前編では、もうこの人でもいいかな、という勢いの筆者。
改めて、S氏の経歴についても検証してみた。
一次面接時、S氏は以下のように語っていた。
日本の国立大学医学部に入学し、3年時に米国に留学。
卒業後は中米、中国で研修医時代を過ごした。
向こうは「切り放題」。
被災地の救援医師団などにも参加し、日本の医学生とは桁違いの場数を踏んだ。
退官する教授から声をかけられて、いまは跡を継ぐまでのつかの間の自由。
教授の影武者として、オペの毎日。
筆者はこの特殊な経歴に魅力を感じていたところも多分にある。
平凡に生きてきた者よりずっと広い視野の持ち主だろうという期待 〜教授職の確約という安心感を添えて〜
少ない情報を手掛かりに、必死に捜査した。
期待と安心感を確かなものとするために。
見つけた。
S氏は大きい病院の勤務医だった。
彼が医師として記載された診療科は、
耳鼻科。
そして肩書きは、
大学院生。
外科ではない。
確かに外科的な処置や手術もあるだろう。
でも、巷では耳鼻科を外科とは呼びませんの。
教授の影武者は博士課程の大学院生。
医学博士取れたらその上に連なる数々のお医者様を飛び越えて教授に就任ですか?
すごいジャンプ力ですね。
虚言。
改めて東カレデートに記載されたプロフィールも確認してみた。
しばらく海外で仕事をしてたので、日本にあまり友達がいません。
病院のWEBサイトに記載された経歴では、国立大学卒業後、2009年から日本の病院で研修医として勤務している。
浪人1年+6年で何の誤差もない。
医学部の仕組みに詳しいわけではないが、おそらく海外で医師として勤務した事実はないだろう。
いったい留学期間はいかほどだったんですか?
10年近く日本にいて、友達いないんだったらあなたの人格に問題あるんじゃないですか?
虚言。
嘘つきは泥棒のはじまり。
お母さんに教わらなかった?
もしかして外国人のお母さんは教えなかったのかもしれない。
不幸な虚言癖。
いや、嘘つきのために無駄な時間を費やした筆者の方が不幸かもしれない。
嘘つきは大嫌いだ。
ちなみに、前編で氏名について触れたのでS氏の氏名についても少し。
S氏から知らされていたのは、カタカナ表記の名前のみ。
LINEのアカウント名も漢字一文字だった。
やがてアカウント名は絵文字一文字になり、ますます匿名性を増す。
S氏を交えて合コンもどきの際、初めて名字の情報を得た。
おかしなもので、出会い系のアプリでは名を名乗るのに、合コンでは名字を名乗るのが常。
これで、読みだけは氏名そろったと思った。
しかし、違っていた。
病院のWEBサイトに記載された氏名は、筆者が知っているそれと異なる名前だった。
一方、Facebookの名前は筆者の知る名前と同一。
名前まで偽りなのか、あるいは二カ国の名前を使い分けているのか、定かではない。
そんなわけで、捜査は困難を極めたのであった。