Sさんの話
「昔の話だけどね・・・。」
と、Sさんは話し始めました。
「昔、うちにバイトに来ていた娘さんが結婚して子供ができたんだけど、その子には不思議な力があったんだよ。
ある日、その子がうちに遊びに来て、うちに小さい女の子がいるって言うんだよ。うちには子供がいないから、変なことを言う子だな~って思ってたんだよね。
でもね、フッと気づいたんだ、その子は数年前に流産した子じゃないかって・・・。
聞いてみると、その子は僕が好きで、いつも僕の後をついてまわってるんだって、そして仕事に出かけるときは玄関で見送ってくれるそうなんだよ。夜、みんなが眠ってしまうと、その子も飾ってある人形の中に入って眠るんだって。」
私達は驚きました。
Sさんに子供がいないのは知っていましたが、流産した子がいるということは知りませんでした。
そして何よりも、技術者で理系のSさんが、そんなスピリチュアルな話をするとは思ってもみなかったからです。
それから話は続きました。
「僕も最初は半信半疑だったんだよね。でもある日、妻が流産した子に靴下を編んであげているときね、編み終わったときとほぼ同時にその子の母親(昔バイトに来ていた娘さん)から電話があったんだよ。
聞くと、その子が『女の子が喜んでるけど少し小さいって』って言ってるそうなんだよ。靴下のことは誰にも言ってなかったんでビックリしてね、それから信じるようになったんだよ。
そしてその後、靴下を少し大きくしてあげたら、また編み終わるとほぼ同時に彼女から電話があって、その子が『女の子が今度はちょうどいいって喜んでるよ』ってね、ビックリしたよ。」
「姿は無くなっても、魂はいつも近くにいてくれるんだよ。そして、一緒に成長するんだよ。」
私達は泣きました。
しかし、それは悲しみの涙ではなく、嬉しい涙でした。
息子は私達と一緒にいてくれる・・・・。
Sさんの話は、苦しみのどん底にいる私達を救ってくれました。
Sさんはその後、その子に言われて流産した子に名前をつけてあげたそうです。
私達にも、早く仏壇を買って、朝晩お線香をあげるようアドバイスしてくれました。
「毎日、少しでもいいから思い出してあげることですよ。」
Sさんはそう言って微笑みました。
火葬
昨夜、息子と会ってたくさん泣いたのがよかったのか、よく眠れ、気分も落ち着きました。
午前中、夫が大きな荷物を持って病室に入ってきました。
猫をペットホテルにあずけたので、今日から仕事を休んで、付き添いをしてくれるそうです。
とても驚きましたが、嬉しかった。
今日は火葬の日。
術後3日経っていたので、無理を言って外出させてもらいました。
火葬場に行く前に、親子3人で写真を撮りました。
最初で最後の家族写真。
泣きたいのをガマンして微笑みました。
また不思議なことがありました。
息子の顔が真っ赤だったのです。
まるで生きている赤ちゃんのように・・・。
息子を連れてきた看護師さんも、これにはビックリしていました。
「きっと最後にいい顔を見せてくれたんだね。ありがとう。」
むくみもとれて、3日前に産まれたばかりだというのに、まるで2、3歳の幼児のような顔をしていました。
そして、昨日と同じように、また目に薄っすらと水が溜まっていました。
その後、息子は紙でできた小さな棺に入れられました。
私達は、中にメッセージを書いた写真を入れました。
他にも、看護師さんたちが花や折り紙で折ったツルを入れてくれました。
いよいよ火葬場に行く時間がきました。
私達の両親は遠方にいるため、火葬場には知り合いのSさんと、I さんの2人が付き添ってくれました。
忙しい中、山を越えて来てくれたお二方には本当に感謝のしようもありません。
自分達の車に息子の小さな棺をいれ、横に座りました。
看護師さんや先生も見送ってくれました。
夫が、息子が産まれたら貼るはずだった「Baby in Car 」のステッカーを車の後ろに貼ってくれました。
「赤ちゃんと一緒だからね」
微笑む夫の目には涙が溜まっていました。
小さな火葬場には私達以外の遺族はおらず、到着と同時に火葬ということになりました。
Sさんが、買ってきてくれたお花やお菓子、おもちゃをお供えしてくれました。
そのとき、私は気づいたのです。
息子のために、おもちゃやお菓子を買ってあげようなんて思わなかった!と。
自分の悲しみのことでいっぱいで、息子のことを考えてやれなかった・・・・。
心が痛みました。
そして、Sさんの配慮に心から感謝しました。
釜の中に入れられる前に、もう一度、息子の顔を見ました。
そして、棺はスーっと釜の中に入っていき、火がつく音がしました。
涙がぽたぽたと手の甲に落ちました。
火葬が終わるまで、隣の部屋で待っていることになり、そのとき、Sさんが不思議な話をしてくれたのです。
母子
一人になった病室で、ぼんやりと壁にかかった花の絵を見てると、他の部屋から元気な赤ちゃんの声が聞こえてきました。
私は何でここにいるんだろう・・・。
薬が切れ、意識がはっきりするにつれ、現実が心に重くのしかかってきました。
やすときは死んでしまった。
おっぱいをあげることも、遊んであげることもできないのだ・・・。
海に行こうと思ってたのに。
公園で遊ぼうと思ってたのに。
歌を歌ってあげようと思ってたのに。
絵本を読んであげようと思ってたのに。
全て消えてしまった・・・・!!
悲しいのに1人になると涙は出ませんでした。
ときどき来る看護師さんに気分を聞かれても、「大丈夫です」と無表情に言うだけ。
本当は大丈夫じゃない、でもそんなことを言ったところで、どうなるというのか・・・。
そのときの私は、ただ時間が過ぎるのを待つことしかできませんでした。
消灯時間の直前
「赤ちゃん、連れてきましょうか」
と、看護師さんが言ってくれました。
私はハッとしました。
「お願いします!」
そうだ、限られた時間にもっと、やすときに会わなければ!
昼と同じように、やすときはカートに乗せられてきました。
胸に抱かせてもらい、何度も顔や手をなでました。
「必要なときはナースコールで呼んでくださいね」
看護師さんは優しく微笑んで、私を息子と2人にしてくれました。
お母さんだよ、お母さんだよ。
何もしてあげられなくてごめんね。
声が聞きたかったよ。
おっぱいをあげたかったよ。
泣きながら、何度も息子の体を抱きしめました。
そして、看護師さんに連れて帰ってもらうまで、息子に色々な話をしました。