第67回:森林大国日本のバイオマスは、なぜ失敗続きなのか?/竹林征雄さんインタビュー(前編) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

前回のご当地エネルギーリポートでは、群馬県上野村の森林利用の取り組みを紹介しました。今回は、その上野村にアドバイスをしてきた木質バイオマス利用の専門家、竹林征雄さんへのインタビューをお届けします。日本の山林を活かすため、現在は日本全国からアドバイスを求められている竹林さんは、NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク副理事長で、エネ経会議の理事としても活躍されています。日本ではなぜ木質バイオマスのエネルギー利用が広まらなかったのか、そしてこれからはどんな方向をめざすべきかについて、手厳しい意見も含め、率直に語っていただきました。

日本は森林大国だが、うまく活用できていない

◆今回のトピックス
・日本のバイオマスはなぜ失敗続きだったのか?
・木を科学的、経営的に見てこなかった日本
・バイオマスの先進事例から学べること

◆なぜ日本のバイオマスは失敗続きだったのか?

高橋:日本とバイオマスという話では、残念な話から入らないといけません。これまで日本で木質バイオマスの取り組みがありましたが、その大半は失敗に終わっていますね。例えば、2002年からは「バイオマスニッポン総合戦略」が閣議決定され、各官庁から多額の補助金が注がれてきましたが、2011年にはそのほとんどが失敗だったと総括されました。うまくいかない理由はどこにあるのでしょうか?

竹林:日本の構造的な問題でしょう。日本は国土の67%が森林という、世界でもトップクラスの森林大国です。ところが国内で流通している木材の8割は外国産材で、貴重な地域資源を活かせていません。最大の問題は、国家が林業を産業として考えてこなかったことにあります。どうやって森から木材を出し、無駄のないよう使い尽くして利益を上げるのか、という視点で全体像を考えてこなかったということです。

高橋:森林や林業、木材などは、農水省、林野庁、経産省、環境省、国土交通省などさまざまな官庁が関わってきますが、各省がバラバラに動いていることも目立ちますね。役所は縦割りなので、ある程度は仕方ないかもしれませんが、残念な気もします。

竹林:役所は、自分が担当になった時だけその業務をそつなくやるのですが、一部の方を除けば自分ごとのように業者の身になって考えているわけではありません。全体像が描けていないうえに、担当になっても2-3年で異動になってしまう。だから専門家が育たないし、場当たり的な政策しか出てこないことになります。私は専門的に20年とか30年とか、バイオマスを専門とする人を育成する必要があると思っています。

高橋:上野村に導入した木質ペレットのガス化熱電併給システムは、ドイツからの輸入品ですね?発電設備は1億4千万円だそうですが、国内で作ればもっと安くなるのではないでしょうか?今の所うまくいっていないようですが。

竹林:日本にも技術はあるので、国産でできれば一番良いのですが、これも専門家を育てる仕組みができていないため、うまくいっていません。開発技術の審査でも、専門ではない人が審査をして予算をつけ、失敗することが大半でした。これまで小型のガス化設備だけで数十億円かけて、何台も開発実証機が製造されましたが、すべて失敗してきました。

チップが積まれたまま稼動停止になっている、東北の木質バイオマスガス化発電設備

高橋:ぼくも全国の現場を回る中で、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が補助金を出して作ったものの、止まったまま動かないバイオマスのガス化設備をいくつか見てきました。なぜ失敗ばかりなのに改善されないのか不思議でしたが、そういう構造ではうまくいかなくて当然ですね。

竹林:優秀な職員をドイツやオーストリアに派遣して、本格的に研修していけば、専門家を育成できる。それだったら何十億円もいらないし、その方が遥かに効率が良いと思います。日本は官僚だけでなく、メーカーも含めてちゃんとした調査や研修をやっている所はごくわずかでしょう。官から民まで、山を科学して産業としての視点から活用しようという意識が足りなかったのは、大きな問題です。

竹林征雄さん

◆木を科学的、経営的に見てこなかった日本

高橋:再エネが普及し始めたこの3年ほどは、その意識は変わって来ているのでしょうか?バイオマスに興味を持つ人自体は増えたように思いますが。
 
竹林:意識という意味では、高まっているとは思いません。一部を除いて、ほとんどの森林組合は高齢化もあって補助金頼みになっています。林野庁や自治体は、補助金を出して間伐をしていますが、それが未来にはつながりません。もっと予算を今後のバイオマスの活用法や政策、経済が回るしくみを研究するために使うべきです。FIT(固定価格買取制度)が始まった事で、確かに民間の大型木質バイオマス発電所は増えましたが、ほとんどは売電収入が目当ての大資本の地域外からの参入した場当たり的なものです。山や地域のことを考えて行動しているわけではありません。

厳しい言い方ですが、日本の林業は昭和30年代末くらいで、産業としてはいったん終わっているんです。岡山県をはじめいくつか林業がまだ盛んな場所はありますが、それも含めて、ある程度の規模の森林を手がけている製材業社は日本で40社ほどしかありません。ドイツやオーストリアは森林の量だけをみたら日本の半分なのですが、それよりも何倍もの森林を扱う製材業者が、100も200もあります。日本とではまるで比較になりません。

その差は、やはり林業を産業として捉えて来たかどうかということが要因になっています。木質バイオマスのエネルギー利用は、製材業が盛んな地域でこそ活きてきます。山から木材を切り出し、運搬、製材して建築や家具などに利用する。その上で、質の悪い材は製紙用チップやエネルギー利用に活用するというものです。そうした産業全体で木を丸ごと使い尽くそうとせずに、単にエネルギー利用だけを考えてもうまくいくわけがありません。

高橋:木をエネルギーとして活かすということは、昔は日本でもやってきたように思うのですが、チップやペレットというとなじみがないですね。

竹林:確かに日本で林業が盛んだった時代は、エネルギー利用として薪と炭が主流でした。でもエネルギー革命が起きて、石油やガスが普及したことで流通しなくなった。上野村もそうですが、それで林業がダメになった地域もたくさんあります。

地域熱供給事業が始まった岩手県紫波町。紫波グリーンエネルギーのスタッフがチップボイラーにチップを供給する

チップやペレットについては、これまで手がけてこなかったので、最初から科学的に研究する必要があります。木が違うと、チップやペレットに加工する方式や運搬の仕方、燃焼効率など、あらゆることが違ってきます。木材はどこで育ったものかによって組成も性質もみんな違います。木が違えば、含水率とか樹皮などに含まれる元素成分が違っていて、その成分の反応の仕方によってトラブルが発生することもあります。だからそれぞれ土地に合せて考える必要があるのですが、そこができていません。ドイツから機械だけ輸入して、日本の木でやっても簡単にはいきません。

日本では、木を科学的に研究していないのです。ドイツではだいたい松系が主流です。日本は固有種の杉ばかりが生えていますが、バイオマス利用が盛んな海外の国々にはそのような国はありません。その違いを踏まえて研究しないといけません。

高橋:議員がよく視察でドイツやオーストリアに行っていいますが、その効果はあまり出ていないようですね。

竹林:議員視察なんか行ったって役に立ちません。ほとんど海外旅行の気分でしょう。ちゃんと体系立てて本気で自分でやる覚悟で見て、考えていないから、いつまでも失敗続きなのです。2-3年間徹底的に研究して、日本の杉に合ったチップやペレットをつくり、それに合せて国産ボイラーや発電施設作るべきです。日本の能力を考えれば、そこにお金や人材を注げば不可能ではありません。

◆バイオマスの先進事例から学べること

上野村のペレット製造工場には、伐採された木材が集められる

高橋:本来なら国がやるべきことができていないので、自治体や民間でやろうという所が増えているように思います。先日は上野村の視察に竹林さんと一緒に伺いましたが、あそこも先進事例のひとつですね。

竹林:上野村は自治体が主導でやってきました。自治体主導だと担当者が変わるなどしてうまくいかなくなるケースもありますが、あの村は村長が2代にわたって、木で生きるという覚悟を持って挑んでいるという強みがある。先ほど言ったように、上野村は薪と炭で稼いでいた村でしたが、石油が普及して需要がなくなり、人口が3000人から1300人に減りました。村が消滅するかもしれないという危機感から、村の面積の94%を占める木材を資源として強く認識して、取り組み始めたのです。

村営の製材所を作り、シイタケを栽培して、その工場のエネルギーをバイオマスでまかなおうとなって、私に相談が来ました。高橋さんがエネルギーリポートで指摘したように、確かに上野村は揚水発電の固定資産税が潤沢にあったからそこまでできたという背景はあります。しかしその固定資産税は徐々に減って行って、いつかはなくなる。それを村はちゃんと意識しているからこそ、それまでになんとか環境面でも、経済面でも循環型の村にしたいと必死にやっています。

上野村きのこセンターでは、きのこを栽培した後の菌床も、乾燥させて燃やし、エネルギーとして活用している

高橋:行政と民間が協力して取り組んでいる地域として、岡山県西粟倉村での薪ボイラー導入の取り組みには注目しています。何億円もする設備ではなく、小さな設備から入れて行くのは身近な感じがしますね。

竹林:西粟倉村は小型ボイラーですね。あそこでは新しい産業を小さく産んで大きく育てようと、森の活かし方を捉え直しました。自治体も熱心ですが、より大きなことは「よそ者」である優秀な若い人たちが腹くくって移住して、バイオマス利用に取り組んでいるということですね。地域によって何をすべきかというのはそれぞれ違うのですが、いずれにせよ本気で取り組む若い方が出てきたことは大きいでしょう。

バイオマスの活かし方としても、いきなり上野村のような高価な設備を導入するのはお勧めできません。特にガス化の設備は、採算面でも相当ハードルが高くなります。西粟倉村のように、できるだけ小さなものからはじめて、地域になじんでから増設していくというのが一番理想的ですね。そうすることで、試行錯誤しながらバイオマスを利用する仕組みを創り上げていくことができます。

高橋:薪ボイラーであれば、日々の労働量は大変かもしれませんが、比較的低リスク、低予算で導入できますね。導入の仕方としては、他にどのようなスタイルがあるでしょうか?

竹林:例えば山村部から目を転じて、都市部では比較的大きなマンションやホテル、温浴施設などで、電気と熱を両方供給するコージェネレーションの小規模な設備を導入できるでしょう。すでにボルターという企業が、そのようなスタイルに適した小型のバイオマス熱電併給ユニットを製造しています。そのユニットであれば、病院や福祉施設、シェアハウス、食品工場のような所でも活用できます。

紫波町では、このパイプを地下にめぐらせて暖房と冷房を供給する

後編では、最近日本でも増えて来たバイオマス発電所の評価や、これからどのような視点で木材利用を考えるべきかについて聞いています。
後編はこちら

◆関連リンク
群馬県上野村のバイオマスエネルギーへの取り組み
岩手県紫波町の地域熱供給の取り組み


全国ではじまったエネルギーを通したまちづくり!

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