羊との出会いにはドラマティックの要素は1欠片もなく、些細な僕の日常に少しスパイスをかけて、食べて少しピリ辛だなと感じるか感じないか程度の事だった。
僕は羊の本名を知らない。
これと言って知りたいとも思わなかった。
名前とは僕にとってはそんなものだった。
本名を知らなくても会話はできる。
本名を知っていても本当の会話はできないこともある。
初めて羊と会ったときに聞いてもないのに、
「俺の干支は羊さ。意外だろ?俺は鳥が良かったんだ。だって空を自由に飛べるだろう?」と話しかけてきたことが要因だ。
「それなら辰だって空を飛べるじゃないのかい?」
僕は素直に思ったことをこの得体の知れない干支は鳥が良かったと言う男に言った。
「お前はドラゴンを信じるのか?」
「存在してたって不思議じゃないと思う。この世はまだまだわからないことのほうが多いからね」
「お前、本気で言ってんのか?」
「空を自由に飛びたいと言うほどにはね」
「不思議な奴だな」
「なぜ空を自由に飛びたいんだい?」
「なんでってほら。なんかカッコいいだろう」
「じゃあカッコウになれたらダブルだね」
「あーなんかもう羊でいいや」