第49回:自然エネルギーは不安定ではない/系統接続の専門家・安田陽氏インタビュー | 全国ご当地エネルギーリポート!

全国ご当地エネルギーリポート!

-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

今回のご当地電力リポートは、前回に引き続き、送電網に自然エネルギーをどれくらい入れられるのか、あるいは入れられないのかということが争点になっている、いわゆる「系統接続問題」を取り上げます。お話を伺ったのは、まさしくその系統接続問題を専門としている安田陽准教授(関西大学)です。

安田さんは、自然エネルギーをめぐってさまざまな問題が取りざたされているけれど、最大のものは制度上の問題であり、自然エネルギーそのものの問題ではないと語ります。

おおざっぱな流れとしては、2012年7月から固定価格買取制度(FIT)が導入されたことで、日本でもやっと自然エネルギーが増加し始めてきました。ところが昨年9月末に九州電力など5つの電力会社が、自然エネルギーの電力を送電網につなぐことを保留にする「九電ショック」と呼ばれる事態が起きます。それ以降、経産省が固定価格買取制度のあり方を見直したり、メディアは「もう自然エネルギーはダメだ」というような報道をしたりということで、急速に自然エネルギーへの熱が冷めていくかのような状況がつくられようとしているのです。ぼくがリポートを続けて来た地域のエネルギーの取り組みも、今後大きな影響を受ける可能性があります。

しかし前回のリポートでは、電力会社や国が語る「これ以上送電網には自然エネルギーを入れることはできない」と規定している「接続可能量」という考え方は日本だけのものだとお伝えてました。今回は、世界の送電網の状況にも詳しい安田さんお話から、その辺りをより詳しくお伝えし、いま日本が採るべき方向性について考えていきたいと思います。


関西大学の安田陽氏

◆自然エネルギーを受け入れることはビジネスチャンス
Q:「接続可能量」という考え方は日本独自のものだということですが、欧米ではどのように運用しているのでしょうか?

安田:日本では、国や電力会社は「電力の安定供給」を錦の御旗としてきました。だから「出力の変動が大きい自然エネルギーは、できるだけ少ない方が安定する」という態度になっています。

では自然エネルギーがたくさん入った国では、頻繁に停電が起きているかと言えば、きちんと受け入れる準備さえすれば問題がないことが実証されています。欧州の電力会社は、安定供給は当たり前で、さらに自然エネルギーを受け入れることが技術力の高さの証明になります。ビジネスチャンスにつながるので、積極的に受け入れているのです。
 
「接続可能量」という自然エネルギーを受け入れる上限を設けて、それ以上は受け入れなくて良いとしている日本とは、大きな違いがあります。必要なのは「あとどれくらい入れられるのか」という議論ではなく、日本全体でどれくらい自然エネルギーの電力を入れる体制をとれるかということです。日本では残念ながら変動する電源を系統全体でうまく吸収して活かすという選択肢が知られていません。今までのやり方だけでは対応できないことも多いので、電力会社だけを叩くのは、フェアでないと思います。

例えば同じ太陽光発電という種類の電源を、九州に集中して設置していた発電事業者の側にも、反省する点はあるはずです。しかし今回のことで自然エネルギーがこれ以上入れられないというわけではありません。きちんと対策をとれば、今の日本で無理だと言われていることであっても、欧州ではすでに実現していることがたくさんあるのですから。

◆実は、風力発電は最も安定した電源のひとつ
Q:誤解の一つに、自然エネルギーは不安定だというものがあり、それが今回の送電網をめぐる問題にも現れているように思うのですが。

安田:そうですね。例えば風力発電は、不安定な電源の象徴のように考えられていますが、世界的には、実は最も信頼できる安定した電源だということが常識になりつつあるのです。風車1基だけでデータを見ると、大きく変動しますが、数を増やせば変動は緩やかになります。また、分や時間の単位では大きく変動しますが、1年とか、数年という単位で見れば、だいたい一定の発電電力量が得られることがわかっています。

火力発電は安定しているように見えますが、燃料費の価格高騰がいつ起きるかもわからないという不確定要素があります。風力の燃料は無料ですから、事業者にとっても投資家にとっても予測がしやすい。だから欧州各国ではできるだけ自然エネルギーの電気を優先的に使って、他のものは補助的に使用するというふうになってきているのです。

そもそも電力系統から見たら「安定な電源」という概念はなく、火力や原子力も突然停止するかもしれないということが予め想定されています。ですので、風力発電や太陽光発電が変動しても、「不安定」だから直ちにアウトというわけではありません。要はその変動が想定の範囲内にあるか、ということが問題であり、現在の日本の導入レベルはまだまだ低く、その範囲を超えることはないのです。


欧州の風力発電は、年々予測を上回る速度で導入されている。導入されればされるほどコストが下がり、技術的にも改良が加えられ、導入しやすくなることを示している(製作:安田陽)

◆自然エネルギーを活かすには、強力な規制機関が欠かせない
Q:では、どうすれば日本で自然エネルギーを大量に導入できるのでしょうか?

安田:いまの日本では議論すらされていないのですが、独立性の高い規制機関を設立して、適切な電力市場を設計することが欠かせません。まずは国が主導権を持って、強力な規制機関をつくるべきです。
 
「電力自由化」といえば、従来の規制を緩和するというイメージがあると思います。確かに、発電と小売りの分野では規制緩和が必要ですが、みんなが利用することになる送電網については、公平にするため規制を強化して、透明性を確保しなくてはいけません。情報公開などをきっちりやることによって、電力市場を誰もが信頼できるようになるのです。誰かが情報を隠しているということになれば、誰も新しい分野に投資しようとはしませんから。

欧州連合(EU)では、2009年の電力自由化指令により政府から独立した強力な規制機関がつくられました。そこが強く働きかけることによって、電力市場が成り立ち、自然エネルギーの大量導入が促進されたのです。欧州でも10年前は「そんなことは不可能だ」と言う人たちはいましたが、できない理由を探るよりも、どうしたら実現できるかという工夫をしたのです。日本でもまず国が動くことで、同様のことができるはずです。今回、送電網をめぐって混乱が起きていますが、これは欧州では15年前から経験して来たことです。

今回の出来事があったからといって「やはり自然エネルギーはダメだ」というふうにするのではなくて、こうした問題を今後の日本にとってポジティブな方向に動かしていく原動力にできれば良いのではないでしょうか?
 

太陽光発電と風力発電の導入量の国際比較のグラフ。日本は以前より増えたとはいえ、各国と比べるとまだまだ。ちなみに、設備認定されているもの(実際にはまだ稼動していない量)を入れても世界のトップレベルにはまったく及ばない(製作:安田陽)

ちなみに欧州が電力自由化と自然エネルギーの分野でイニシアティブをとってきた理由には、CO2の削減などといった目標以上に、明確にこれがビジネスになると考えているということがあります。

また、ロシアから天然ガスを輸入しているのでそこへの依存を減らしたいという思わくもあるのです。それはエネルギー安全保障の問題でもあります。海外への化石燃料への依存という意味では日本は欧州以上に、積極的にやる必要があるのではないでしょうか。自然エネルギーを活かすシステムを築くことが、日本が生き残る上での重要なカードなんだという認識が必要です。
 
いずれにしても必要なのは。「後どれくらい入るか」という議論ではなくて、日本全体でどれくらい自然エネルギーの電力を入れられるのかについて本気で取り組んでいくことだと思います。

◆インタビューを終えて

安田さんとお話ししていてわかることは、いかに日本での議論やメディアで報道されていることが、世界基準とかけ離れた誤解と神話に基づいているのかということでした。安田さんは、そうしたエネルギーにまつわる多くの誤解を解いていこうと奮闘しています。多少専門的にはなりますが、1月14日にシノドスに安田さんが寄稿された記事からもそのことはわかります。さらに詳しく知りたい方はこちらもご覧ください。

日本の電力技術は遅れている、と言うべき日が来た(シノドスジャーナル)

また、安田さんの著書『日本の知らない風力発電の実力』(オーム社)は、専門家の本でありながら一般の人にもわかりやすく風力発電の誤解を解きほぐしてくれる好著です。こちらも合せてご覧ください。

関連記事
第47回:自然エネルギーの火を消さないために、年末年始はパブコメを!
第48回:自然エネ普及のカギを握る「接続可能量」という発想は日本だけ!