【面会記】母の病室が変わっていて、胸がざわついた夜
仕事を終えて、いつものように母の病室へ向かいました。 ところが、病室の前に“名前がない”。
一瞬、胸がざわっとしてナースステーションを振り返ると、 苦しそうに呼吸をしている高齢の方が目に入り、 「まさか…」と心臓が跳ねました。
スタッフに母の名前を告げると、 「あ!病室が変わりましたよ」との返事。 苦しそうに寝ていた方は母ではなく、 その瞬間、ふっと力が抜けるように安堵しました。
■ 新しい病室での母
病室を訪ねると、母は静かに眠っていました。 トントン、と合図を送ると、 今夜はちゃんと目を開けて、手で返事をしてくれました。
点滴の管が腕から外れたそうで、 緊急性が下がったから病室が変わったのかもしれません。
「今日は誰が来たの?」と聞くと、 「リハビリの若い男の人に、肌がきれいだねって言われた」と 少し照れたように話してくれました。
今日からリハビリが始まったそうで、 「何をしたの?」と聞くと、 「どこどこを歩いた。少しだけどね」と。
ベッドで寝ている姿しか見ていなかったので、 思わず「え?歩けるの?」と聞くと、 「歩けるわさー」と、いつもの調子。
その言い方に、驚きと嬉しさが混ざって、 思わず笑ってしまいました。
ゆっくりでも、確実に回復している。 その姿に、胸の奥がじんわり温かくなりました。
■ 自宅のエアコンの話
歩ける、自宅へ帰れる、そんな言葉を聞いて、 ふと前回の緊急搬送のあとにしたことを思い出しました。
母の部屋に、介護用の大きなエアコン(21畳用)を買ったのです。 夏の暑さは、弱った体には負担が大きい。 少しでも快適に過ごせるようにと選んだ、空気清浄機付きの新製品。 けれど、まだ一度も使われていません。
だから、母に言いました。 「一回くらいは使ってくれよ」と。
もしかしたら、また自宅に帰れるかもしれない。 そんな希望が、ふっと胸をよぎりました。
■ 介護タクシーがつかまらなかった日のこと
すると母が、前回の退院のときのことを話し始めました。
介護タクシーがつかまらず、 仕方なく私の車で慎重に自宅まで送った日のこと。
「助手席に座ってても、どこも痛くも苦しくもなくてね。 帰り道がすごくここちよかったよ。 あんた、運転が上手だなーって思ったわ」と。
そりゃ、介護タクシーじゃないから、 こっちも慎重になるわさ。
そんな会話をしながら、 “またあの日のように家へ帰れる日が来るかもしれない” そんな小さな希望が、胸の奥でそっと灯りました。
■ あっという間の面会時間
そんな話をしていたら、 面会終了のアナウンス。
「それじゃ、また来るわ」 そう声をかけて病室を後にしました。
短い時間でも、 母の表情や声、ちょっとした変化が こんなにも心を軽くしてくれるものなんだと 改めて感じた夜でした。
