「お目出たき人」武者小路実篤
明治44年(1911)実篤が26歳で著した初期の代表作。
実篤と同じ26歳の「私」は、まだ女を知らない。
それ故か、それにもかかわらずか
「私は女に餓えている」
「女を知らないせいか、自分は理想の女を崇拝する」
と自己分析し、
「自分は自我を発展させる為にも彼女を要求する」
と自己を正当化する。
その彼女とは以前近所に住んでいた、一度も口を聞いたことすらない女学生で、その壮絶な片思いの様が、何とも「お目出たき人」な訳である。
お見合いや許嫁と結婚するのが当たり前だった時代。
でもこの思いは止められない。
明治の世には電話もなく、一目姿が見たければ、待ち伏せするか会えそうな所をうろつくしかないではないか。
会えないことで情熱はますます燃え盛り、独りよがりで真っ直ぐな片思いに身も悶えるというものだ。
お目出たくて大いに結構。
武者小路実篤、今更ながら、面白い。