授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
礼はチャイムに気がつかず、
ずっと黒板を見たままボーっとしていた。
自分の目の前をクラスメイトが横切ったことで授業が終わったことに気づき、
ペンケースと開かれていた教科書とノートを机の中にしまい込み、
教室の窓の先に見える校庭を見るようにして机に突っ伏した。
視界に入ってきた夏服のYシャツの袖から見える包帯が巻かれた腕を、ジッと見つめる。
そして、目をそっと瞑って考えてみる。
いつ、どこで怪我したのだろうか…。
怪我を負うようなことをした記憶が無いのだ。
宥香に聞いてみたところ
僕は一限目と二限目の間の休み時間中に東側階段の踊り場で倒れていた。
そこに偶然通りかかった体育の先生が倒れていた僕を発見し、保健室へ運んだとのこと。
そのときにできた傷なんじゃないの、と言われた。
宥香には
んー…そうかもしれないね、としか言えなかった。
…しかし正直なところ、倒れたことさえも記憶に無いのだ。
自分でつまづいて倒れた?
何者かに押されて倒れた?
たまたまぶつかって倒れた?
…記憶が無い以上、自分だけでは何故倒れていたのか、
そして、何故腕に傷が付いたのか知ることは出来ない。
覚えているのは、保健室で見た夢。
狂った目をした宥香と血溜まりと心の当たりのある『ゴミ』…。
『ゴミ』という名の生首の首筋には、
文字なのか古傷なのかはわからないが、青い「X」字が見えた。
……記憶していたくない光景ほど、鮮明に覚えているのだ。
必死に思い出そうとすればするほど、わからなくなっていく。
…きっと、疲れているだけだ。
そう、全部は疲れていたから。
疲れていたから倒れて、
疲れていたから怪我をして、
疲れていたからあんな夢を見たのだ。
とりあえず今は何も考えないようにしよう。
そう思ったときには、
大半の生徒が聞き流しているであろう終礼も既に終わっていた。
礼は教室の窓から見える校庭を見た。
足早に帰宅する生徒が多数いる中、
部活動に励む生徒たちとなんとなく学校に居残っている生徒たちで、放課後の学校は賑やかになっていく。
…今日は早く帰ろう。早く帰ってぐっすり寝たい。
そう思った礼は教室から出て東側階段に向かって廊下を歩き始めた。
ドンッ!
東側階段を下っている時、
誰かに背中を押され、踊り場の床に全身を強く打ちつけた。
即座に後ろを振り返った礼。
気を失いそうになりながらも
目を細めた先に見えたのは、黒髪でボブヘアーの女の子だった。
首筋には、青い「X」字…。
僕がそれに気づいた瞬間、目の前は真っ暗になった。
れっどぱいん。