「離陸」絲山秋子 | 藍色の傘

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一日中、猫を膝に乗せて、本を読んで暮らしたい。

⠀「離陸」絲山秋子




ダムで生きるプロフェッショナルな男たちの話かと思いきや
東大~国交省のエリート(控えめなのは好感度高し)だが、日本のダムを命懸けで守ったり、自分で運命を切り拓いていく漢の話ではなく、
どうにもならない運命に右往左往しつつ、所在なくそこに佇む男の話だった。

最初から謎のエピソードだらけだが、それを行間から解決しようとしてはならない。
伏線を回収しようとしてはならない。

だって「海の仙人」の絲山秋子なのだ。

謎は謎として認識だけすれば良い。

実際、何故どうしての連続でも、時間は淡々と過ぎていくものではないか。

そもそも伊坂幸太郎から「絲山秋子の書く〇〇〇〇物が読みたい」というリクエストがあって、2003年のデビューの頃から構想のあった「離陸」というタイトルの小説が書けた、という絲山氏のあとがきで、収拾のつかなかった「離陸」パズルがカチッと完成した気がした。
(〇〇〇は明かしません…)

水資源機構、国交省、
みなかみ村村長、
フェルディナン・セリーヌ研究者、
NHK熊本(!)
元坂本村村長(!!)
九州郵船、博多海陸運送…
という取材先に基づいて生まれた「水の番人サトーサトー」こと「イロー」こと「佐藤弘」は、
今日もどこかで生きている。



一日に何便も滑走路から離陸していく飛行機。

どこへ向かって飛び立つのか。
行くのか。
帰るのか。

機影は
いつまでも見送ってしまうものだ。