廊下の窓から差す昼の光はまぶしく、温かだ。
そんな温かさとは裏腹に、礼はひやりとした何かに襲われていた。
彼はあれを夢だと思えず、苦悩の面持ちで頭を抱える。
「礼くん?」
心配そうに宥香は礼の顔を覗く。
彼女は礼の一瞬の仕種や表情を見逃さない。ぎゅう、と繋がれた手に力が込められた。
…なんでもない、と礼はつぶやき彼女の手を握り返す。たったそれだけのことで彼女の頬はどんどん緩む。
しかし、礼は今自分がこうして歩いていることにさえ違和感を覚えている。
あの時の自分には足がなかったのだ。だが、今はこうして足がある。歩いている。
夢はあまりにもリアルだった。自分の足を容赦なくえぐった鋭いナイフの感触、鉄にも似たむせ返るほどの血の臭い、生きていない人間の何も映さない虚ろな瞳。思い出すだけで目眩がしそうな夢。
なにより、転がっていた生首に、彼女の言った『ゴミ』に…礼にはその心当たりがあるのだ。
礼の腕に巻かれた包帯が、現実なのか夢なのか、その真実を狂わせる。包帯の内側にこびりつく茶色だって、元は身体を巡る赤だったはず。それが時間の経過を表しているようで、礼は身震いをした。
「…礼くん?」
どうしたの、とさっきと同じように宥香は彼を見つめる。
「なんでもないって…」
「…でも、さっきからヘンだよ?」
ついに彼女は礼の正面に立つ。
「別に……変じゃないよ、」
「礼くん疲れてるの…?」
「いや、うーん…、まあ…そんなところかな…、」
あ、ごまかしてる?と、彼女は礼の鼻をつつく。ぷう、と頬を膨らます彼女は可愛らしい…はずなのに。夢の彼女の仕種と同じで、礼は一瞬身体が震えた。
「ねえ礼くん…なにかあったら絶対、絶対に私に言ってね? 礼くんは私だけの礼くんだから…私が礼くんを守るの…礼くんに近付くヤツは許さないから…」
そう微笑んだ宥香。
しかしその目は、どこまでも冷え切っていて、全く笑っていなかった。
彼女はすでに、礼の『なにか』を知っているのかもしれない。
(かしず)