第29回:市民ファンドで意志あるお金を廻す! 伊藤宏一さんインタビュー(前編) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

 自然エネルギー関係の話題として5月7日に、細川さんと小泉さんの元首相コンビを中心とした「自然エネルギー推進会議」が発足の記者会見を行い、大きな注目を集めました。具体的な動きはまだ決まっていないようですが、「脱原発をめざす国民運動にしていく」とのこと。自然エネルギー普及に向けてどんな取り組みをしていくのか、今から楽しみです。

ここでお知らせを2つほどさせていただきます。

お知らせその1)前回の投稿で紹介した拙著『親子でつくる自然エネルギー工作』(大月書店)の1巻・風力発電編が12日に出版されました。うちわや紙コップなど身近な素材から自然エネルギーを自分で手作りしてみませんか? 2巻の太陽光発電編は6月発売です。



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お知らせその2)多摩電力とともに地域でのエネルギー循環をめざす多摩循環型エネルギー協会(多摩エネ協)が主催する「次世代リーダー育成プログラム」第2期生の募集が始まりました。これは、自然エネルギーや環境問題をテーマに「行動する人材の育成」を育てようと大学生・大学院生を対象として1年間行っているプログラムです。エネルギーに関心のある若者はぜひ参加してみてください!1期の報告会にはぼくも参加したので、近いうちにここでもご紹介できたらと思います。

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◆ご当地エネルギーを「市民出資」で実現

 さて、今回のご当地電力リポートは、市民ファンド(市民出資)の特集です。「ご当地電力」のエネルギー設備を設置するため「市民ファンド」で資金を集めることが盛んになっています。市民ファンドとは、全国の不特定多数の市民から小額のお金を集め、10年や15年かけて、収益に合せた配当を投資元本に加えて返すというもの(※)。

 3月28日には、北海道石狩市の風車と福島県の会津電力による太陽光発電を設置するための市民ファンドを、新たに募集する記者会見が行われました。いずれもファンドの募集は、「自然エネルギー市民ファンド」という会社が業務委託を受けて扱っています。

 このリポートでも紹介した小田原のほうとくエネルギーや、福島の会津電力なども、この自然エネルギー市民ファンドを通じて市民ファンドの募集をしています。(2014年5月8日現在、ほうとくエネルギーのファンドは応募がいっぱいになっているとのことです)


市民ファンドで建てられた日本初の市民風車「はまかぜちゃん」(写真:北海道グリーンファンド)

 市民ファンドの手法を使って初めて建てられた市民風車が、北海道浜頓別町の「はまかぜちゃん」です。それから10年以上が立ち、市民ファンドをめぐる環境にも大きな変化が起きています。今回は、新しい展開を迎えた市民ファンドをめぐる話を、千葉商科大学人間社会学部で金融を専門に教えている伊藤宏一教授に伺ってきました。伊藤さんは、税理士・金融の専門家として市民ファンドの仕組みづくりにも直接的に携わってきています。話は、金融界での市民ファンドの位置づけや、江戸時代までさかのぼる日本の伝統文化にまで及びました。

※発電の状況によるため、予定されている配当は必ずしも保証されている訳ではありません。

◆「地域でお金を回す仕組み」は日本の伝統


市民ファンドについて語る伊藤宏一さん

 私は、地域の自然エネルギー事業を金融の専門家としてお手伝いしています。この市民ファンドをめぐる動きは、日本語で「社会金融」あるいは「金融の再ローカル化」と呼ばれています。「ファイナンス」と言うと、アメリカ仕込みの投機的で暴力的な金融資本主義の印象がある方も多いかと思います。でも実は日本には、明治になるずっと前、それこそ鎌倉時代くらいから、民衆の中でお金を回す地域金融システムがさまざまな形でできあがっていました。

 例えば西日本では頼母子講(たのもしこう)、東日本では無尽(むじん)、沖縄では模合(もあい)という相互扶助金融システムが、連綿と続いていたのです。しかもそのあり方は一様ではなく、それぞれの地域に合う形で運用されていました。

 例えばテレビ番組で、この地方の人気の食べ物を紹介するといって、ぜんぜん思いもつかないものが出てきたりすることがありますよね。あれは地方の再発見なのです。もともとそこにあったのだけど、東京を中心とした均質のマーケットが良いとされる中で、地方のモノが埋もれてきたということがあると思います。

 江戸時代には、300あった藩に1500の特産物があったと言われています。単純計算しても、一つの藩で5つか6つの特産物があったのです。日本の地域はとても個性的で気候風土や文化なども異なっています。つまり当時の日本は、一つ山を越せば違う個性があるという、多様性に満ちた社会だったと言えるでしょう。そして人々の暮らしに根ざした相互扶助金融システムも一様ではなく、各地で多様な特性をもって営まれていました。

 「環境とお金」についても同様です。日本では「草木国土悉皆成仏」「八百万の神々」と言うように、自然そのものが神様仏様とされてきた伝統があります。例えば明治時代には「山の神講」というものがありました。一般の人が、山の保全のために春と秋の二回集まって、お金を出しあうというものです。私は今の自然エネルギーへの市民出資は、その現代版ではないかと考えているのです。

 講や無尽は、今の社会でいう保険や積立てなど、いろいろな役割を果たしていました。例えば「馬頼母子講」というのがありました。馬というのは大変な財産です。でも飼っていた馬が死んでしまったら、新しく買わなくてはいけません。そんなときに使えるお金を、みんなで出しあう性質のものです。一種のリクスマネジメントですね。

 また幕末の山口では、農民が「お救い頼母子講」という貧しい人たちの相互扶助をやっていました。それを長州藩がもっと発展させようと、一部に藩の財政を入れて、貧しい人たちの中でお金を回す「修補制度」というものに拡大しました。結局それで元気な農民が増えて、収穫が上がり、厳しい状況だった長州藩の財政再建にも結びつくのです。こうした「地域でお金を回す仕組み」は、それぞれの地域固有の文化をつくるベースにもなってきました。


3月28日には、会津電力と北海道の市民風車が募集する市民ファンドについての記者会見が開催された。左はISEP所長の飯田哲也さん。

◆「ギラギラ投資」を「キラキラ投資」へ

 それが変わってきたのは明治時代です。明治になって貯蓄制度ができ、全国の郵便局がお金を国に吸い上げるシステムができました。1900年に、当時の大蔵大臣松方正義が「貯蓄奨励論」の演説をして富国強兵のための貯蓄増強を説き、そのための仕組みも全国に作り上げました。ちなみに民俗学者の柳田国男は、それまでは地域でお金が廻っていたので、国が吸い上げるべきではないと当時から批判をしています。

 さらに戦後は、大手の銀行を通じて大企業に回る間接金融の仕組みが強固に機能しました。こうやって地域にお金が回る仕組みが、弱くされてきたのです。このようなシステムが、1900年から2000年まで、ほぼ1世紀続きました。

 2000年からは日本でも無秩序に金融の規制緩和が進み、金融資本主義が広がりました。いわゆるグローバリゼーションです。それまでは少なくとも一国の中で留まっていたお金が、今度は世界中の大企業などに吸い上げられることになり、しかも極めてハイリスクの投機的な性格の金融が広がります。こうした流れの中で、リーマンショックが起きました。しかし他方で金融資本主義に対すオルタナティブ金融の動きも生まれてきました。地域金融を見直し、多少のリスクを取ってでも地域に良いことをしていこうという動きで、市民出資や、コミュニティ・バンク、そして有名なバングラディッシュのグラミンバンク(※)もそのひとつと言えるでしょう。


市民風車のパイオニア、北海道グリーンファンドの鈴木亨さん

 市民ファンド、つまり市民による地域の自然エネルギー事業に対する長期投資には、貯蓄や投資信託への投資とは異なる特徴があります。ひとつは、投資対象が透明ということです。銀行や郵便貯金では、自分のお金が何に使われているのかわかりませんが、市民出資は対象が「この風車だ、このソーラーパネルだ」とわかりやすいのです。もうひとつは、債券市場や株式市場に乗っているわけではないので、価格変動リスクを取らないことです。

 もちろん、その事業が失敗するリスクはあります。そこで「投資」という位置づけになっているのですが、一般にイメージされている短期売買の投機的な株式投資とは違うということは重要です。そして目的は、地域に再生可能エネルギー広げ、そのお裾分けを少しいただこうということなので、「社会性」「公共性」という特徴もあります。

 日本で自然エネルギー事業を進めるために市民出資の仕組みをつくったのは、ご存知の通り環境エネルギー政策研究所(ISEP)の飯田哲也さんや、北海道グリーンファンドの鈴木亨さんたちです。北海道グリーンファンドの市民風車や、おひさま進歩エネルギーの太陽光事業は、市民出資の先駆的な例となりました。


おひさま進歩エネルギーが太陽光パネルを設置した長野県飯田市の鼎みつば保育園

 しかし、その意義が世の中に十分理解されていなかった面もあると思います。当初はほとんどの金融機関が見向きもしませんでした。しかし、東日本大震災で、本格的に自然エネルギーを展開していく流れができて、認識が深まってきていると思います。

  日本では今まで、「投資」といえば投機的な「ギラギラ投資」しかありませんでした。それを、この仕組みを通じて「キラキラ投資」に変えていくことができるはずです。「リターンはお金だけじゃない」ということを広げていきたいですね。

※グラミンバンク
バングラディッシュの貧しい農村を対象に、マイクロクレジットという低金利・無担保の融資を行う。2006年に創設者のムハマド・ユヌス氏とともにノーベル平和賞を受賞している。

(後編へつづく)

◇関連リンク
「自然エネルギー市民ファンド」
おひさまファンド