地域産材で世界レベルの木製サッシを!・長野県千曲市/山崎木工製作所(vol.129) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

山崎木工が開発した木製サッシ(提供:山崎木工製作所)

 

住宅の温熱環境は、窓の性能によって大きく左右されます。最近の新築住宅では、窓のサッシの素材にアルミではなく断熱性の高い樹脂性が用いられることも増えてきました。

 

また、欧米ではさらに性能が高くデザイン性も優れた木製サッシが広く使われています。しかし、木製サッシは日本ではまだまだ一般的ではありません。

「日本は森林大国ですが、木製サッシ開発では大きく遅れをとってきました」。そう語るのは山崎屋木工製作所の代表、山崎慎一郎さんです。山崎屋木工は、長野県千曲市に拠点を構える地場の木工家具屋として、50年以上に渡りさまざまな家具や建具などを製造、販売してきました。

2011年から木製サッシの開発を始めた山崎さんは、試行錯誤の末に世界トップクラスの性能を誇る窓を完成させました。家具屋さんがなぜサッシ開発を初めたのでしょうか?

 

また、地場の中小零細企業が、世界トップレベルの木製サッシをつくることができた理由は何でしょうか?今回は省エネルギー社会のカギを握る、窓について考えます。

 

木製サッシのサンプルと山崎慎一郎さん

 

◆トピックス

・木製サッシはうちがやることじゃない

・家具とサッシはまるで別モノ

・地域産材で世界最高性能をめざす

・90%の人が木製サッシを知らない日本

 

◆木製サッシはうちがやることじゃない

 

「木の可能性を探りたい」。そう考え続けてきた山崎慎一郎さんは、2年に一度ドイツのハノーファーで開催される世界最大の木工機械の展示会に、必ず出かけていました。

 

広大な敷地に、欧州の最新式の機械がずらりと並ぶ中には、木製サッシのコーナーもありました。しかし2011年以前は、その前で足を止めることはありませんでした。「木製サッシなんて、うちがやることじゃない」と考えていたからです。

 

木製サッシと聞いた山崎さんが、思い浮かべていたイメージがあります。中学時代を過ごした長野の木造校舎の寒さです。冬には気密性のない木枠の窓から冷たい風だけではなく雪までが吹き込み、廊下にはうっすら雪が積もっていたそうです。

 

そんなイメージを変えるきっかけとなったのが、2011年に起きた東日本大震災でした。特に大規模な被害をもたらした原発事故には、衝撃を受けました。

 

山崎さんは、エネルギーをつくるためにあれほど危険な物が全国に数多くあることに疑問を感じます。そしてそこから、エネルギー問題に深い関心を抱くようになりました。

 

サッシと同様に開口部である木製ドアも断熱性の高い仕様で製作(提供:山崎木工製作所)

 

震災の2ヶ月後、山崎さんは改めてハノーファーの展示会に足を運びました。すると東京ビッグサイトが2つ分くらいの巨大なスペースで、木製サッシをテーマに展示が行われていました。「なぜこれほど注目されているの?なんで今さら木製サッシなの?」。驚いた山崎さんが調べると、展示されている木製サッシは自分が知っていた木の窓とはまるで別物であることがわかりました。

 

木製サッシには、アルミサッシにはない数々の特徴があります。例えば、熱伝導率はアルミと木では約2000倍の差があります。そのため結露が起こりにくく、窓の気密性がきちんとしていれば冬は室内が寒くなりません。そして、省エネにもなります。

 

日本の住宅は窓の性能が悪く、冬は窓を中心とする開口部から多くのエネルギーが逃げていますが、木製なら熱を逃しません。山崎さんは、知れば知るほど、木製サッシが木の可能性を最大限に活かしている製品だと確信しました。

 

「それまで私は色眼鏡をかけて見ていたんですね。木製サッシを普及させれば、快適性を上げ、ヒートショックなど寒さによる健康被害を減らせます。また、日本が抱えるエネルギー問題を大きく改善することができる。さらに、サッシを国産材でつくれば、地域の環境保全や経済循環にも貢献することができます。もうこれは、うちでやるしかないと決断しました」。

 

山崎屋木工の、世界トップクラスの木製サッシをめざす挑戦が始まりました。

 

木製サッシと木製ドアはデザイン性も高い(提供:山崎木工製作所)

 

◆家具とサッシはまるで別モノ

 

山崎屋木工の工場に最新鋭のイタリア製工作機械が届いたのは、2011年の12月のことです。従来の機械は、刃物が回転する所に手などで木を運んで削るタイプなので、どうしても精度が曖昧になることがあります。

 

CNCマシニングの機械

 

このCNCマシニングという機械は、材料を固定して、コンピューターでデザインした通りに刃物が木の回りを動いて整形していく機械なので、複雑な加工を簡単にできるようになりました。3Dプリンターの木工版というところでしょうか。

 

この機械を仕入れたのは、山崎屋木工が日本で初めてとなりました。もちろん、機械だけでサッシができるわけではありません。

 

まずCNCの刃物はそれぞれ完全特注で、1本数百万円する高価なものです。1つの刃物では同じタイプのサッシしか削れないので、様々なタイプの窓を開発するため、数十本もの刃物を仕入れて試行錯誤を繰り返す必要がありました。

 

複雑な加工ができる専用の刃物は、一本で数百万円のコストがかかる

 

家具づくりについてはこれまでノウハウを積み重ねてきましたが、サッシづくりは材料が木であるという点を除けば、まるで別の製品でした。「家具は、主に室内に置く製品です。でも窓は外部と内部を結ぶもの。木に与えるストレスはまるで違います。いままで勉強してきたことをいったんゼロにする覚悟で挑みました」。

 

山崎さんが言うように、加工の仕方だけでなく、木の仕入先、製品の販売先、メンテナンス方法、そして営業の仕方などすべて異なっていたのです。当初は家具の売上に依存しながら、少しづつ加工のノウハウを高めていきました。

 

◆地域産材で世界最高性能をめざす

 

翌2012年には建築家の方から声がかかり、環境省の地球温暖化対策技術開発・実証研修事業に参加し、高性能木製サッシの開発に3年間参加することになりました。山崎さんは、そのプロジェクトで、熱貫流率0.5以下の窓をつくって欲しいとリクエストを受けます。

 

熱貫流率とは、数値が低いほど断熱性能が高いことを示す数値です。単位は「W/㎡・K」で表され、1m2当たり、かつ1時間当たりに窓を通す熱量を示します。熱還流率0.5を達成することは、日本の窓の現状を考えれば大変なことでした。

 

世界各国は、窓の性能について最低基準を設定しており、それ以上の数値の窓は原則として使用禁止とされています。例えばドイツでは、熱貫流率が1.3以下の窓しか使用できません。

 

木製なら大開口も自由に設計できる(提供:山崎木工製作所)

 

一方で、日本には窓の性能の最低基準が存在しません。既存住宅のおよそ8割を占めるとされるアルミサッシとシングルガラス(ガラス1枚)の窓の数値は6.5ですが、今でもこのような低性能な窓を販売することが許可されています。

 

最近では新築戸建住宅ではガラス1枚の窓はなくなりましたが、ペラガラスであってもサッシがアルミなら数値は4・65程度です。より性能の高いアルミと樹脂の複合サッシとペアガラスの組み合わせなら2・33になり、日本では最高等級(4つ星)と認められます。

 

しかしドイツの最低基準が1・3であることでもわかるように、日本の最高等級の窓は、欧州の多くの国では最低レベル、もしくは使用禁止のレベルでしかありません。

 

山崎さんは、ドイツの窓の研究所などを訪問しながら、超高性能木製サッシの開発を続けました。わかったことは、レベルの高い数値を出すためにはガラスが最低でも3枚は必要であること、そしてガラスとガラスの間の空気層は15ミリから16ミリがベストであるということでした。ガラスそのものの厚みもあるので、必然的に窓全体の厚みは80ミリになりました。

 

木製サッシをふんだんに活用した幼稚園(提供:山崎木工製作所)

 

そうした工夫を重ねて、3年後の2015年にはガラス4枚を並べた熱貫流率0.5を下回る超高性能木製サッシを完成させることができました。その研究を活かして製作した現在の主力商品は、ガラス3枚で熱貫流率は0.84程度で、国内最高水準の高性能窓となっています。

 

山崎屋木工の木製サッシに使われている木は、カラマツとヒノキ、レッドシダーの3種類です。いずれも水に強い材で、湿気が高く雨や台風の多い日本には適しています。

 

製品の8割を占めるのは長野県産のカラマツとヒノキです。また、独特の風合いのあるレッドシダーも根強い人気があり、北米から輸入しています。木材は、製品になってから動いたりねじれたりすることがありますが、素材を扱うメーカーと相談しながら、乾燥や加工に工夫をこらし、製品になってから変化しにくい木材を開発してきました。

 

◆90%が木製サッシを知らない日本

 

木製サッシの特徴は、高さ数メートルにも及ぶ大きな窓でもつくれることです。決まったサイズのものしかつくれないアルミや樹脂のサッシとは異なり、オーダーメイドの大開口や、高いデザイン性に魅力を感じるユーザーが増えています。

 

工場には、所狭しと大型の窓枠が並ぶ

 

そのため公共施設や軽井沢の別荘地などを中心に売上は伸びていて、最近では家具の売上を越えるようになってきました。来年度には、木製サッシ専用工場を建てる計画も進んでいます。木製サッシの開発を始める以前は4〜5人だった社員も、いまでは15人になっています。

 

一方で課題もあります。ひとつはコストの高さです。現在はほとんどオーダーメイドで受注しているため一概には比較できませんが、同じ規格で大量生産をしている樹脂サッシや海外製の木製サッシとの価格差は、小さなものではありません。

 

エネルギー問題の改善や健康被害をなくすために、さまざまな立場の人に使ってもらいたいと考える山崎さんは、規格を決めて数を増やし、少なくとも輸入されている海外の木製サッシと同等かそれ以下の価格を実現したいとしています。

 

2017年に完成した山崎木工のショールーム(提供:山崎木工製作所)

 

その際に高い壁となるのは、木製サッシの存在が知られていないことだと山崎さんは言います。

 

「木製サッシは、ドイツでは30%くらい、北欧では60%を超えて使用されています。でも日本は1%未満です。欧州では誰もが知っていて選択の対象になっていますが、日本では10%くらいの人しか知りません。そのうち1割の人が実際に使っているという状況です。私もいろいろな所にサッシのサンプルを持っていきますが、一般の方からは『これは何ですか?』という反応を受けます。窓だとわからないんですよ。良い製品を開発するだけでは広がりません。存在を知らない90%の人に働きかけて、使ってもらう人を1%からまず2%に増やす努力をすることが必要です」。

 

工場の隣には、山崎屋木工が2年前に建てた洗練されたショールームがあります。床や壁はもちろん、木製の高断熱ドアや、おしゃれなインテリアなど、すべて社員が地域産材を加工してつくった製品に囲まれたスペースです。

 

ショールーム内は、山崎木工の技術力がわかる木製品や家具で溢れる(提供:山崎木工製作所)

 

欧州でどんなに小さな企業でも、大企業に気後れすることなく自社製品を堂々とアピールしている姿を見て、刺激を受けた山崎さんが発案しました。「会社の規模とか、どれだけお金をかけたとかは関係ないんだと。何をやりたいかという心意気を見て欲しい、そういう思いが大事なんだろうなということを学びました」。

 

そこからは、世界レベルの木製サッシをつくり、エネルギー問題を改善したいという地場の木工屋さんの誇りを感じることができました。まずは多くの方に「木製サッシ」という選択肢があることを知ってほしいと思います。

 

◆お知らせ:ご当地エネルギーの映画「おだやかな革命」上映中!自主上映会も募集しています

日本で初めてご当地エネルギーの取り組みを描いたドキュメンタリー映画「おだやかな革命」(渡辺智史監督)が2018年に公開、その上映はまだまだ続いています。当リポート筆者の高橋真樹は、この映画にアドバイザーとして関わっています。

詳しい場所と日程は映画のホームページの「劇場情報」、またはFacebookよりご確認ください。また、自主上映会も募集中です。ご希望の方は、ホームページよりお問い合わせください。