在地に、江戸時代より伝わる郷土芸能「滝尻棒ささら」。

地元のお祭りに貢献すべく、オリジナルの絵のぼりを制作しました。 

滝尻棒ささら図絵のぼり / 辰昇作 木綿に肉筆 約180×約90cm

 

滝尻棒ささら 本祭日程 : 2019年9月15日(日) AM 9:00~ (毎年9月第二日曜日)

場所 : 諏訪八幡神社 / いわき市泉町 ほか町内各所

 

 

地域に伝わる勇壮な棒術を、江戸の香りただよう武者絵で表現しました。

 

滝尻棒ささら(ササラ)由来

塚原卜伝の高弟吉田氏が、滝尻村の農民に護身術として棒術を教えたのが始まり。

滝尻から習いいわき市内各所に広まったとか。

余談ですが地域には「吉田」姓が多く、私辰昇も吉田。

個人的に歴史ロマンを感じさせる由来です。

 

のぼり旗の文字は、泉町滝尻地区の泉書写書道教室上遠野智先生が担当されました。

お預かりした文字を拡大して書き入れです。

 

滝尻棒ささら(写真撮影2017年9月16日)

※写真の宵祭りは招待者のみです。

一般のお客様は、ぜひ本祭りをお楽しみください。

 

BEAMS(ビームス)&福島県の共同企画「ふくしまものまっぷ」。
この度なんと当工房いわき絵のぼり吉田が、ビームス様とコラボさせていただきました。
新宿の店舗ビームスジャパン様で、3月の一ヶ月間が販売のメインとなるコラボ企画です。

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私が原画を描き、ビームスジャパン別注Tシャツ&ハンカチが誕生。
皆さまに「いわき絵のぼり」を知っていただくきっかけになれば嬉しく思います。

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「BEAMSコラボ/ふくしまものまっぷVOL.15 いわき絵のぼり吉田」
寄藤文平様の描き下ろし、素晴らしい表紙のパンフレットです。
ぜひ新宿のビームスジャパン様店頭で、お手に取ってください。
店頭には今回のTシャツに使用された絵のぼり原画も展示されます。


*なお、まだ手元には製品の現物がございません。
工房で扱うか未定ですが、続報を後日ご紹介いたします!