―ブランドに裏付けられた自信―
人々はブランドを身につける。
ブランドを身につけることで、素の自分よりも一段、品格が上がったように感じられる。
一定の価値を認められたものを身につけることで、その価値を自分に当てはめているのだ。
学歴もその一例かもしれない。
難易度、知名度をもとに一般社会につくりあげられた価値。
一時的な衣服としてではなく、普遍的なラベルとして、その価値、そのブランドを身にまとう。
そして、その普遍的なラベルは、自信につながる。
相手:30歳 中央省庁官僚 慶應大学卒
方法:婚活サイトPairs
場所:広尾のビストロ
衣装:ショートコート(Jewel Changes)、白ニット(aquagirl)、ツイードスカート(BIANCA EPOCA)、ブーツ(Odette e Odile)、バッグ(Givency)
週末、この日の目的はランチを楽しむこと。
一度はキャンセルしようかとも思った。
しかし、提示された場所は以前から行きたかった広尾のビストロ。行かざるを得なかった。
11人目は、慶應卒中央省庁官僚S氏。
公費でパリに2年留学、その後2年モロッコ駐在と経歴は華やか。
では、なぜ期待値が低かったのか。
まず、コミュニケーション。
必要最低限のメッセージだけで、アポが取れたらあとは事務連絡のみ。
次に、身長の詐称。
筆者に入札した当時のS氏の身長は170cm。
しばらくして再度確認するとその身長は172cmに伸びていた。
かなり遅く来た成長期か。
有効数字の操作とはわけが違う。
そして、写真の印象。
ずんぐりしたプロポーションに、胡散臭い笑顔。
素足にスリッポンを履いた、小石田純一のごとき容姿だ。
先に到着した筆者は、プリフィクスのメニュー選びに集中する。
ほどなくして、小石田純一もといS氏が到着。
Paul Smithのピーコートにボルドーのニット。残念、素足にスリッポンではなかった。
銘々に前菜とメインを選び、スパークリングワインで乾杯をする。
仕事、日常、海外駐在中の生活、当たり障りのない話をしているのに、どこか癇に障る。
なぜか…
小石田純一のごとき容姿ゆえだろうか、それとも最後にンフフッと鼻で笑う話し方ゆえだろうか。
S氏「僕は内部進学だからさ、大学で入れるサークルが限られてるんだ。ンフフッ」
どうもS氏は慶應卒であること、そして内部進学(とはいえ高校から)であることを語りたがる。
内部進学の者しか入れないテニスサークルは、テニスをせずにお酒を飲むだけらしい。
筆者「インカレのテニスサークル、華やかな女性がいて楽しそうですね!」
S氏「女子大なんてバカばっかりだよ。僕とは会話が成立しないんだ。ンフフッ」
おバカさんとは話が合わない僕には、トウダイリケジョくらいがちょうどいいと言いたいのか。
何をおっしゃる。自分が女子大の美女に相手にされなかっただけだろう。
ここで、慶応義塾大学というブランドに思い至る。
しばしば早慶とくくられるものの、華やかさでは圧倒的に慶應が勝る。
ブランドとして優位なのは慶應に違いない。
筆者は多くの慶應卒の方から入札いただいてきた。
一方、早稲田はほぼ皆無。
なぜか。
早稲田は東大に引け目があるが、慶應にはそれがないのではないだろうか。
実際慶應の方と話してみても、自身を卑下することや、東大を嘲ることはなく、国立は国立、私立は私立、と一線を引いた印象を受ける。
彼らには私大トップとしての自信があるのだ。
そして、筆者自身も慶應にはある種の憧れがある。
田舎くさい国立大学には敵わぬ、洗練された慶應ブランド…
だからといって女子大を公に馬鹿にするのはいかがなものか。
ブランドを履き違えている。
ブランドを着た人には余裕があるべきだ。
エルメスを身につけ、安価な既製服を馬鹿にしていてはエルメスの価値が地に落ちる。
ともあれ、食事は美味しくいただいた。
費用はぴったり半額請求された。
ランチだし、借りは作りたくないゆえ、問題はない。
いや、ちょっと待て。
S氏は追加料金のかかるメインを頼んでいた。
コース単価はS氏の方が高い。
おごらされた…
と気づいたのは帰り道。
筆者はセコい男性を好まない。