第71回:ドイツの電気料金は再エネのせいで高い?/自然エネルギー財団・一柳絵美さん(前編) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

今回のご当地エネルギーリポートは、自然エネルギー財団の一柳絵美さんから、ドイツの電力料金について伺いました。今年の3月までドイツに住んでいた一柳さんは、4月から日本に戻り、自然エネルギー財団でドイツのエネルギー政策を担当する研究員として働き始めたばかりです。

ドイツでは自然エネルギーへの転換が進みますが、そのために電力料金が上がり、市民生活や企業活動を圧迫しているのではないか、ということがよく言われています。その辺りの真相について伺いました。

◆生活では実感しなかった電気料金

高橋:本日のテーマはドイツの電気料金なのですが、一柳さんがドイツにいたときには、ちょうど電気料金が大幅に値上がりしていた時だったと思います。実際、生活の中で気になっていたでしょうか?

一柳:私は語学留学のためフライブルクに1年間と、環境マネジメントの勉強のためベルリンに2010年から2015年までの5年間住んでいました。その間に確かに電気料金は上がっているのですが、私自身は電気料金について意識した事はありませんでした。というのも、私は賃貸住宅に住んでいて、家賃の中に電気料金が含まれていたからです。

ドイツの住宅は断熱性能が高い(フライブルク/提供:一柳絵美)

しかも家賃は固定だったので、電気代の影響を実感する事はありませんでした。このようにドイツでは、「暖かい家賃」と呼ばれる光熱費等込みの家賃体系が、一般に普及しています。ただ最近は、ドイツの電気料金上昇が貧困層を直撃しているという報道もあると聞いています。

しかし、学生だった自分も含め、ドイツの貧困層に相当する大学生の友人などと話していると、健康保険料に苦しんでいるという声はあっても、電気代に苦しんでいるという声は聞いたことがありません。

高橋:ドイツでは電気代以外の物価も上がっているので、家賃が上がる所も多いのではないでしょうか?

一柳:確かにドイツ全体でみると家賃はここ数年、上がってきています。でもその原因は電気料金ではなく、建物の断熱改修の工事が増えていることなどが原因だといわれています。私が住んでいた賃貸住宅もしっかり断熱されていました。だから築80年の建物なのに、冬もセントラルヒーティング方式の暖房をつけなくても十分暖かく過ごせるほどでした。

私の実家は岐阜にあって、昔ながらの日本家屋なんです。だから毎年冬に帰国した時は寒くて、その違いを実感しました。冬の外気温はドイツのほうが岐阜より低くても、ドイツの室内は暖かいんです。暖房をほとんどつけない私の部屋にドイツ人の同居人がくると、いつも寒いと驚かれました。

◆電気料金高騰は再エネのせい?

高橋:ドイツの電気代が上昇している理由は、再エネのせいだと言われる事があるのですが、その報道をどのように考えますか?

一柳:まず、平均的な家庭用電気料金は、15年前に比べるとおよそ倍になっています。2000年に1キロワット時あたり13.94ユーロセントでしたが、2015年には28.72ユーロセントになっています。

それはこの期間に現行の再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)が導入され、消費者に「再エネ賦課金」が載せられるようになった事も関係しています。そのため再エネ賦課金は増えましたが、増えているのはそれだけではないので、単純に「ドイツの電気代を上げている要因が再エネだけ」だとは言えません。

再エネ賦課金がエネルギーコスト全体に占める割合は少ない。一般家庭が1ヶ月あたりに負担するエネルギーコストの例/黄:再エネ賦課金、グレー:再エネ賦課金を除いた電気代、オレンジ:暖房用オイル代、青:ガソリン代(ドイツ連邦統計局、ドイツ環境援助機関(DUH)、ドイツ再生可能エネルギー・エージェンシーのデータから自然エネルギー財団が作成)

高橋:電気料金の内訳には、発電コスト以外に税金関係が多く含まれていますね。

一柳:ドイツの家庭用電気料金の52.0%が税金等です。「再エネ賦課金」(21.5%)に加えて、税率19%の付加価値税(16.0%)、電力税(7.1%)その他の税金等が適用されています。これまでの推移を見ると増え続けているように見えますが、2013年からの3年は再エネ賦課金の額は安定傾向にあり、2015年に初めて下がりました。今後は、2023年をピークに徐々に下がると予測されています。FIT導入初期段階の発電設備に対する買取期間の終わりが近づいてきて、ピークが見えてきたのです。

高橋:際限なく上がり続けるということではないのですね。2023年まで少し上がると予想されている要因には何があるのでしょうか?

一柳:ドイツ政府や大企業が、これから洋上風力発電を拡大しようとしているからです。洋上風力の設置には大変なお金がかかりますから。巨大な洋上風力には、これまでドイツで再エネを広げる役割を担ってきた地域コミュニティや一般市民が参加しにくくなるという意味から、反対している人もいます。

電気料金との関連で言えば、再エネの設備が普及した事で確実に事業者が発電する際のコストは安くなっているのに、消費者にそれが還元されていないのは問題だという意見も出ています。確かに、事業者は儲けていてもそのメリットが社会的に還元されていないことは、考慮すべきでしょうね。

◆市民は賦課金を支持

高橋:ドイツで値上がりしているのは電気代だけではない、という話も聞きます。

一柳:はい。ドイツは10年単位で見れば、電気料金だけでなくガスも石油も値上がりしています。その中で電気代が占める割合は決して多くはありません。例えば、個人消費支出に占める電気料金の割合を見てみると、6年間(2009年~2014年)で、だいたい2%代前半という一定の水準であることがわかります。電気代だけが特別値上がりして家計を圧迫しているとは言えないということになります。


ドイツの再エネ賦課金額に対する市民の受容性調査。左から、「低すぎる」「妥当」「高すぎる」「分からない」の割合。2011年~2015年の5年間にわたって調査しているが、おおむね「妥当」が多数派を占めている。(ドイツ再生可能エネルギー・エージェンシー(AEE)発表の世論調査をもとに自然エネルギー財団が作成)

もちろん異論や反論はあるのですが、その中で再エネ賦課金の価格に関する世論調査の結果では、妥当(57%)や低すぎる(6%)という意見の合計(63%)は、高すぎる(31%)という意見を大きく上回っています。多数派の市民はこの政策を支持していることがわかります。物価が上がっても直接的な不満につながってこなかった背景には、ドイツ経済が好調で、GDPが上がり続けてきたということが言えると思います。

高橋:電気代とかその中の賦課金だけとか、非常に小さい数字ばかりをクローズアップすると値段が上がって大変だとなるのですが、国の経済全体で見ると見えてくる景色が違ってくるということですね。

都市部で緑を増やす「アーバンガーデニング」(ベルリン/提供:一柳絵美)

次回の後編では、電気料金高騰のために企業が国外に移転したという情報の真相を伺います。
後編はこちら

◆関連リンク
自然エネルギー財団
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