オファーレターを受け取った翌朝、いつもと同じ時間に起きて支度しながら うちの奥さんが起きてくるのを待っていました。
この時は正直、彼女はきっと泣いて喜んでくれると思っていました。
というのも、以前少し記載したとおり、彼女は以前からアメリカへの移住を希望していました。
アメリカ生活の話をする時だけは、彼女の目の色は違っていましたし、まるで第二の故郷のように思っているのが彼女の言動や態度から見えました。
たぶん彼女にとってはいわゆる「聖地」のような街に映っていたはずです。
一方で、これまで彼女の私に対する「夫としての評価」は下がる一方でした。
やはり、子供が0~1歳だった頃に彼女が期待していたほど育児に貢献することができず、そのことがいまだに影響しているのだと思います。
以後、どんなに頑張っても、どんなに結果を出しても、どんなに家事育児をがんばっても、彼女に認めてもらえることはありませんでした。
それでも、このアメリカでの正社員のポジションのオファーをもらえたことは、冷めあがっていた夫婦関係を大逆転する一発、0-3からの九回裏二死満塁での逆転サヨナラ満塁ホームランに相当する大ニュースだと思っていました。
・・しかし、事はそんなに単純ではありませんでした。
基本的に女性は、いつまでも夢を追い続ける傾向の強い男性に比べて、現実主義だといわれていると思います。
うちの奥さんもやはり類にもれず、まずは目の前にある現実にフォーカスする傾向が強いと思われるのですが、今回も同様でした。
これがもしも、子供が生まれる前の状態、もしくはまだ乳幼児で日本語も社会の構造もよくわかっていない状態だったのであれば、手放しで喜んでくれたのかもしれません。
しかし今回、このオファーの話をきいた直後の彼女の反応は、どちらかといえば「うーーん、困った。。」という感じでした。
やはり、すでに小学二年生になって自分なりの世界観を日本の中で確立しているうちの子を、いきなり言葉も通じない、ポケモンも仮面ライダーもおしり探偵もない国へ行くことに承諾させられるだろうか、という心配が先に立ち、うちの奥さん自身の夢とか希望とか、そういうものは考える余裕さえないという状況でした。
・・実は私が今回のことで最も懸念していたのがそのことでした。
うちの子は、今の小学校で本当によく頑張ってくれて、よく馴染んでくれています。
友達とのつながりを大切にして、入学時には懸念事項だった毎日学童で夜7時くらいまで過ごすことにもすっかり馴染んでくれました。
しっかりしたものの考え方をするうちの奥さんに似て、ちゃんと物事を考えながら行動できる子供に育ってくれつつあります。
モノづくりや科学的・物理的な実験が大好きな私に似て、もうすでに本気で物理学者になることを目標にしてがんばってくれています。
乳幼児期にうちの奥さんが24時間付きっきりで愛情を注ぎ続けてくれたおかげで、家族愛にあふれ、人情豊かな子に育ってくれています。
・・自分の子供を褒めちぎっていれば世話はありませんが(笑)、この国で、この地域で、根本的にはとても素晴らしい子に育ってくれていると思います。
その状況に対して、アメリカへの移住は、とても大きな変化を彼に与えることになります。
もちろん、長期的に考えれば、これは間違いなくプラスだと思います。
まだ9歳になる前のこの時期に、国際的な視野を持って、日本だけに偏った見解を持たずに、ネイティブレベルの英語力を手に入れて、大きな人間に育ってくれる・・これは彼の将来に間違いなく大きなプラスになることは、疑う余地のないところだと思います。
また、彼が本気で物理学者を目指すならば、今アメリカに移住することは「願ってもないチャンス」になるはずです。
日本にそのまま居続けて、本当に物理学者になるためには、偏差値70レベル以上の大学の理学部をトップクラスで卒業するのは最低条件、さらに大学院や博士課程で世界レベルの修論を仕上げて教授たちを驚嘆させ、さらに博士課程後も研究室に残って研究を続けることが明らかにその研究室やしいては日本の科学の将来に有益であることが誰の目にも明らかであるような結果を残さなくてはならないと思います。
平たく言えば、まずできない条件といえると思います。
しかし今、アメリカに移住して、将来は帰国子女として日本に戻って物理学者を目指すとしたら、ずっと日本にいる人に比べてまず3割増し以上に有利ではないかと思います。
もちろん、彼が望むならば、アメリカで物理学者の道を模索することもできると思いますし、工学系を目指すならば私よりもはるかに優秀で国際的なセンスを持ったエンジニアになることもできると思います。
・・そう、我々からすれば、羨ましいくらい別格で特別な少年時代になると思われます。
ただ、やはり今の彼が、日本での生活から離れて、(おそらく数か月は)言葉の通じない世界に移住することを承諾してくれるとは、正直にわかには思えませんでした。
そして、その予想は的中しました。
おそらくうちの奥さんが、うちの子に「お父さんはアメリカに行っちゃうんだよ」と言ったのだと思います。
いきなりうちの子が私に対して「パパは、アメリカに、行くなーーー!行っちゃだめだーーーー!」と言い出しました。
そんな彼の目には涙が浮かんでいました。
・・彼にわかってもらうのは簡単ではないとは思っていたとはいえ、これは相当難しいことになりそうだと思い知らされました。。