第56回:バイオマスなら電気より熱!日本初の地域熱供給事業へ/紫波グリーンエネルギー(前編) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

全国ご当地エネルギーリポート。今回は、いま全国から熱い視線を浴びている岩手県紫波町で進む木質バイオマス熱利用の取り組みです。バイオマス発電ではなく、熱利用というのはどういうものでしょうか?今回は、バイオマス事業の流れを変える可能性を持つ、この事業を中心に紹介します。

今回のトッピス
・バイオマス熱利用とは?
・全国から注目される先進地域、紫波町の「オガール地区」とは?
・聞き慣れない「地域熱供給事業」って何?


オーストラリアから輸入した、木材をチップに加工する車輛(提供:紫波町)

◆バイオマス熱利用とは?

バイオマスといえば、いまの流行は発電です。固定価格買取制度(FIT)で高く売電できることになったため、今まさに日本各地で大規模なバイオマス発電所(出力5000キロワット以上の設備)の建設が行われています。

でも、木材を燃やして発電だけを行うというやり方は、エネルギー利用方法としては疑問符がつきます。もともと木材にあったエネルギーのうち、発電に利用できるエネルギーは20%から、せいぜい30%程度です。そこで事業者としてはその効率を上げようとして大規模化を計るわけです。設備は一度稼動し始めたら、24時間ずっと動かし続けます。そのため、どうやって大量の木材を安定して集めることが出来るかが重要になってくるのです。大規模な設備ほど、途中で材が足りなくなる恐れもあります。


チップボイラーの熱をオガール地区に供給するエネルギーステーション

では、もっと効率的にバイオマスを活用するにはどうしたら良いのでしょうか?そのカギが熱利用です。木を燃やすと熱が出ますが、一般的なバイオマス発電所ではその熱を捨ててしまいます。昔から薪ストーブなどが活用されてきたように、暖房や給湯といった熱エネルギーにうまく利用すれば、木のエネルギーの70%以上を使うことも可能です。でも熱を遠くに運ぶのは難しいので、人里離れた場所につくられた大規模な発電所の熱は、捨てられてきたのです。

欧州などではそうして生まれる熱を有効活用しようと、住宅エリアの近くに、比較的小規模なバイオマス設備が設置されています。そして地中にパイプを埋めて、ある一定のエリアの暖房熱を効率的にまかなう「地域熱供給」が行われてきました。日本では自治体が税金や補助金を投入して行う実験的な事例を除いて、そのような事業は行われてきませんでした。しかし岩手県紫波町で、日本で初めて民間ベースで事業化する動きが始まっています。

◆全国から注目される「オガール地区」

岩手県紫波町は、盛岡市から車で南に30分ほど行った所にある人口3万4000人ほどの町です。この町の中心部では現在、行政と民間企業が連携して新たな街区「オガール地区」(※)を開発するプロジェクトが進んでいます。オガール地区は、町役場の新庁舎や民間テナントの入った商業施設、保育園や図書館、ホテルやスポーツ施設、そして住宅などで構成されるエリアとなっています。地区内には建設途中の建物もありますが、新庁舎は今月(2015年5月)開庁になるので、いよいよ格稼動するということになります。このプロジェクトは、補助金に頼らず地域活性化をめざす大規模事業として、全国でも注目されています。


紫波町が作ったモデルハウス。町産材を使って断熱性能が優れている

住宅をはじめ、オガール地区の施設がすべて完成するのは3年後の2018年頃を予定しています。地区内に新築される予定の住宅は57棟。土地は町が販売し、住宅には町の材木を活用した省エネ住宅を建設するよう義務づけています。せっかくの地域熱暖房を活かすために、家の気密や断熱性能もきちんとしようという狙いもあるのです。

ちなみに建設に携わる事業者は、ほとんどが地元企業なので、地域経済の活性化にも結びつくというわけです。そして、このオガール地区に冷暖房と給湯エネルギーを供給しているのが、地域エネルギーの会社である紫波グリーンエネルギー株式会社です。

※オガールとは、フランス語で駅を意味する「Gare」(ガール)と、紫波の方言で「成長」を意味する「おがる」をかけてつくった造語



紫波グリーンエネルギーには、20代、30代のスタッフが集う

◆地域熱供給事業とは?

「地域熱供給事業」というと聞き慣れないし、何だか難しそうですよね。でも原理はとても簡単です。現在は各家庭や施設が個別に設備を導入して使っている暖冷房や給湯ですが、それらを地域全体でまとめて、中小規模で自然エネルギー設備を活用していこうというもの。これによって地域全体のエネルギー源を、大きく効率化することができます。

例えば同じ自然エネルギーでも、各家庭で薪ストーブを入れようとすると高価になってしまいますが、地域全体でまとめて導入すれば、採算が取れます。従来型の石油やガスを使った暖房・給湯と比べても、基本的には光熱費も安くなります。もちろん、どれだけ安くなるかは燃料価格の動向など前提条件にもよるのですが、いずれにしても化石燃料の使用を減らすことができる上で、さらに価格面でも化石燃料と対等以上にメリットがあるシステムということになります。

紫波グリーンエネルギーの地域熱供給の仕組みは、このようになっています。まず町の農林公社で集めた材木の中から、建築や製紙には使えない間伐材などをチップに砕きます。このチップを砕くトラクターのような機械(チッパー)は、木質バイオマス利用の盛んなオーストリアから輸入したものです。

チップはトラックに載せられ、オガール地区にあるエネルギーステーションに投入されます。そして出力500キロワットのバイオマスボイラーに供給して、燃焼。そこで生まれた熱でまず水から80度の温水をつくります。温水はオガール地区の地下に張りめぐらせたパイプで各施設や住宅に送られ、暖房や給湯に利用されるという仕組みです。

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地域熱供給を行うパイプ。この管が地中に埋められている

住居エリアは暖房・給湯利用に限られますが、町役場や商業施設などには、暖房に加えて夏の冷房もまかなうことができるようになっています。このバイオマスボイラーがエネルギー供給を開始したのは2014年7月からですが、新庁舎が開設するこの5月からはさらに役割が大きくなります。初期投資にかかる資金は地域金融機関である盛岡信用金庫が融資。冷暖房や給湯をまかなう施設からの料金が、紫波グリーンエネルギーの収入になるのです。次回は、直面する課題やバイオマス以外のエネルギーについても取り上げます。


紫波町の新庁舎。2015年5月に開庁となった

関連リンク
◆紫波グリーンエネルギー株式会社

後編に続く



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