第68回:大規模なバイオマス発電所は地域のためにならない/竹林征雄さんインタビュー(後編) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

前回に続き、木質バイオマス利用の専門家である竹林征雄さんへのインタビューをお送りします。前回は、日本のバイオマスがなぜうまくいかなかったのか、そしてどのように利用すべきなのかについてお話しいただきました。バイオマスは、太陽光や風力とは異なり、燃料が必要なエネルギーです。そこでエネルギーとしてだけではなく、森林を産業としてどう活かすかという長期的な視点が何より大切というお話でした。

その課題を踏まえて、今回は現在進んでいるバイオマスの大規模発電所の問題点や、エネルギー問題を越えて、地域社会を変えるツールとして、木材をどのように考えて行くべきかについても展開しています。

ドイツ製の木質バイオマス熱電併給システムと竹林征雄さん

◆今回のトピックス
・大規模なバイオマス発電所は、地元のためにならない
・まちづくりとしてエネルギーを考える

◆大規模なバイオマス発電所は、地元のためにならない

高橋:今年から来年にかけて、日本では出力5000キロワットから5万キロワットくらいの大規模な発電所が次々と作られています。これもFITの売電価格をあてにしたものですが、長期的視点が欠けているという批判もあります。このような動きはどう見ていますか?

竹林:ドイツでも、当初は大規模なバイオマス発電設備を作りましたが、バイオマス発電は一度稼動したら24時間、年間300日以上稼動し続けるので、周辺の木が足りなくなりました。木材は、太陽や風と異なり、燃料を生産しなければ利用できませんから。そこで遠くから木材を運ぶようになるのですが、徐々に燃料価格が高騰します。それによって採算が合わなくなり、発電所が立ち行かなくなったのです。だからドイツやオーストリアの今のトレンドは、発電所の小規模化なんです。

ドイツのバイオマス発電(個体)の発電容量の推移。色が薄くなるにつれて小型になっている。年々、小型の設備が増えていることが分かる

私は、日本で大規模な発電所を作ることには反対です。大手が材を取り合うような状況がつくられることで、燃料価格が高騰します。それによって、小さな自治体が小型のボイラーや熱電併給施設を建設しても、大手が材を持って行ってしまうので、地域内で木材を利用できなくなるからです。材の奪い合いによって、地域で反発が起きている所もあります。そこで、発電所によってはマレーシアのヤシ殻を輸入して燃やそうというプロジェクトもありますが、とんでもないことです。それでは海外から石炭、石油を輸入するのと同じになってしまう。バイオマスをやるのなら、日本の材を使うべきではないでしょうか?

そういう発電所を作っても、地元のためにはなりません。お金を持っている人がさらに金儲けするだけになってしまう。もちろんビジネスなので儲けるのは悪いことではありませんが、その先に地元のためになるかどうかという観点が欠けていては、何のための地域資源なのかということになります。

日本の社会のあり方や地理的条件を考えれば、大規模よりも小規模な設備の方が向いています。1000キロワット以下、できれば40キロから200キロくらいまでの設備を需要に合せて導入するのがいいでしょう。それをいくつか合せて町全体で1000キロワット程度にしていく。そうやって小さな町でも、木を使って地域内でお金を回す循環モデルをつくることができれば、持続可能な地域になります。


上野村で製造したペレット

◆まちづくりとしてエネルギーを考える

高橋:竹林さんは、エネルギーをまちづくりとして捉え直すべきだと言われていますね。エネルギーのことだけを考えると社会とのつながりが見えてこないし、関心のある人も限られてしまうのですが、実はいろいろな暮らしや職業に結びついてくるものです。だから「自分ごと」としてちゃんと地域のみんなで考えようよ、ということなんですね。

竹林:木材を地域資源として熱や電気に変換することのみが、「エネルギー問題」とは言えません。町の将来の暮らしをどうするのか、という問題が先にあります。すべての人の暮らしとなりわいの中には必ず、エネルギーが関係しています。それなのに誰もエネルギーをよそ事としか感じてきませんでした。「電気代を値切る」ということすら考えてこなかったのです。でも実は、大変な金額が流出し続けています。輸入が多く、エネルギーコストの高い日本はで特に問題です。人口が1300人しかいない上野村でさえ、年間でエネルギーに4億5千万円もかけています。1万人くらいの町なら30億円くらいかかっている。これはとんでもない額です。

車の燃料はすぐには手をつけられないにしても、熱と電気は対策が立てられる。本気で取り組めば、上野村くらいの規模ならエネルギーを自給することもそれほど困難ではないでしょう。少しでも自給できたら雇用も増え、経済循環も始まります。イベントをやったりB級グルメを流行らせるより、よほど町おこしにつながるはずです。

屋久島では、電気自動車が人口の1%以上に普及。自然エネルギー(水力)で発電し、電気自動車に充電するというシステムが一般化している

高橋:自動車の燃料は、いずれ電気自動車で代替できるかもしれません。電気自動車は今の所航続距離は短いのですが、上野村のような狭い地域では十分役に立つし、パワーもあるから坂道が登りやすい。

竹林:実は私もそれを村長に提案しているところです。上野村にもう一台ガス化システムを導入して、電気バスを走らせようというアイデアです。

高橋:そんな中で、一部とは言え未来を見据えて動き出している人たちがいますね。

竹林:その辺りをきちんと考えている森林組合が宮崎県にあって、外部に木材を出さず、自分たちで小型バイオマスのエネルギー化を自分たちでやろうとしている。地域のことを考えた事業というのは、そういうものを言うのです。

上野村の製材所

このままでは、150年先には石炭を除く化石燃料がなくなると言われています。 明治維新から今日までがだいたい150年ですから、ほんの3-4世代先です。その時代の子どもたちは、石油やガスが使えない。だから今からシフトしないと間に合いません。でも、大半の人たちは今しか見ていないから目先の利益だけを追求して、持続可能性を考えずに行動してしまっています。「事業の継続性」はみんなが言いますが、社会の継続性を考えていないというのは、恐ろしいことです。

木はだいたい炭素と酸素と水素からできています。成分から言えば石油と似たエネルギーです。しかも再生産できる。こんな地域資源を放っておく手はありません。最初はお金がかかるので、本来は長期的なプロジェクトとして国がやらないといけません。でも国がやらないなら、自治体や民間がやれることからやるべきです。「この地域ではどんなことができるのか」とみんなで知恵を絞る。ドイツではそれをやってきたから、自分の地域の中だけでエネルギーが自立している地域が増えているのです。

ペレット集積場(右)と、熱電併給システムの建家(左)

高橋:バイオマスを通して、近い将来の自分たちの暮らしをどうしていくか、他人事としてではなく、自分の問題として捉えて行く必要がありますね。上野村をはじめ、バイオマスに真剣に取り組んでいる人たちの活躍を、今後も伝えていきたいと思います。どうもありがとうございました。

竹林さんインタビューの前編はこちら

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