第52回:屋久島・日本でただ一つの自然エネルギー100%&発送電分離の島の秘密は!? | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

◆屋久島は電力システムのミステリーワールド!?

全国ご当地エネルギーリポートで今回取り上げるのは、世界自然遺産である屋久島の電力事情です。あまり知られていませんが実はこの屋久島、自然エネルギー100%の島なのです。またそれに加えて、日本で唯一つの、発送電分離を実現しちゃっているところなんですね。屋久島の話は、先日紹介したグリーンズに書いた記事に取り上げていますので、まずはこちらから読んで頂ければと思います。

記事はコチラ→自然エネルギー100%!電気事業者ではない「屋久島電工」から見える、電力会社に依存しない暮らしかた

でも不思議な屋久島の話は、一回の記事だけでは伝えきれない魅力があるので、今回はそのグリーンズの記事の続編として書いています。グリーンズの記事では、屋久島の水力発電や、発電を行っている屋久島電工の話を中心に書きました。そして今回は、発電された電気を家庭まで届ける、それぞれの電気利用組合の話を中心に紹介したいと思います。「配電事業」というちょっと日常では考えないとっつきにくい世界ではありますが、そこには奥深い面白さがあるのです。


『もののけ姫』の舞台とも言われる世界遺産の白谷雲水峡でヤクシカと出会う

ちなみに発送電分離とは、おおざっぱに言えば発電する会社と、そこで生まれた電気を送電する(送電網を管理する)会社が別々の経営になるということです。日本では戦後から地域独占を認められた電力会社によって発送電はもちろん、家庭や企業への小売りも含めてすべて同じ会社が一括で担うシステムがとられてきました。現在はそのシステムの見直しがはじまっていて、2018年にかけて、発電と送電は別の会社にしようという議論をしています。ということなんですが、屋久島だけはすでに日本の中で大手電力会社が独占していない、正真正銘の発送電分離が実現している島なのです。

なぜ屋久島だけがそうなったのかという事情は、それこそグリーンズで書いていますが、ひと言で言えば、望んでそうなったというわけではなく、戦後に大手電力会社が地域独占していく過程からこぼれ落ちちゃったようなところがあるのですね。電力的に見れば、取り残された地域だったのです。でもそこでやっていたことが、気がついたらトップランナーとして注目を集めてしまったのです。さて、電力のミステリーゾンである屋久島の配電事情は、どのようになっているのでしょうか?

◆複雑な屋久島の送配電事情


急峻な山岳地帯が広がる屋久島の模型。ここに雨が降ることで、多くの滝が流れ、豊富な水力資源が生まれる

さてその屋久島なんですが、まずなぜ100%自然エネルギーが可能かと言えば、なんといってもその豊富な水です。この島は平地は一部で、上陸するとすぐに傾斜のある山と森林でできています。花崗岩が隆起した急峻な地形と、豊富な雨によって、島の90%が森林におおわれているのです。『もののけ姫』の森のモデルになったとも言われる独特な景観は、この環境から生まれたんですね。島のいたるところに滝があり、この島なら水力発電がたくさんできるだろうということは、島を訪れた方ならすぐに実感できるかと思います。

現在、屋久島では島のほぼ100%を屋久島電工という民間企業が3基の発電所による水力発電でまかなっています。しかし島の水力発電のポテンシャルはまだ何倍もあります。1993年に世界自然遺産にでも、送電網が九州本土とつながっていないので、島で使い切れないほど発電しても使い道がありません。そのため新たな開発は行われていないのが現状です。

発電した電力を家庭に届けているのは、屋久島電工ではありません。送電と小売りを担当するグループが、エリアごとに4つあるのです。これは、屋久島の電力システムの歴史的な経緯から、このような複雑な状況が生まれたものです。屋久島には島の周囲に24の集落があり、その集落ごとに電力供給を行ってきたという歴史があるのですね。

地図を見るとわかりやすいのですが、まず島の北東の一部のエリア(3つの集落)だけは九州電力が担当しています。ここは、一番始めに電化された地域で、伝統的に九州電力が送配電を担当してきました。他の地域もやってくれと言われたこともありますが、グリーンズの記事で紹介したように、九州電力としてはいろいろと条件をつけて、拒んできたというのが実態です。


屋久島の配電は九州電力と、3つの協同組合によって行われている

他の地域はどうやって電力を供給しているのでしょうか?歴史的には、集落ごとに住民が出資して電気利用組合という協同組合を設立し、送電網を整備、そして各家庭に電気を届けるということをしてきたんですね。

屋久島は大きく分けて島の北部の旧上屋久町と、南部の旧下屋久町から成り立っいます。2007年に合併してひとつの屋久島町という自治体になるわけですが、電力供給システムは合併前のままなのです。旧上屋久町エリアでは、現在は屋久島町役場の電気課が電力供給を実質的に担っています。また旧下屋久町エリアでは、農協が担っています。その2つとは別に、南部の安房という集落は独自に安房電気利用組合を設立して、今も独立を保っています。安房は島でもっとも人気の高い縄文杉の見学ルート入り口に位置していて、比較的かたまって人々が暮らしている場所です。

つまり現在は、九州電力、屋久島町電気課、農協(種子屋久農業協同組合)、安房電気利用組合という4つが、屋久島電工から電気を買い取って、それぞれ自前の送電網を管理しながら各家庭に電気を売っているという仕組みになるわけです。九州電力のエリアでは、当然ながら九州本土と同じ電気代になります。その他の3者とは、屋久島電工が話し合いを持って、電力の卸価格を決めています。


かつて森で伐採した屋久杉を運んでいたトロッコ

◆収益で地域貢献に活用 — 安房電気利用組合

屋久島で配電を担う組織の中でも、もっともユニークな運営をしているのが安房電気利用組合です。安房は島で2番目に大きな集落で、住民は約1千世帯ほど。この家々に電力を送るために1953年に設立されたのがきっかけです。当時は地区の住民が一口いくらという形で出資して、労働力の提供や電柱用の木材を供出するなど協力しました。屋久島は台風の通り道なので、設立当初から現在に至るまで設備設置や点検、停電などの際の対応を地域でまかなうのは大変な苦労があるようです。ただ、それでも安房地区はエリアが狭く、他の配電組合に比べると、点検や災害時の復旧が比較的やりやすいエリアなので、島で最も停電が少ないのも事実です。


安房電気利用組合の事務局には、雷で壊れた送電設備も展示してある。住民による電力供給の歴史は、自然災害との闘いの繰り返しだった

現在では正組合員が220名、准組合員が600名で運営をしています。安房に新しく引っ越して来た人には、准組合員の加入金として1万円を預かり、転出する際に必要経費を差し引いて返還するという制度をとっています。しかし、本土から転居してきた人は、入居したら電力会社に連絡をすれば電気が来るのは当たり前なので、このシステムをなかなか理解してもらえなくて説明が大変だとのこと。

最も興味深い点は、組合が毎年黒字経営で、設備の修繕費や災害用の積立金をのぞいた収益を、地域還元している点です。公民館の運営費や敬老会、地域の夏祭りなどに寄付をしたり、街灯を設置するなど積極的に活用してきました。また、2013年に実施された組合設立60周年の記念行事を催し、地区住民の要望の多かった歌手の八代亜紀さんを招いてコンサートを行いました。エネルギーで得た収益を、具体的に地域のニーズに活かしているのです。このようなことは、大手電力会社ではできません。地域にベースを置いたエネルギーの取り組みだからこそ実現できるのです。


安房電気利用組合の小脇清治組合長。今も一部で使われているトロッコを、観光用に走らせようというアイデアも出している

安房電気利用組合の小脇清治組合長は、さらに大きな構想もかかげて取り組んでいます。「島の水の恵みは島民のためにもっと活かしていきたいと思っています。いずれは屋久島の電気料金を、日本一安い価格で提供できるようにしたいと思います。ただ、それには安房単独では難しい。いまはそれぞれの配電組合が分かれてしまっていますが、町が合併してひとつになったように、配電組合も一緒になって、島民の利益になるような仕組みをつくりたいと考えています」

離島で都市部と同じような安定供給と低価格を実現し続けるのはたいへんですが、実際、2011年の東日本大震災以降は、原発停止の影響を受けていない屋久島の電力料金は、九州電力の料金よりも安く提供できています。これも発送電分離の効果だと言えるでしょう。安房電気利用組合では、今後も他の組合と協議しながら、地域住民のために最適なエネルギーのあり方を探っていきたいとのことでした。

◆送電線の管理で苦労する自治体と農協

次に、島の北部地域の送配電を担当する旧上屋久町にある町役場の電気課を訪問しました。町が送電しているのは北部の9つの集落で、安房よりも広いエリアで約2400世帯を担当しています。ここでも収益は災害対策に積み立て、残った費用で街路灯や防犯灯を設置するなど活用していましたが、安房よりもエリアが広いため、点検をするだけでも大変な労力がかかっているとのことでした。

自然エネルギー利用と電気自動車の普及(詳しくはグリーンズの記事へ)など、外から見ると先進的な取り組みをしていることについて話を向けると、担当の内田康法さんは、「いやぁ、この地域は取り残されただけですからね」というそっけない反応でした。


町の電力供給網について説明する、屋久島町役場電気課の内田康法さん

そのような反応には理由があります。この地区は、島の中でもっとも電化が遅れた地域で、無電化を解消するために、昭和26年に地元の人たちが協同組合を作り、何とか電気をもってきたというのがきっかけです。当時の自治体である村がバックアップしていたのですが、しだいに協同組合から委託される形で、町が運営をするようになったのです。長い送電網を点検するための巡回作業は、内田さんをはじめ、電気課の5人の職員が交代で行っています。また、電気料金の徴収などについては非常勤嘱託職員を雇用したり、送配電網の保守管理を地元の事業者に委託していて、送電網を握ることで一定の雇用を生んでいることは確かです。

島の南側の種子屋久農協は、14ある集落に電気を送っています。島で最も長い送電線を受け持っているだけに、その管理に苦労していることは屋久島町以上のものがあります。そのため停電も比較的多く、配電を農協が担当する地域の住民からの評判は必ずしも良いものではありません。

もちろん、農協でもメーターの検針や電気料金の集金を各集落に委託しており、集落に委託費を支払っています。集落では、委託費でお祭りの経費や区長の人件費をまかなっており、地域の中でお金の循環が作られているという面もあります。

ただ屋久島農協は、2006年に種子島農協と合併しました。本部は種子島に置かれているので、屋久島で収益が上がっても、地域のためにはあまり使えず、基本的には種子島に持って行かれてしまう構造になっているとのことでした。また、近いうちに鹿児島の農協と一体になる計画もあるようで、その種子島の収益も鹿児島に持って行かれる形になる可能性もあります。

農協の例と、地域に利益還元をしている安房地区と比べると、やはり地域に収益を活かせる主導権があるかどうかということはとても重要だということを改めて感じました。

◆数々の課題と、屋久島から見えてくる可能性は?

自然エネルギー100%、発送電分離、電気自動車の普及(詳しくはグリーンズのコチラの記事へ)と、良いこと尽くめのように見える屋久島のエネルギー事情ですが、現地に住んでいる住人にとってはそうとも言えません。


島に設置されている電気自動車ステーション

最近は台風の直撃も少なく、災害による停電はほとんどありませんが、設備の点検のためのいわゆる計画停電は定期的に行われます。また、九州電力が管轄していれば受けられるはずの共通のサービスを受けることができません。例えば深夜電力の割引システムがなかったり、太陽光発電設備を設置しても、余った電気を売電することができないので、基本的には自家消費するしかないのです。


複雑に張り巡らされた送電線

小さな島をさらに4つの組織が配電するという仕組みも効率的ではなく、島の道路には多数の送電線や電話線が張り巡らされ、景観を乱しています。また、屋久島電工にしても、各配電組合にしてもそれぞれそれなりの収益をあげていますが、規模が小さいので大規模な設備更新が簡単ではありません。今後、島の発電から配電までをどのように担っていくのかについては、安房電気利用組合が提案するように、配電網を一体化するなど思い切った改革が必要になってくるかもしれません。
だからぼくとしては、「屋久島はスゴい!みんなで屋久島に見学にいって見習おう!」というような話をするつもりはありません。


豊富な水分と独特な気候が多様な生態系を育む

ただ、それでも不便な島で九州電力に依存せず、地域住民が主体となって送配電を担ってきた歴史は、大手電力会社が運営しなくても実現できるのだというお手本を示しているようにも思います。また、ドイツやオーストリア、デンマークでエネルギーシフトを実践するときに地域の人々がお金を出し合ってつくった協同組合が中心となったエネルギー所有の動きが、形こそ違いますが、日本でも可能なことを示しているのはないでしょうか。確かに屋久島では、意図的にそのような仕組みができたわけではありませんが、今後、日本各地でこうした協同組合を軸とした発電、送電、配電の仕組みができてくる可能性があります。そのときに、「屋久島では実際にできているじゃないか」というある種のシンボリックな存在になってくるかもしれません。

(取材協力:山崎求博=NPO法人足元から地球温暖化を考える市民ネットえどがわ


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