お葬式
手術の後、私は麻酔でボーっとした日が続きましたが、夫は様々な手続きを一人でこなしていました。
その中で、一番困ったことはお葬式のことでした。
私は家から遠く離れた大学病院に入院しており、帝王切開手術をしたため簡単に家に帰ることができません。しかし、いつまでも息子の亡骸を病院に置いておくことはできなかったのです。
普通は、お葬式 → 火葬 という順番ですが、それができないため、夫は困りました。火葬を先にしていいのだろうか・・・・・・だれも明確な答えをくれませんでした。
悩みましたが、ぐずぐずしている時間は無いため、夫は先に火葬をして、私の体が回復する1ヶ月後ぐらいに地元でお葬式をすることに決めました。
そして、火葬は病院の近くの火葬場で、お葬式は地元のお寺で行いました。
夫は、どの宗派がいいかネットで調べ、色々勉強をしたそうです。
結果、浄土真宗のお寺でお葬式をあげることにしました。
夫は動けない私の世話をしながら、お寺と打ち合わせをし、お葬式の日時を決めてくれました。
しかし、これで安心と思ったのもつかの間、思いもよらない問題が出てきたのです。
それは台風でした。
大型の台風が10月末という季節外れなのにやってきたのです!
しかも、よりによってお葬式の日の、ちょうどお葬式をあげる時間に最も近くを通るのです。
なんで、よりによって・・・・泣きたくなりました。
その上、「お葬式には行くからね」 と言ってくれた人の欠席が相次いだのです。
「急に仕事が入って・・・」
「送ってくれる人が都合が悪くなって・・・」
「腰も痛くてね・・・」
正直言って、ショックでした。
お葬式とはいえ、初の息子のお披露目のつもりでもあったので、できるだけ多くの人に来てほしかったのです。
本当は台風がきたからじゃないのかな・・・・。
普通のお葬式と違って、ずっと前からお葬式の日時は伝えておいたのに、仕事か・・・・。
私達にとっては最も大切な日だったのですが、やはり他の人にとっては普通の日と変わらなかったのかもしれません。会ったことのない私達の息子よりも、自分の仕事のほうが大事なのは仕方ないのかもしれません。
しかしそのなかで、多くの仕事をかかえているのに来てくれたSさん。
電車が止まってしまうかもしれないのに、電車で駆けつけてくれた I さん。
遠くから、仕事を休んでまで来てくれたHさん。
そして、飛行機で来てくれた母。
暴風雨の中、車で来てくれた夫のご両親と義妹一家。
とても、とても、ありがたくと思いました。
とても、とても、心強く思いました。
私も、人が悲しんでいるとき駆けつけてあげられる人間になろうと思いました。
産後うつ
退院してから3、4日は布団でゴロゴロしながら、久しぶりの我が家を楽しんでいました。
早く目が覚めたり、なかなか寝付けなかったりすることも多かったのですが、特に気にはしていませんでした。
しかし、そんな日々が続いたある日、突然、恐怖感が襲ってきたのです。
眠れないので、昼間ウトウトしているときでした。
すべてのものが消えていくような恐怖感。
私はパニックになってしまいました。
その後、その恐怖感が襲ってくるのが怖く、全く眠れなくなってしまいました。
そうなると、なぜかじっとしていることができなくなり、食事中も突然立ってウロウロ。
夜は暗い中、恐怖感と戦いながら明るくなるのを待ちました。
いつかよくなるだろう・・・と思っていたのですが、体力的に限界を感じ、精神科にかかりました。
精神安定剤と睡眠導入剤をもらい、なんとか眠れるようになりました。
そして、眠れるようになると精神的にも安定してきました。
息子を亡くしたことのショックからくる「うつ」なのか、「産後うつ」と呼ばれるものなのかは分かりませんが、とにかく地獄のような日々でした。
後から帝王切開をした友人に聞くと、やはりうつ状態になったとか。
うつになる人と、ならない人の違いって何でしょうね?
うつ病になってみて初めて分かりましたが、ただ気分が沈んでいるときとは違い、何をしても気が晴れないのですね。
本を読む気にも、音楽を聞く気にも、テレビを見る気にもなりませんでした。
ただ唯一、散歩だけは私を元気にしてくれました。
夕方から暗くなるまで近所をウロウロすると気分が良くなるのです。
暗くなってからは、ボロボロ泣きながら歩いていたので、はたから見ると危ない人だったかもしれません(^^;)
今は元気になりましたが、もう二度とあんな思いはしたくないです。
メッセージ
最後の診察を終えて、返された母子手帳を見ると、手術の記録が記されていました。
手術時間1時間10分。
大量出血(羊水含め)2300ml。
子宮筋腫の摘出は無理と言われていたのに、こんなに時間をかけて取ってくれたんだ・・・。
このお産が無駄にならないようにしてくれたのかな・・・と、ふと思いました。
待合室に帰ると、夫が息子のお骨を抱き、うつむいて待っていました。
「今ね・・・」
と夫は待っている間に起こった出来事を話してくれました。
夫が私を待っているとき、一人のおばあさんが夫の前にソファに座ったそうです。
どうやら、お嫁さんが帝王切開手術を受けているらしいのです。
おばあさんは心配で落ち着かない様子。
しかしそのとき、おばあさんは夫が抱いている小さな骨壷に気がつき、静かに夫に話しかけてきたそうです。
「大変だったね」
夫は、息子のことをおばあさんに話しました。
そのとき、おばあさんの息子らしき男性が急いで待合室に入ってきたそうです。
「産まれたよ!!」
男の人は嬉しそうに言いました。
しかし、おばあさんは嬉しそうにはしゃぐその男性を制し、彼に夫の話をしたそうです。
そして、ポロポロと涙をこぼしたのだそうです。
この話をしてくれているとき、夫の目には涙が浮かんでいました。
自分の孫が産まれた、この嬉しいときに、見知らぬ私達の息子のために涙を流してくれるなんて・・・。
世の中には、人の傷ついた心に寄り添える人がいる。
このおばあさんや、看護師さん、Sさん、I さん・・・・。
実は今まで、私はあまり人と交わるのが好きではありませんでした。
というより、他人にあまり興味が無かったのです。
なので、人が悲しんでいても、喜んでいても、その心に寄り添うことはありませんでした。
どこか心の中で、「私には関係ない」 と思っていたのです。
しかし、私の息子が死んだとき、どれだけ多くの人が私と一緒に泣いてくれただろう!
彼らの優しさが本当に身にしみました。
そして同時に、私の今までの非礼を申し訳なく思いました。
これからは、ちゃんと人と交わろう。
人の気持ちに寄り添おう。
皆がしてくれたように、私も人のために何かをしよう。
これは息子が残してくれたメッセージなのかもしれません。
息子の死を無駄にしないためにも、勇気を出して一歩一歩前に進んでいこうと思いました。