第48回:自然エネ普及のカギを握る「接続可能量」という発想は、実は日本だけ! | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

あけましておめでとうございます!!今年も全国を精力的にめぐって、ご当地エネルギーの今を伝えていきますので、応援よろしくお願いします!

◆欧米は完全に、自然エネルギー普及にシフト

 2014年の末、欧州連合(EU)は、2030年までに自然エネルギーの電力を最低でも45%までに高めるという高い目標を掲げました。(熱や燃料などすべてのエネルギーを含めると27%)。もはや原発大国であるフランスやイギリスも含めて、自然エネルギーへのシフトを本格的に進めていることは間違いありません。

 そんな中、日本でも遅ればせながら固定価格買取制度(FIT)をきっかけに太陽光発電を中心に普及がはじまりました。2013年の世界の太陽光発電市場で、日本の新規導入量が中国に次いで世界第2位となりました。この制度については、太陽光以外の種類が伸びていないことや、「ご当地電力」のような小規模で地域密着の取り組みが優遇されないこと、熱エネルギーが評価の対象外であることなどなど、さまざまな改善点は必要となりますが、「自然エネルギーを広める」という点においては、大きな成果をあげていると言えます。

 ところが、日本では昨年末から電力会社が「これ以上自然エネルギーを送電網に入れられない」と声を上げたことで、経産省がFIT制度の見直しを検討、パブリックコメントを1月9日まで実施していたことは、年末のリポートでお伝えしたとおりです。

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eシフトが主催したパワー・シフト・シンポジウム(1月10日)にて、経産省の案の問題点について指摘するエナジーグリーンの竹村英明さん(左)

 一方、2016年末をメドに実施されるとしている「電力の小売り自由化」の時期も迫って来ています。いま、世の中ではまったく話題になっていませんが、もしこれがうまく機能すれば、一般家庭も電気を買う会社を選ぶことができるのです。ただ、多くの人が無関心のままだと、いままでのように従来の既得権益を持っている人たちの都合の良いように制度がつくられてしまう可能性もあります。

 そのような意味からも、日本で今後自然エネルギーが躍進するかどうかは、今年の動きにかかってくる部分が大きいのではないでしょうか。そんな視点から、現在経産省が提案している新規制度案について1点だけ紹介しておきましょう。

◆「接続可能量」という考えは日本だけ

 経産省が出した新しい提案では、各電力会社のエリアごとに「自然エネルギーをどれくらいまでつなぐことができるか」という「接続可能量」という数値が設定されているのですが、その計算方法があまりに原発優先なのでおかしいのでは?というのが前回のリポートの要旨でした。

 今回はさらに、その「接続可能量」という考え方そのものを取り上げます。電気があまり増えすぎると、コントロールできなくなり効率が悪化したり、最悪の場合は停電になる。そんな考えのものと「コントロールしにくい」と考えられている自然エネルギーに「接続可能量」を設定しているわけです。その「接続可能量」は、実質的に自然エネルギーの普及に制限をかけるものになります。でも実は、その「どこまで不安定な自然エネルギーを入れていいのか」という考えのもと、接続可能量を出しているのは、世界でも日本だけなのです。

 なぜ日本では電力会社がこのような考えをとるのでしょうか?それは、従来の同じ出力で発電し続ける原発や火力発電などを前提としたシステムで、自然エネルギーについても考えているからです。この考え方ではまずベースに原発があり、その次に火力発電があり、「発電量にムラがある」としている自然エネルギーは優先度を低く設定しています。できるだけ新しいことをしたくないとか、できるだけ自然エネルギーを入れたくないという意向がはたらいています。

 一方、欧米で自然エネルギーを大量導入している国々では、まずは燃料費がかからない自然エネルギーを最大限に活かそうと考えます。風力や太陽光の発電に制限をほとんどかけることなく送電網に流し、足りない分を火力など他の電源でまかなうという調整法をとっています。最近では、天気予報と同じように、どれくらい風力が発電できるかという予測が、かなり正確にわかるようになってきています。そのため「変動するから不安定」という考え方は、欧米にはありません。実際、風を正確に予測するシステムを運営しているデンマークは、風力発電だけで39%、スペインは50%程度の発電を行っているのです。

 自然エネルギーに制限をかける「接続可能量」という考え方は、いかにして自然エネルギーを少なく導入するか、という発想から生まれて来たものでしょう。送電網を賢く使いこなして、効率的に運用するためには、できるだけ火力発電の割合を減らしていくためには、その発想を転換する必要があるのです。天候予測システムをはじめ、自然エネルギーを大量に導入している国のシステムには、技術的に特別難しいことをやっているわけではありません。欧米にできて日本にできないわけがないのです。あとは、どんな選択をするのかという意志の問題だけなのに、なぜか経産省や電力会社は「不安定な自然エネルギーのせい」かのようにして積極的に動こうとしていないようです。


同シンポジウムで講演をした自然エネルギー財団の大野輝之さん。「自然エネルギーをメインの電源にして、他の電源がそれを補うシステムに転換していかないといけない」と語る

 送電網をどのように活用すべきかについては、詳しくはこちらの関西学院大学の安田陽さんのコラムを参考にしてください。安田先生は、世界の送電網の事情に大変詳しく、実はぼくも昨年末、安田先生にインタビューしたのですが、まだまとめていません(汗!)。近々がんばってまとめますのでお楽しみにしてください。

 ドイツでもまだ自然エネルギーの割合が低かった頃は、大手電力会社が「送電網に、不安定な自然エネルギーは3%までしか入れられない」と言っていました(トーステン・ビショッフ氏=ドイツ環境・建設・原子力安全省気候変動対策・エネルギー転換局長)。しかし、現在は電力のおよそ30%近くをまかなっています。

 1月10日には、このような送電網の問題や、電力の小売り自由化についてなど、幅広く取り上げるイベントをeシフトというネットワークが実施しました。eシフトでは、今後も引き続きこうしたテーマのキャンペーンを行っていくとのこと。当日の様子や詳しい内容はeシフトのホームページよりご覧ください。

 ご当地エネルギーリポートでも、地域の取り組みに深く関わってくる国の政策のゆくえについて、定期的に取り上げていきたいと思います。では今回はこんなところで!