第19回:長野県・「おひさまBUN・SUNメガソーラープロジェクト」〜情報公開で再エネ普及 | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー


■ニュース速報:多摩市で公共施設の屋根貸し事業がはじまる!

 ワクワクするような自然エネルギーの取り組みを伝える「高橋真樹が行く 全国ご当地電力レポート!」。第19回は長野の取り組みを紹介するのですが、その前に、前回のみんな電力PPS化のお知らせに引き続き嬉しいニュースが入りました。
 第二回の記事でお伝えした、東京都多摩市の多摩電力の取り組み。都市部で自然エネルギーをひろめる新しい試みですが、多摩市が公共施設の屋根に太陽光パネルを載せる決定をしました!そのパートナーが多摩電力になりそうです。近々正式な契約を結ぶとのことなので、続報を楽しみにしたいと思います。今のところ公共施設11カ所を対象に、合計出力600キロワットの太陽光発電設備を設置することになるとのこと。いやー、どんどん新しい展開が生まれていますね!こちらも、計画が進んだところで改めて取材に伺いたいと思います。

多摩電力のホームページはこちら

■諏訪湖のほとりに長野県と企業でつくったメガソーラー

 さてそれでは、長野県が自治体として実施した初めての屋根貸し事業となる「おひさまBUN・SUNメガソーラープロジェクト」を紹介します。


「岡谷酸素太陽光発電所SUWACO Labo」の全景(提供:岡谷酸素)

 長野県は、太陽光、水力、森林など、豊富なエネルギー資源に恵まれています。一方で石油やガス、電気などのエネルギー購入費は家計を圧迫し、県内の資金が光熱費として流出を続けています。そのため、自然エネルギーを積極的に活用して、長野の経済と環境を活性化させようという方針を掲げてきました。
 その流れを受け、2年がかりで実現したのが、屋根貸し太陽光発電事業の第一号「おひさまBUN・SUNメガソーラープロジェクト」です。これは県が所有する施設の屋根を提供し、地元企業が事業主となるもので、同じ長野県の飯田市などが取り組んできた官民が連携して自然エネルギーを普及しようという政策です。「ご当地電力リポート!」では、小田原のほうとくエネルギー静岡のしずおか未来エネルギーの事業で紹介していますが、最近ではこうした取り組みは他の地域でも徐々に広がってきています。そんな中、長野県として初の屋根貸しプロジェクトが実施されたということになります。

 諏訪湖のほとりにある県有の下水道処理施設「クリーンレイク諏訪(諏訪湖流域下水道豊田終末処理場)」の屋根を、太陽光発電のために貸し出す事業の公募をはじめたのは2012年10月。名乗りを挙げた企業の中から、諏訪湖に隣接する岡谷市に拠点を置く、総合商社「岡谷酸素株式会社」の提案が採択されました。岡谷酸素は、かつてから諏訪湖の浄化や環境問題に熱心に取り組んできたため、このプロジェクトに対する強いこだわりがありました。


2013年5月31日に行われた3者協定の調印式。左から野口行敏氏(岡谷酸素代表取締役社長)、阿部守一氏(長野県知事)、芽野實氏(自然エネルギー信州ネット会長)(提供:岡谷酸素)

 ほぼ1年にわたった準備期間を経て、出力約1メガワット(一般家庭約300世帯分)の「岡谷酸素太陽光発電所SUWACO Labo(スワコ・ラボ)」が完成、2013年11月から稼働がはじまりました。ネーミングの由来は、諏訪湖のほとりにある太陽光発電所の研究所(ラボラトリー)という意味と、諏訪の行政、企業、住人との協働事業(コラボ)の意味があるとのことです。

ポイントは情報公開と地域貢献

 今回の取り組みは、単に県が屋根を貸して事業者が設置という事業ではありません。大きな特徴は2つ。一つ目は、県が公募するにあたって、長野県の他地域のモデルになるよう事業に関するデータやノウハウを公開することを条件にしたことです。
 県としては屋根貸し事業のノウハウがないため、まずこの最初のプロジェクトを足がかりにしようと考えました。ここで得られる知見を共有するため、図面や申請書などのあらゆる資料から、発電量、そして事業の収支にいたるまで、原則すべてを公開するという透明性の高い事業になりました。ここまで公開性の高い事業は、全国のこれまでの取り組みでも例がありません。ちなみに、日々の発電量は岡谷酸素ホームページのSUWACO Laboサイトから確認することが可能です。


並べられた資料は原則すべて公開されている

 このデータを共有する役割を担うのは、自然エネルギー信州ネットです。自然エネルギー信州ネットは、長野各地で自然エネルギーに取り組む市民、企業、大学、行政などをゆるやかにつなげるネットワーク組織として、2011年7月に誕生しました。岡谷酸素からの提案により、売電収入の配当後の30%が、自然エネルギー信州ネットに入ることになり、(予定では、20年間で3800万円)その収入とデータを活かして、県内で市民参加の新しいビジネスモデルをつくる働きかけをしていきます。

 2つ目の特徴は、地域経済への波及効果を意識している点です。県の環境部と岡谷酸素は、検討を重ねて、設置業者や金融機関、パネルの調達先まで、できる限り地元の業者を使うことにしました。それにより、総事業費の8割を県内資本が担うことになりました。
 県の環境部温暖化対策課の試算によれば、1メガワットの太陽光設備を設置する場合、地域外の業者が手がけるなら経済効果は20年間でおよそ4億円程度になります。しかし、今回のケースのように県内企業を中心にした場合、直接、間接を含めて地域で流れるお金がおよそ2.5倍の10億円程度になるという数字が出ました。このことは、単に設備を設置すれば良いのではなく、地域の人材、技術、資金を活用する仕組みをつくることによって、より大きな経済効果が生まれることを証明しました。

 予想される収益は、20年間で約1億円。決して多くの収益が上がる訳ではありませんが、岡谷酸素が積極的に手を上げることができた理由の一つには、FIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)で20年間価格が保証されているため、持ち出しのリスクが少ないことが安心材料としてありました。
 また岡谷酸素が、単に県の事業に応募したという姿勢ではなく、以前から自然エネルギー信州ネットに積極的に参加するなど、地域に自然エネルギーを広めようとしてきたことも、大きな動機になっています。さらに、この事業が岡谷酸素にとって初めてのメガソーラー事業になり、この経験を次に活かせるという想定もあったとのことでした。


角度を変えて発電量を比較する実験エリア

■設置設備と今後の展開について

 今回の、「おひさまBUN・SUNメガソーラープロジェクト」では、前述した出力約1メガワット(太陽光パネル4960枚を使用)の「岡谷酸素太陽光発電所SUWACO Labo」の他、諏訪市にある小川区公会堂の屋根にも6キロワットの太陽光パネルを設置しています。
 SUWACO Laboでは賃料として、岡谷酸素から長野県に毎年490万円が支払われる予定(20年間で約1億円)です。一方、小川区公会堂では賃料は無償ながら、非常時の場合は公会堂が電気を使え、さらにバッテリーの保守点検を岡谷酸素が無償で対応するという条件になっています。 


パネルはエリアを分けて3つのメーカーのものが採用されている。写真は京セラのパネル
 
 設置にあたって苦労した点としては、小川区公会堂の場合、利用しているグループが複数いたため、全員の合意をとることが大変だったことです。また下水道処理施設では、古い施設を何度かにわたって継ぎ足してつくられていたので、全体を把握してどのような形で設置するかを決めるのに苦労しました。いずれも県として初の取り組みだけあって、決定プロセスも簡単ではありませんでした。
 
 これからの課題としては、県の屋根貸し事業の第二弾の次の候補地がまだ決まっていないことや、公開されたデータの共有方法をどのように具体化していくかが未定ということ、などが挙げられます。しかし、地方自治体による屋根貸し事業の先駆的な事例として、全国のモデルになっていく可能性があります。また、県が主体になった動きに頼らずとも、この動きに刺激を受けた他の市町村が取り組みを始める例も出てくるでしょう。この画期的な事業がどこまで反響を広げるのか、期待したいと思います。


2013年12月に実施された施設見学会の様子

■キーパーソンからのメッセージ

 岡谷酸素企画室室長の嶋田克彦さんからは、次のようなメッセージをいただきました。

 岡谷酸素は、以前から諏訪湖の浄化に関わるなど、会社としてこの地域への思い入れは強くもってきました。今回もその流れから、ぜひ関わりたいということで公募しました。長野では前例のない県との共同事業、しかも20年間維持管理を続ける必要があり、責任も感じています。当初は計算通りに行くかどうか不安もありましたが、発電開始からこれまで(2013年12月時点)、予想を上回る発電をしてくれているので、ひと安心というところです。今回の取り組みを活かして、地域に自然エネルギーのメリットを還元していきたいし、県内の各市町村でも自然エネルギーを増やすところが出てきていただければと考えています。


パワーコンディショナーについて説明する岡谷酸素の嶋田克彦さん

■感想として

 今回のプロジェクトは、県の屋根貸しメガソーラーという意味だけではなく、図面、申請書から、発電量、収支にいたるまで、原則すべてを公開するという新しい試みです。この成果をどのように共有するかという方法については今まさに関係者で相談していて、まだ具体案はできていません。でも、県と地元企業、市民グループの連携によるこの新しい取り組みは、うまく発信していくことで、長野県に限らず、全国のモデルになっていく可能性があるでしょう。
 ちなみに、県の第二号の候補地はまだ決まっていませんが、この動きを参考して市町村レベルでの屋根貸し事業が生まれてくるかもしれません。そうした情報が入り次第、またこのリポートでお伝えしたいと思います。

「おひさまBUN・SUNメガソーラープロジェクト」の活動をさらに詳しく知りたい方、関連団体の情報などはこちらのリンクからどうぞ。

岡谷酸素株式会社

長野県ホームページ(おひさまBUN・SUNメガソーラープロジェクト)

自然エネルギー信州ネット