第30回:市民ファンドで意志あるお金を廻す! 伊藤宏一さんインタビュー(後編) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

 「全国ご当地電力リポート」第30回です。いやぁ30回まで来ましたね~。もちろん、「地域とエネルギー」のテーマではまだまだお伝えしたいことがあるので、50回、100回と続けられるよう、これからも1回1回に魂を込めて!役に立つ情報をお届けしていきたいと思います。応援よろしくお願いします!

 今回は前回に続き千葉商科大学教授の伊藤宏一さんのインタビュー後編をお届けします。今回は、実際に市民ファンドを通じた自然エネルギー事業に関わった伊藤さんの経験から、猛威をふるう金融資本主義に対してどのように立ち向かっていくのかについて述べていただいています。

◆金融資本主義に立ち向かう価値をつくる

 私が自然エネルギー事業に関わるようになったのは、2008年のリーマンショックの後です。私はファイナンシャルプランナーとして、個人や家庭のライフプランニングをアドバイスしてきました。少子超高齢化で年金も先細り、政府財政を支えるために銀行預金は超低金利といった中で、生活に必要な資金をどう確保していくのか、個人も家庭もそれを意識して中長期のライフプランを立てていかないといけません。


2014年2月に福島で開催されたコミュニティパワー国際会議2014in福島

 暮らしとお金に関わる仕事をしていく中でも、特に2000年代に入ってから危機感を感じるようになりました。先ほど言ったような金融資本主義の暴力が、猛威をふるうようになってきたからです。私は、金融資本主義のオルタナティブになる対抗的な金融のあり方をつくり出す必要があるのではないかと感じました。そう思っていたときに、ISEPの飯田哲也さんと出会いました。そして、自然エネルギーを市民出資という手法で広げていることを知り、私もその発展に「ソーシャルファイナンス」という視点から取り組みたいと思ったのです。

 私が関わりをはじめたのは、2009年からになります。以前から研究者としてだけでなく、実践することが大事だと考えていたので、躊躇はしませんでした。私は税理士の資格も持っているので、事業計画を含めて、弁護士の方とコラボしながら事業計画をつくるお手伝いをするようになりました。当時は「おひさまファンド」(※)がすでに実績をあげていて、これからもっと広げていこうとしている時期でした。

 最も印象に残っているのは、2010年の秋から募集をはじめた富山県の「立山アルプス発電」という小水力発電事業のファンドです。全体の予算が約11億円でしたが、銀行からの融資を受けられず、8億円近くを市民出資で集めなければいけませんでした。当時の市民出資の額としては群を抜いていたので、きちんと計画はしたものの、本当に全額集まるのか未知数だったことは確かです。

 募集開始直後はなかなか集まりませんでした。しかし、翌年に東日本大震災が起きて、自然エネルギーの重要性を感じた人たちの注目が一挙に集まりました。そして8億円が集まって、2012年の春には事業を開始することができました。その後、固定価格買取制度ができて、事業としては非常にうまくいったケースとなっています。

 その立山アルプス発電以降、続々と各地で地域エネルギーのプロジェクトが立ち上がってきました。これはまさに3・11でやるべきことに気づいた人が非常に多かったということでもあると思います。

※おひさまエネルギーファンド株式会社
飯田市のおひさま進歩エネルギーをファンド面から支える関連企業。2004年以来、毎年のように市民出資の仕組みをつくってお金を集めてきた。


2014年1月に市民ファンドの募集を開始した「市民エネルギーやまぐち」が開催したイベントの様子(写真:市民エネルギーやまぐち)


豪雨災害で倒壊した萩市内の建物。市民エネルギーやまぐちでは、市民ファンドに災害支援の寄付を加える形で募集している。詳しくは自然エネルギー市民ファンドのサイトまで。(写真:市民エネルギーやまぐち)

◆変わりはじめた市民出資をめぐる動き

 震災によって変わったのは、市民出資に参加する一般市民の反応だけではありません。環境省は昨年から、グリーンファイナンス推進機構という組織をつくり、地域のエネルギープロジェクトに補助金ではなく、出資を積極的に行っていくことにしました。これは従来の補助金政策とはまったく違うものです。補助金は出して終わりなので、補助金に依存する事業者が増えるだけになってしまいます。今回の出資スキームは、国がリスクをとって事業を支援するが全体の出資額の2分の1未満で議決権のない株式とするので口は出さない、というものです。それを国が本腰を入れてやりはじめたというのは、画期的なことです。

 また、自治体でも新しい動きが起きています。先進的な環境政策を進める長野県では、2014年4月から「収益納付型補助金」というものをはじめました。こちらは収益が上がれば、収益分含めて返してもらう性質のものです。

 いずれも出しっ放しのお金ではなく事業の自立を促す政策として期待できます。
 そして地域金融機関にもようやく、こうした取り組みに積極的に融資していこうという動きが出てきました。以前は自然エネルギー事業への融資経験がほとんどなかったため、全体として及び腰だったのですが、ここ数年で評価できるようになってきたのです。そうした動きを後押しする手引書も環境省が作成しました。

 私が関わりを始めた頃は、低利で融資してくれる金融機関は飯田市の飯田信用金庫や八十二銀行くらいでしたが、この数年で静岡の静清信用金庫、小田原のさがみ信用金庫、山口の萩山口信用金庫など、着実に増えてきています。数だけでなく、内容的にも10年前より良い条件で融資を受けられるようになってきています。とはいえ、まだまだこのような事業に融資する金融機関は多いとは言えません。今後はこうした動きを全国で着実に積み重ねていくことが大事になってきます。

◆「お金が主人公」だとロクなことにならない


伊藤宏一さん

 これまで市民風車事業を進めてきた自然エネルギー市民ファンドとおひさまファンドを合せて、集まった市民出資の総額はおよそ60億円ほどになります。「市民から小口で60億円集めた」と聞けば、大変な金額だと思うかもしれませんが、金融の世界から見ればまったく違った景色が見えてきます。

 いま証券会社などで一般の方が買える投資信託には、一番大きいもので1兆円の純資産残高のあるファンドが3つくらいあります。さらに、数千億円規模のものなら数十もあります。私は、市民出資で自然エネルギーを広めていく事業が、数千億円の規模になるポテンシャルはあると思うのです。なぜならすでに述べたように、透明で目的がはっきりしていて、市場リスクも取りません。そして公共性があり、地域再生にもつながります。そういうものへの投資が一般的になれば、2000億とか3000億集まるのは不思議ではないのです。もちろんそこに到達するためには、社会的・倫理的に訴えると同時に、事業収益を上げ適正な範囲で収益分配できることや、広範にわかってもらう仕組みなど、いろいろな工夫をする必要があるでしょう。


市民風車を始め、数多くの市民ファンドを扱ってきた自然エネルギー市民ファンドの加藤秀生さん

 ご当地エネルギー事業の取り組みは、分散ネットワーク型の社会や文化をつくっていくことの一環です。市民出資はそれを金融で支援するということです。証券市場では儲けのことしか考えないギラギラした金融が根強くある。そしてネットの世界では、正体のよくわからないビットコインがある。お金はその両方で廻っていますが、そのいずれでもない、新しいまともなオルタナティブ金融があるということを多くの人が知るようになれば、流れは変わっていくはずです。

 お金というのはそれ自体に価値があるのではなくて、何かと交換するから価値が出るのです。一人一人が、自分のお金を自然や人間の価値、地域や文化の価値と交換しようと考えるようになれば、お金が主人公の金融資本主義的価値観の転換ができるのではないでしょうか。

 今の日本の金融は、まだまだ金融機関の力が強く、市場は投機性が強い状況です。これに対抗して人間と地域と自然に奉仕する新しい金融文化を創る必要があります。それは実は、頼母子講や無尽のように、日本の人々が伝統的にやってきたことでもあります。大切なのは、顔と顔の見える関係(ヒューマンスケール)で、「意思あるお金の回し方」を新しいレベルで再生しましょうということです。

(前編はこちら)

◇関連リンク
「自然エネルギー市民ファンド」
おひさまファンド


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