系統接続保留に関して 九電ショックの衝撃 | エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議

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思いと知恵を共有するプラットフォームとして

本記事は日本再生可能エネルギー総合研究所さまのご厚意にて日本再生可能エネルギー総合研究所さまの記事をそのまま掲載させて頂いています。

日本再生可能エネルギー総合研究所さまのメルマガでは3号に渡って『九電ショック』の衝撃(上)、(中)、(下)として発行され、(下)の前には提言が別の号として発行されています。

本記事では(上)~(下)を一括して転載し、その後に提言を転載する体裁に致しました。


○『九電ショック』の衝撃

 ○わかったこと① ~電力会社の準備不足

 ○わかったこと② ~再生エネ普及の勢い

 ○わかったこと③ ~再生エネに対する地域の期待



○『九電ショック』の衝撃



 2014年の9月末の『九電ショック』は、日本の再生エネ普及に取って、大き

な転換点になるでしょう。

 私にかかってきた電話の中には、悲痛なものさえありました。

「まさか日本はたった2年で再生可能エネルギーを止めてしまうんじゃない

でしょうね。」声が震えていました。

九州電力だけでなく、東北電力など続いて回答保留を発表した各電力会社の

説明会会場には定員を大きく超えた事業者などが殺到し、怒号が飛び交うこと

もあったと聞きます。

マスコミだけでなく、WWFや自然エネルギー財団など多くの再生エネ関連の

団体などがコメントを発表しました。経産省も委員会を作って検証を行い、年

内に対応策をまとめるとしています。このまま回答保留が続けば、影響は非常

に大きなものになるでしょう。地域の太陽光発電の施工会社や事業会社によっ

ては会社の存続にもかかわる可能性も指摘されています。



ただし、言葉を選ばずに言えば、今回のショックはある意味で良い機会だと

思います。放っておけば、いずれ似たような問題が噴出することになったはず

です。実は、今回の騒ぎでは、わかったことがたくさんあります。そして、そ

れは必ずしも再生エネの普及に悪く働くことばかりではないのです。

前向きに考えましょう。ショックの対応策はそれほど難しいことでありませ

ん。すでに再生エネが普及している多くの国で実行されていることです。

『九電ショックでわかったこと』を冷静に整理して、対応策を検討し実行し

ていけば、新しい再生エネの未来を描くことが必ず出来ると考え、今回のメル

マガを発信します。



○わかったこと① ~電力会社の準備不足



「電力需要が少ない時期に過剰な再生エネ(特に太陽光)の電力が供給され、

系統が不安定になる可能性がある。」との回答保留の理由そのものを、頭から否

定するつもりはありません。

しかし、最も多く聞かれる「前からわかっていたことなのに、なぜ」という

声には、正当性があります。買取価格が下がる前の爆発的な駆け込み申請があ

ったと言っても、それはすでに昨年の40円の時に経験しています。また、再生

エネが拡大していけば、いずれこのような状況になることは最初から予想がつ

いていました。

また、後で述べますが、欧州のいくつもの国が、日本をはるかに超える割合

の再生エネ電力を普通に系統に入れ、問題なく電力供給を行っています。

これらのことを考えると、前もって出来ることはたくさんあり、時間もあっ

たはずです。

電力会社の申請受け付けの現場では、系統連系に関する負担金の計算などさ

ばききれないほどの作業があふれ、オーバーワークが続いていることも知って

います。処理のために一定の時間が欲しいという理由が現場からは聞こえてい

ます。しかし、だからと言って回答保留は、あまりに急で、すでに大きな混乱

を招いています。大きな反発に電力会社側も驚いているのではないかと思いま

す。今回の問題の原因は、現場を指揮する電力会社のトップと政策面で全体を

指揮するエネ庁サイドの準備不足にあったと言わざるを得ません。



○わかったこと② ~再生エネ普及の勢い



 九州電力によると、この3月だけでFIT認定数は7.2万件、出力で283万kW

を記録したそうです。これは2013年度の前の月までの累計7万件、349万kW

と匹敵するもので、買い取り価格が下がる前の駆け込みの凄まじさを示してい

ます。

 ただし、冷静になってみると、この申請の勢いは単純に批判されることでは

ありません。2年前に導入された固定価格買取制度は、再生エネ普及を目的にし

たものです。太陽光発電に偏っているなど、問題点も指摘されていますが、第

一の目的である普及拡大は見事に成功しているのです。

 制度導入前には、全電力量のわずか1%(大型ダムを除く)程度しかなかった

再生エネ電力の割合が、わずか2年程度で、10%を越えるかもしれないのです。

もちろん、認定を受けた設備が全て稼働するというあり得ない前提ですが、こ

の5年以内で数%になるのは確実でしょう。

 制度を導入した政府は、この数字を誇りさえすれ、嘆く必要など無いのでは

ありませんか。実際に、原発事故後の日本政府の再生エネへの取り組みと実績

は、海外からの高い評価を受けています。また、政府は具体的なエネルギーミ

ックスの数字を決めていないのですから、想定とのかい離を指摘されることも

ありません。

 何だか大変なことが起きている、困ったことだと思う必要はありません。ま

ずは、再生エネ普及の勢いを感じましょう。

ただし、それぞれの立場や思惑によっても違ってきます。再生エネが普及し

すぎると困ると考えている人たちがいるのも事実です。今回のショックで、そ

の当たりがはっきりと見えてくるでしょう。



○わかったこと③ ~再生エネに対する地域の期待



 各電力会社の回答保留に対して、様々な企業や団体などが意見を発表してい

ます。

 発電事業会社や施工会社を中心に波紋が広がっています。中には企業の存続

に影響するという深刻な声もあります。秋田県で開かれた東北電力の説明会に

参加した事業者の「梯子を外された感じ」というコメントが象徴的です。



ここで特に気づくのが、地方自治体の反発です。

 影響は民間企業に限りません。9月29日に宮崎県は、県立学校の施設屋根貸

し太陽光発電設備設置事業の公募を中止しました。

自然エネルギーの普及拡大を目的に政策の提言などを行っている自然エネル

ギー協議会という全国組織があり、協議会には36の道府県が参加しています。

会長を務める飯泉徳島県知事が、電力会社の回答保留という事態を受け、今月

7日に環境省と経済産業省を訪ね、緊急提言書を提出しました。

中でも東北地方は、震災からの復興の目玉として、どの県も再生可能エネル

ギー事業に積極的に取り組んでいます。

 特に、福島県は将来再生エネで全電力を賄おうとしています。東北電力の回

答保留に対して即時に反応しました。県議会は、翌日、国に早期の契約再開に

向けた取り組みを求める意見書を可決しました。ショックは多くの自治体をも

襲っています。



 地方の疲弊が問題となる中、自治体は生き残りに必死です。その地域活性化

の強力なツールとして再生エネの普及に取り組む自治体が激増しているのです。

九電ショックに対する自治体の反応は、全国各地の再生エネに対する大きな期

待を浮き彫りにしています。

「地方創生」に取り組むという安倍政権のテーマ設定そのものは良しとしま

すが、これまで示されている施策はあまりぱっとしません。目の前に地方活性

化の切り札があることを忘れてはいないでしょうか。


『九電ショック』でわかったこと 

        ~どうなる、日本の再生エネの将来


○『九電ショック』の衝撃とその後


 九電ショックは衝撃度が大きかっただけに、その反応も早くなっています。

経産省は検証専門委員会を設置して昨日初回の会合を開きました。年内に一定

の結論を得る方向です。

 反発の意見が多く寄せられる中、一部後述しますが、やはりこのショックを

再生エネへのネガティブキャンペーンに利用する動きもみられます。



例えば、あるシンクタンクは、回答保留の問題を制度の導入自体が間違って

いたかのような意見を発信しています。内容は、おなじみのもので、太陽光で

荒稼ぎするブローカーや設備の価格が安くなるまで建設を待っている悪質事業

者という構図で、今回の回答保留とは関係ないことを取り上げ、太陽光たたき

をしています。

一部詐欺話も聞かれる悪徳ブローカーは本当に許されないことですが、権利

の売買そのものはひとつのビジネスです。また、ある新聞が書き始めた建設コ

スト下落待ちの事業者という批判も、私は多くの事業者や設置業者と話をして

いますが、具体的な例を聞いたことがありません。もちろん全く否定するつも

りもありません。しかし、資金を寝かせることの無駄や施工業者不足から業者

の取り合いになっている状態の中でビジネス的には考えにくいと思われます。

なにより、円安が進む中、建設を遅らせるほどコストが上がるというのが常識

で、実際のビジネスを知らない人間が書いたものとしか思えません。

この際ですから書いておきますが、上記のシンクタンクの文章では、ドイツ

では消費者団体がFIT制度廃止論の先頭に立っているとの記述もみられます。

反対している団体があるのは確かですが、BUNDを始めほとんどの消費者、環

境団体は、再生エネの推進に賛成しています。だいたい、最新の世論調査でも

国民の9割以上が再生エネの拡大を望んでいるのですから。このような誤った

情報にはお気を付けください。

筆が走りすぎたので、本論へ移ります。

今回のメルマガは、わかったことというより、わかっていることに重きが置

かれています。不思議な言い回しですが、「わかっていなければいけないことを、

(電力会社や前記のようなシンクタンクなどが)わかっていなかったこと」が

わかったということでしょうか。私の本意は、電力会社を非難することではあ

りません。今回のショックも、再生エネを拡大するための検討時間を取るため

だと信じています。将来(ずいぶん先かもしれませんが)の危機に対応するこ

とは十分可能だと理解していいただき、一緒に前向きに問題を解決しましょう

と言いたいのです。

○わかったこと④ ~現状で危機は起きない



 まず、現在の状態で本当に危機的な事態が起きるのかどうかについて、少し

書いておきます。

 今回保留を宣言した理由として、九電は再生エネだけで夏のピーク時の電力

をオーバーする可能性があると述べています。ただし、これには、2つの前提

があります。一つは、現在認定されている施設が全て稼働した場合、ピーク時

にすべての施設がフル出力となった場合というものです。



 まず、認定されている施設が全て稼働することはありません。実際、いわゆ

る40円案件は8月末に1.8GWの認定取り消しを受けました。さらに今後36

円案件も含めて大量の認定取り消しが見込まれます。あまり良い例ではないの

ですが、同じ場所で複数の認定を受けている所さえあります。



 また、ピーク時にすべての再生エネの発電施設がフル出力となることもあり

得ません。例えば、2013年の6月15日の15時から16時にドイツで再生エネ

(太陽光+風力)の電力がドイツ全体の電力の61%を記録しました。その時の

太陽光の出力はおよそ20GW、風力は9GWでした。当時、ドイツに設置され

ていた太陽光施設の総発電能力は40GW、風力は30GW強ですから、実際の出

力は太陽光で半分、風力で3分の1程度です。



先の2つの前提条件が揃う可能性の低さを考えれば、現状でブラックアウト

の危機が迫っているわけではないことはよくご理解いただけると思います。



○わかったこと⑤ ~対応策・揚水発電利用と火力発電による調整



 九州電力など各電力会社の準備が遅れていたことについては、前回のメルマ

ガで書きました。

その九州電力が、今回対応策として検討の対象としているのは、揚水発電の

利用、九電外へ販売、そして出力抑制です。また、記者会見では、火力発電の

運用の見直しにも触れています。

 たまたまでしょうか、そこには費用の掛かる系統強化策(送電線の増設)や

大量の蓄電池の設置などが含まれていないので、まずは、インフラ的にもほと

んど費用が掛からない対策から考えていきましょう。



 まず、火力発電は当然のことながら、調整電源としてさらに積極的に使われ

るべきです。また、揚水発電も重要な役割を果たします。揚水発電は、現在世

界中で余剰電力の貯蔵として使われています。世界のエネルギー貯蔵(電力)

の99%が揚水発電によるものです。例えば、欧州の最大の揚水発電保有国はノ

ルウェーで、ヨーロッパのエネルギー貯蔵庫と言われています。日本では、火

力発電も揚水発電も原子力発電の調整電源として増えてきています。原発は、

ある意味調整がきかず夜中も一定の発電を続けたり、点検のために一か月完全

に停止したりするため、どうしても電力の調整設備が必要になるのです。

 日本の揚水発電設備は世界最高の2600万kWですが、その設備利用率は昨年

でわずか3%以下、原発事故後減り続けています。世界の利用率を見ると、イギ

リス13%以上、アメリカ12%以上、ドイツ11%以上、韓国8%以上、スペイン

6%以上となっており、日本は極端に低くなっています(出典:日経BPウエブ

「九州電力はなぜ再エネ接続を留保するのか」2014/10/01より)。最も経済的な

エネルギー貯蔵の方式と言われているのですから、もっと使うべきです。しか

し、なぜか九州電力は、「昼間の経験がない」と消極的にも見えますが。



○わかったこと⑥ ~対応策・広域連系の利用



 九州電力も、電力会社間の連系線の利用を取りあげています。申し訳ないの

ですが、原発停止の中あれほど電気が足りないと言っていたのに、連系線利用

はあまりお考えでなかったということでしょうか。今回は、逆に余った電力を

連系線で売るという訳です。本論とは離れますが、足りないのか、余っている

のかどっちや!と突っ込みを入れたくもなります。

 

 それでは、日本の電力会社間の連系線はどのくらい利用されているのでしょ

うか。以前私がおすすめしたことがある風力発電のエキスパートである安田陽

さんの本(「日本の知らない風力発電の実力」オーム社)からデータを引用しな

がら示します。



 まず、連系容量です。

 欧州と日本の電力の連系線の話になると、向こうは各国が陸続きでネットで

つながっているから電力の融通が出来るんだ、という話しがよく出ます。もち

ろん、日本は島国ですから、他国との連系線はありません。しかし、一つ一つ

の規模の大きい電力会社間の連系線はあります。そう言うと、それが細くて容

量が不足すると続くのですが、私たちが思っているほど日本の連系線は柔(や

わ)ではありません。ピーク需要に対する設備容量を見ると、特に西日本は立

派な数字です。

 関西電力105.2%、四国電力69.8%で中国電力に至っては、228.1%もありま

す。九州電力は36.5%で、ドイツの72%には及ばないものの、フランスの30.9%

を越えています。東日本でも、東北電力が55.4%と大きく、北海道電力は12.4%

ですが、風力発電が全電力量の4分の1を占めるスペインの10%を上回ってい

ます。ちなみに、原発大国のフランスの風力の導入量は世界第8位です。

 どうですか、日本の連系容量はなかなかのものでしょう。



 では、それがどう活用されているのかということになります。安田さんの本

を読んだときに驚きました。ほとんど使われていません。それも、3・11の原発

事故の後の方が、利用率が減っているところが多いのです。

 具体的には、以下のようになっています。回答保留の電力会社中心です。



◇電力会社間の連系線の利用率

(2010年度~2011年度~2012年度の推移 単位:%)

  *注:こちらは発電電力量ベースで実際にどのくらい使われているかを示

しています。

 北海道  0.8 9.5 0.1

東北  23.1 13.3 10.2

東京   6.9 3.4 3.0

 四国  15.3 4.1 2.9

九州   0.1 1.5 2.7



 と、いうわけでびっくりしませんか。つまり、各電力会社間の連系線は足り

なくない。使われずに余っているのです。今回、回答保留をしている電力会社

以外では比較的ピーク時と再生エネ電力の出力に余裕がある電力会社も多く、

電力会社間の融通が実現すれば、課題解消だけでなく、再生エネのさらなる拡

大も十分可能です。



○わかったこと⑦ ~インフラ不足の問題より制度と運用の問題



 さて、こうしてみていくと、すでに存在している設備内でかなり解決が出来

るところが多いことがわかってきます。

 一方で、政府は本州と北海道を結ぶ連系線や、西日本と東日本の50キロヘル

ツと60キロヘルツの周波数変換整備の強化というインフラに対する増強対策を

進めています。これらの対策は時間も費用もかかることですから、じっくり進

めていただければさらに安心です。



 実は前項で説明した連系線の利用率が低い原因の一つに運用ルールの問題が

あります。例えば、連系線利用のルールを決める「電力系統利用協議会」によ

ると、連系線の利用計画は受給日(電力を受ける日)の前日の夕方5時までに

通告しなければならないとなっています。欧州の多くの電力マーケットでは、

前日だけでなく当日のマーケットも普通に存在します。前日の予測より当日を

含む短時間での予測の方が正確なのは当然で、系統を運営する立場からも当日

の受け入れを行う方が合理的だと言えます。

 使いやすい制度に変えることで、多くのメリットが生まれるということです。




『九電ショック』でわかったこと

        ~どうなる、日本の再生エネの将来


 ○わかったこと⑧ ~欧州で行われる安定化策

 ○わかったこと⑨ ~優先接続・優先給電の原則

 ○わかったこと⑩ ~2つのやってはいけないこと

 ○ドイツで実際に起きたこと





○引き続き『九電ショック』でわかったこと ~この2週間足らずの動き



 九電ショックを取り上げたメルマガを立て続けに発行して、わずか2週間足

らずですが、この間様々な動きがありました。

 制度の管理側では、経産省による有識者会議や新エネルギー小委員会が開か

れて、多角的な議論が進んでいます。想像よりも落ち着いた議論に少しだけ安

心しましたが、太陽光発電の抑制はベースの方針として動かないように見えま

す。

 しかし、今の議論のままでは過度の押さえつけで「太陽光をつぶしてしまう」

ことにもなりかねません。繰り返しますが、まず現状が本当に問題なのかどう

かを判断すること。その上で、今できる対策でどこまで対応できるかを検討す

ること。さらに、将来に想定される課題に対しても早めの手を考えること。こ

の3段階を冷静に進めることです。現時点で「固定価格買取制度の破たん」を

声高に叫んでいる人たちはもっての外です。こういう間違った雑音に惑わされ

ないように気を付けてください。

 

 23日に行われた太陽光発電協会のシンポジウムに私も特別講演のスピーカー

として参加しました。エネ庁の木村新エネルギー部長も冒頭のあいさつに登場

しました。その中で印象に残ったのは3つでした。「FIT制度の導入は正しかっ

た」「FIT制度の威力はもの凄い」「事業者の方々に余計なご心配をかけて申し

訳ない」です。

 その通りだと思います。特に最後の『余計な心配』はぴったり来ます。事業

者には責任が無く、今大騒ぎをする必要のない問題で心配をかけていると話し

たと理解しました。エネ庁・経産省には、これらの言葉の通り、落ち着いた対

応をお願いしたいと思います。



○わかったこと⑧ ~欧州で行われる安定化策



 ご存知の通り、欧州には再生エネ電力の割合が日本よりはるかに多い国がた

くさんあります。例えば、ドイツは再生エネで28.5%、スペインは風力だけで

23%を発電しています。

系統の安定化策と言うと蓄電池を思い浮かべる人が多いかもしれません。し

かし、これらの国では、大量の蓄電池を発電側に設置する方法は取っていませ

ん。理由は簡単で、コストが合わないからです。それではどうしているかと言

うと、発電予測を中心とした電力の需給コントロールで対処しています。精度

の高い発電予測をベースに中央指令センターが発電源別の需給コントロールを

行っているのです。

 例えば、ドイツの送電会社アンプリオンは、前日での風力発電の出力予測の

誤差を需要予測と同じ程度の3%程度まで高めています。また、スペインの唯一

の送電会社REEは、2010年時点で24時間前の平均絶対誤差を14%(定格出

力ベースでは4分の1)にまで低減させて、需給コントロールに生かしています。

よく「風まかせ、お日様まかせ」と揶揄されますが、実際には高い予測が可

能になっているのです。

前述のスペインでは10MW以上の再生エネ発電施設は、すべて中央指令セン

ターの制御下にあります。実際に電力抑制も含めたコントロールが常時行われ

ています。



 気象予測やITを使ったコントロールシステムの構築はまさに日本の得意分野

といえるでしょう。日本であれば、さらに精度の高いシステムによって、課題

の克服はもちろん再生エネ導入の道をさらに広げることが十分できます。



 特に欧州と言うことではありませんが、もうひとつ有効な策があります。

 これまで扱ってきた発電サイドの対策に対して、需要サイドの策です。ピー

クカットなど需要側のコントロール、デマンドサイドマネジメントは、最もコ

ストが安く有効な方法です。



○わかったこと⑨ ~優先接続・優先給電の原則



 これまでのメルマガで、現状は決して差し迫った危機的な状態では無いこと、

また、大きな投資がなくても将来の課題に十分対応できることがわかっていた

だけたと思います。



 最後に、もう少し広い原理原則の話をしておきたいと思います。

 どのようなエネルギー源の電力を優先して系統に接続し、需要者に供給する

かという優先接続・優先給電のことです。

取り上げてきたドイツやスペインなど再生エネ拡大を進めている国をはじめ

欧州の大勢では、再生エネによる電力が最も優先されています。もちろん、

原発よりもです。つまり、どのエネルギー源の電力よりも再生エネが優先され

て系統に繋がれ、供給されています。これがあるために、系統の安定化策が明

確になり、再生エネの拡大が進んでいます。



 日本ではいまだに原発が再生エネより優先されています。このため、エネル

ギー基本計画で原発は「重要なベースロード電源」と明記されました。しかし、

エネルギー基本計画にはもう一つの原則が書かれています。「原発依存度を可能

な限り低減し、再生可能エネルギーを積極的に推進する」です。つまり、今は

どっちつかずの玉虫色の政策になっています。

今回の九電ショックの最終的な解決の過程では、この優先接続・優先給電の

議論が避けられない場面がやってくる可能性があります。各種世論調査でも明

らかになっているのは国民が望んでいるのは後者の「再生エネの積極的推進」

です。国民の期待の実現が、今回の騒ぎの最も有効かつ根源的な解決につなが

るということを考えてもらいたいと思います。



もう一つは、発送電の分離です。

今回の対策の議論の中で、各電力間の連系線の活用を研究しようという話し

が出てきています。まだ研究なんて言っているのかと驚きました。実際に、前

回書いた通り、連系線の利用率は非常に低いのです。九電ショックより前に、

夏冬の電力が足りないと電力会社が大騒ぎをしていたのにこの実態です。

その大きな原因に、発送電分離になっていないことがあります。今は、系統

を使った電力の融通はバラバラの電力会社の中にある送電部門に任せています。

それでは。それぞれの電力会社の利害などがあってうまくいくはずがありませ

ん。当日の対応など無理に決まっています。

現在、広域的運営推進機関がその役割を果たすために来年設置を目指してい

ます。期待をするところ大ですが、その先の機能の展開など出来るものはどん

どん前倒しして行うことが必要だと考えます。



○わかったこと⑩ ~2つのやってはいけないこと



 今回の議論の結果として、やってはいけないことがあります。

まず、再生エネ普及の縮小策にすり替えることです。

 「九電ショック」の中で、一つの指標とされているのが、2030年時点での再

生エネ電力の導入目標21%です。これは先に閣議決定された「エネルギー基本

計画」の本文にはっきり示されているわけではありません。「これまでのエネル

ギー基本計画を踏まえた水準をさらに上回る水準」との回りくどい表現なので、

21%は最低目標でしょうか。そして、設備認定された施設が全部稼働するとこ

れに迫る19.8%になると、まるで困ったことのように説明されています。

 しかし、これらの数字には大型水力の発電も入っているため、いわゆる再生

エネ電力は10%程度にすぎません。もともとあまりにも低い設定であったと言

わざるを得ません。



 今回のショックをきっかけに、再生エネの普及そのものが悪いことだとする

ネガティブキャンペーンが現れ始めました。騒ぎを利用して、再生エネ普及制

度の力を削ごうとする人たちです。現状で分かっている課題は間違いなく解決

できます。すり替えの議論に踊らされることなく、前向きに対処しましょう。



 もう一つのやってはいけないことは、民間の投資意欲を減少させることです。

再生エネの推進役であるFIT制度は、民間による投資があって初めて成り立つ

ものです。ですから、地域に根付く再生エネの普及は地域の経済的な押し上げ

効果が期待でき、地域の活性化にもつながるのです。

残念ながら騒ぎ自体が、安定的な投資に対する不安材料となってしまいまし

た。今回の騒ぎを見て、進出を諦めた海外事業会社が出てきました。不安は、

正しい知識と政府の確固たる方針によってしか解消されません。今回のショッ

クで分かったことを共有しながら、国や電力会社、自治体などへ働きかけるこ

とが必要だと考えます。



○ドイツで実際に起きたこと



 以前にご紹介したことのある「メルケル首相への手紙(著:マティアス・ヴ

ィレンバッハー、出版社:いしずえ)」と言う本の中に、こんなエピソードが載

っています。

 「(ドイツのエネルギー大手企業の)主要戦略は、再生エネへの不信感を築く

ことにあります。」(同書188ページ)という記述の後で、具体的な彼らの主張

と行動を取り上げています。

 エネルギー企業などは、1992年には「ドイツの系統には1%以上の風力は、

絶対に入らない」(電力大手E.ON)、1996年「ドイツの系統には5%以上の風

力は、どんなことがあっても入らない」(電力族の政治家)、2007年「20%以上

は入らない、決して」(ドイツ商工会議所)と主張を変化させ、そのたびに全国

的な広告も使いました。

 結局、いずれも間違っていました。

系統的に入らない、無理だという主張を、現実がどんどん乗り越えていった

のです。実際に、今のドイツの再生エネ電力の発電量は30%に迫り、日によっ

ては全体の70%を越えることさえあります。

 

 どうですか。何か九電ショックを似た感じがしませんか。

 後々、あの時大騒ぎしたけどねえ、と笑い話にでもなってもらえれば、本当

にいいのですが。

 そのためには、経産省などの国や電力会社、それに事業者や自治体など関係

者が力を合わせて、冷静に対応をしていく必要があります。



~再生エネ総研から論議にあたっての提言





○今行われている議論について

○冷静な議論をすること ~問題整理の重要性

    ○「目標設定が無い」問題

    ○目標設定と課題整理、解決への議論

    ○賦課金の議論を例にして

◇ドイツの賦課金に関する世論調査

・「適切」が55%、「低すぎる」4%

・ドイツ国民の再生エネの受け入れ感覚

    ○成果に自信を持つこと

○制度変更には慎重な議論を

    ○官民、有識者そろった協力体制の必要性





○今行われている議論について



 『九電ショック』のリアクションが日本中を駆けめぐっています。

 その中で、気になることがあります。あまりにレベルが低い再生エネ・ネガ

ティブキャンペーンではありません。そこではなく、あたふたした対応の中で

議論の根本がはっきりしなくなっていることです。

 前々号、前号に引き続く『九電ショックでわかったこと(下)』の前に、この

ことを書いておきたいと思います。そのため、(下)は次号「メルマガ再生エネ

総研第53号」に回します。



○冷静な議論をすること ~問題整理の重要性



 何より言いたいのは、落ち着いて問題を整理しましょう。ということです。

 今回の九電の回答保留は、九電自体が言うように、あくまで「問題が起きる

可能性があることについて、検討する時間を取る。」と言うことです。

 本当にそこに問題があるのかどうか、また何かあったとしても、どんな問題

で、いつ起きる可能性があるかということについても、まだ未確定です。

 それが、いつの間にか「大変な問題が起きるから、対策をすぐに講じる。」こ

とになり、「賦課金が高くなりすぎるのが問題」だの「太陽光の買い取りをやめ

よう」だのどんどん話がエスカレートしています。



 少し落ち着いて、これまで2つのメルマガで書いたこと、つまり、今回の状

態が実際に危機なのかどうかをチェックすること、そして、それがいつまでに

どのように解決されなければならないのかということを確認する作業をまず行

うべきです。手順踏んで冷静に議論を進めることが必要だと思うのです。

 現在、『九電ショック』で直接的に混乱が起きているのは、再生エネ事業を進

める側です。彼らは、ある意味での被害者です。政府も九電も混乱を鎮める側

に回らなければならないのに、逆に慌てふためく側になっているようにも見え

ます。

さらにマスコミが、こぞって「制度設計の間違い」「太陽光は儲けすぎ」と煽

ります。本当に問題なのか、問題があるならば、それにどう対応しようとして

いるかを明らかにすべきです。



○「目標設定が無い」問題



 ただし、問題を抽出するために、若干の問題があります。

 それは、何が問題かということを決めるための基準が無いからです。政府は、

現在の「エネルギー基本計画」の中で、将来のエネルギーミックスの数字を決

めていません。唯一あるのが、「(これまで)示した水準をさらに上回る水準を

目指し」というものです。

 「2030年に21%」がこれまでの示した水準だそうですが、「さらに上回る」

のは、どのくらいなのかわかりません。

 また、太陽光発電の割合や賦課金の額の目標もありません。報道されている

数字はあくまでも2030年に21%という以前の基本計画の数字で、これは現在

の目標ではありません。これを越えるのが目標ですから、数字は無いのです。

ですから、今回の騒ぎの基となった太陽光発電の認定量が想定外なのかさえ、

本当は判断しにくいのです。もちろん、技術的に九電の言う不安定になる可能

性が出てきたというのですから、検討してみることは必要です。私のスタンス

は、すでにメルマガで書いたように「現状ですぐに大きな危機が発生するよう

なことはない。」です。しかし、それをこれまで検討もしていなかったのですか

ら、今から検証するしかありません。



○目標設定と課題整理、解決への議論



 そこで提案です。

 この際ですから、目標の設定の議論も含めて課題整理をしていきませんか。

数字はエネルギー基本計画にも入れられないほどの“政治課題”なので、簡単

ではないと思います。しかし、何より目標もないのに課題抽出や解決策もあっ

たのものではありません。明確な目標がないために、制度をいじる些末な議論

が飛び交っています。想定でも良いのでぜひ進めていただきたいと考えます。



 15日に、経済産業省は再生可能エネルギーに関する有識者の会議を開きまし

た。

 言い方は悪くてすみませんが、思ったよりずっとまともな意見がたくさん出

ています。「再生エネ拡大方針の堅持」や「FIT制度の効果の評価」など、すで

に固定価格買取制度が浸透してきていることが良く分かります。

このメルマガで示しているような、議論の基礎に関するものも散見されます。

今後は、今回のことが問題なのかどうか、また、現状でどう対応できるかなど

も含め、ぜひ前向きに続けていただきたいと思います。



○賦課金の議論を例にして



 有識者会議の中で、賦課金についてのこんな意見がありました。「賦課金負担

がどこまで許容できるか、アンケートなどで把握するべき」と言うものです。

先日のエネ庁の資料で、今の認定分がすべて稼働すると月額の賦課金が一家

庭当たり935円になると示され、いくつかのマスコミが「高額負担だ」、「たい

へんだ」と取り上げました。ある新聞は、賦課金総額が2.7兆円になるから、「国

民一人あたり2万円を超える負担」と書きました。企業やその他電力を多く使

う対象があるにもかかわらず、この書き方です。

 繰り返しますが、賦課金がいくらだと高すぎるかの議論はされていないし、

目標も設定されていません。だから、アンケートを取ろうという話が出るので

す。



◇ドイツの賦課金に関する世論調査



 ちょうど、ドイツで賦課金についての世論調査の結果が今月発表されました。

 これは、「再生エネ賦課金の適切性」の調査として今月1015人を対象に行わ

れたものです。調査主体は、再生エネ普及を進めるAEE(再生エネ協会)で、

調査会社のTNS Emnidが実施しました。



ご存知のように、ドイツの賦課金は14年にわたるFIT制度の末、上がり続け

ました。来年は初めてわずかに下がりますが、1kWhあたり6.17ユーロセント

で、年間の標準家庭の負担額は3万円近くになります。月額だと2450円弱です。

ここでは、詳しくは説明しませんが、ドイツの賦課金と日本のそれとは中身

が違っています。このため、企業の減免措置分などドイツにだけ入っているも

のを減額するとおよそ4割減になり、月額1500円程度に下がります。それでも

高水準ですが。



・「適切」が55%、「低すぎる」4%



 世論調査の結果は、現在の賦課金の水準が「適切」が55%と過半数で、「高す

ぎる」が36%、なんと「低すぎる」が4%いました。このように批判的な意見

が3分の1以上ありますが、およそ6割が現在の賦課金水準を受け入れていま

す。

 実は、2年前にも同じ調査が行われていました。その時は、賦課金が5ユーロ

セントを越える段階で、「賦課金が5ユーロセントを越えることについて」とい

う質問でした。

 結果は、「適切」が44%、「高すぎる」が51%、「低すぎる」が2%でした。

見てわかる通り、賦課金がさらに上昇し、6ユーロセント台にまで上がった今回

の調査結果の方が、賦課金を許容しているという驚く結果でした。



・ドイツ国民の再生エネの受け入れ感覚



別の世論調査では、ドイツ国民の9割以上が再生エネの利用拡大について、「重

要、または非常に重要だ」と答えています。目的を明確した負担には、国民の

許容の考え方が違ってくるのでしょう。

電力料金が上がるのを喜ぶ人はいません。しかし、理由がはっきりして納得

できれば受け入れることが出来るのです。



 繰り返します。今、日本で行うべきことは、例えば賦課金であれば、賦課金

の将来の水準をどう予測し、どの額ならば問題なのかをはっきりさせることで

す。マスコミは何の基準もなく高いと言い、財界は基準もなしに制度の見直し

をやれと主張しています。さらに担当官庁のエネ庁は、何の精査もせずに、自

分たちが決めた制度を失敗だったと認めているように見えます。それでは議論

になりません。



○成果に自信を持つこと



 太陽光への偏りはあるものの、飛躍的な再生エネ電力の増加は、FIT制度の

驚愕のパワーと制度導入の成果として誇ってよいことです。

また、再生エネを地域活性化に結び付けたいとして多くの自治体が、政府の

「第三の矢」とは別に独自に取り組みを進め、少しずつですが実を結び始めて

います。地方が復活するチャンスを再生エネの力で得たのです。もちろん、太

陽光パネルのメーカーなど大きな企業も恩恵を受けています。

 これらの成果は、まずは制度化と制度の運営してきた経産省、資源エネルギ

ー庁の担当の方々をはじめとした努力の結果だと言って良いと思います。これ

は決して皮肉でも嫌味でもありません。もっと、堂々として胸を張っていただ

きらいと本当に思っています。

 

 再び、有識者会議の内容を引用します。会議では、ドイツで導入された「マ

ーケットプレミアム制度」や他に「入札制」の導入検討の意見も述べられてい

ます。将来の可能性は否定しませんが、これは、FIT制度を止めることと同じ

ことになります。

細かくは説明しませんが、特に、この2つの制度の導入は、地域の力で発電

を行い地域活性化に結び付けようとする比較的小さな事業者や住民にとって、

たいへん厳しい結果を招きます。資本力に欠ける彼らが、直接マーケットで電

気を売ったり、入札と言う競争に耐えられなかったりするのは明白です。



○制度変更には慎重な議論を



 さらに、導入わずか2年で制度の根幹(法律)を大きく変更するのは、問題

です。行政の一貫性の観点からも、政府の施策の信頼性を大きく損なうことに

なります。何より、客観的に見て現時点で制度の根幹を変える必要はないと考

えます。昨日の会議でも同様の意見が多くありました。論点が明確でない混乱

の中で、拙速に動いては禍根を残します。



 最大かつ最後の争点は、太陽光発電の買い取り方法になるでしょう。今回の

騒ぎの原因が増えすぎた太陽光と強く印象付けられているからです。ただ、冷

静にデータを見ていけば、そちらも心配しすぎなくてもよいのではないでしょ

うか。今年3月の駆け込みのあと、太陽光の認定は急激に減っています。5月の

認定は3月の100分の1です。円安のために施設の建設コストは逆に上がって

いるほどです。ちょうどIRRの優遇期間が終わるわけですから、まず客観的な

計算をしたうえで数字を決めるべきです。そのためにも、導入目標が必要とな

るのですが。



○太陽光をつぶすのではなく、他の再生エネを伸ばす



 言われているように、太陽光とその他の再生エネ源とのバランスも大変大事

です。風力発電とうまく量が組み合わせられれば、それだけで需要の曲線にう

まく重ねることも可能です。そのためには、太陽光発電をつぶす方策より、風

力発電を伸ばす普及策が重要です。これまで風力発電は、長すぎる環境アセス

期間など事業のリスクが大きすぎ、増えなかったのです。まさしく「規制緩和」

の問題であり、すでに書いた系統問題など、緩和によって解決できることがた

くさんあります。



 今回起きている混乱の解決は、対立したり勝ち負けを決めたりすることでは

ありません。再生エネを拡大するというのは、現状の政府の「エネルギー基本

計画」にも合致していることです。それは先日の有識者会議でも再確認されて

いました。

 再生エネ拡大のために、政府、民間事業者、それに有識者も、いかに協力し

て対応していくが重要です。その中には、世界で最も安定的に電力を供給して

きている電力会社の知恵も含まれると考えます。