「Horse Riding」

(みらいいろ:記憶回路)


(三)

三日目の朝までに制圧する、そう隊長は告げた。

燃える村の中、青年は銃を構えて壁に隠れた。

目を閉じて、深呼吸をする。

(この場所さ、昔みんなで遊んだ所だよな。)

一緒に居る仲間が、青年に話しかけた。

(あぁ、そうだな。)

思い出したように、青年は答えた。

(酷いもんだな。みんな燃えちまった。)

青年は無言で、黒煙を上げて村を燃やす炎を眺めた。

(なぁ、この騒乱が終わって、無事に帰れたらさ、何したい?)

不意に仲間が問いかけた。

(そうだな。)

仲間の言葉に、青年は写真の少女を見た。

(きっと、君のあの、温かくて癖になりそうな抱擁の中で泣くんだ。)

過去の日々を回想しながら、青年は心の中で呟いた。

銃声が響いた。

爆撃が起こって、建物を破壊する。

(君はずっと、僕らの中の空よりも眩しいんだ。このすり切れた写真の中でさえもね。)

青年は、少女の写真を軍服の中に仕舞った。

(君のその唇に触れる為なら、僕は何だってするよ。)

炎と爆風の中を、青年は銃を持って駆け抜けた。

不意に、昔よく口ずんでいた歌を歌った。

それは爆音にかき消されていった。

(革命には、サウンドトラックが必要さ。)

青年の側に、一頭の馬が駆け寄り、跪いた。

青年は馬の頭を撫でると、胸元で十字を切り、馬に跨った。

戦火の中を、青年は馬と共に走った。

その孤独な姿は、何よりも誇り高くて勇敢だった。

黒煙に覆われた空を仰ぎ、青年はただ祈った。

青年と馬が走り去っていく。

物語はそこで終わった。

「Horse Riding」

(みらいいろ:記憶回路)


(二)

屋上の柵に寄りかかって、日中の空を見上げた。

高かった夏空は、いつの間にか鱗雲が走る秋の空へと変わっていた。

「まだ寝ぼけてるんか。」

「弁当、全然減ってねぇ。」

僕を見ながら、フジとカイトが笑う。

「昼休み終わるぞ。」

そう言いながら、フジがペットボトルで僕の頭を小突いてきた。

「だいぶ眠そうだな。」

「ん、昨日の映画の事思い出してて。」

小突かれたところを押さえながら、フジに返す。

「そんな気になってるんか。」

「んー、何か凄い印象的だった。」

フジの問いかけに、どこかぼんやりとしながら僕は答えた。

不意に風が吹き抜けた。

どこか冷たさを含み始めたその風は、微かに秋の気配を漂わせていた。


***


青年の家から、大人の怒鳴り声が響いた。

家は貧しく、小さかった。

そんな環境のせいか、両親の仲は良くなかった。

毎日のように、二人は怒鳴り合っていた。

そんな時、彼は家から抜け出して、風が吹き抜ける草原へと走り出した。

馬に乗って風の中を走る彼の姿は、誇り高く、勇敢だった。

そして、孤独だった。

馬は彼を乗せて、どこまでも駆け抜けた。

そのターコイズブルーの瞳には、晴れ渡った空と、草原の緑が映っていた。


***


「おはよ。」

教室に入ると、フジが挨拶をしてきた。

カイトはまだ来ていないみたい。

「おはよう。」

僕も挨拶を返して、フジの席の近くへ行く。

「お前がこの間言ってた映画さ、見てみたよ。」

フジの一言に顔を向ければ、フジは笑っていた。

僕が気になると言っていた映画に、フジとカイトも興味を持った。

僕がタイトルを教えれば、早速見たのだろう。

「何て言うかさ、色々考えさせられる話だな。」

遠くを見るように、フジが喋る。

「結構悲惨だしさ、正直、救いがあるとは言い難いけど、何となく、綺麗だなって思った。」

その言葉に、僕は黙ってフジを見た。

確かに、あの映画はどこまでも悲惨で、救いがなくて、青年の人生は幸せとは程遠いものだった。

だけど、それ以上に綺麗だった。

孤独で、それ故に誇り高く勇敢で。


「Horse Riding」

(みらいいろ:記憶回路)


(一)

「おはよ。」

「よー。」

「おはよ。」

「んー。」

教室に入ると、フジとカイトがそれぞれ挨拶をしてきた。

だけど僕は、あまりの眠気に、気のない返事を二人に返して、自分の席に着いた。

「どうした?」

「凄ぇ眠そう。」

二人が笑いながら僕の側に来る。

「寝たの二時過ぎだった。」

「また遅いな。」

机に突っ伏したままの僕の言葉に、フジが返した。

「テレビ見てて。」

「珍しいな。」

僕の一言に、フジが物珍しそうな返事を寄越す。

「あんまテレビ見ないよな、お前。」

カイトもフジに同調してきた。

「たまたまつけたら映画やってて、気になって最後まで見ちゃった。」

「映画とか、尚更珍しい。」

カイトが笑いながら言う。

「何か、ちょっと面白くて。」

「お前が面白いってのも気になるな。」

フジが興味持つ。

「ん、眠いからとりあえず寝る。」

そう僕は言うと、顔を腕に埋める。

「授業中も寝てたら、後でノート見せてやるよ。」

「カイトはあんまり信用出来ない。」

カイトの一言に、半分寝ぼけながら僕は返した。

お前失礼だなと言うカイトの声と
、フジの笑い声、そして教室の喧騒が徐々に遠くなっていった。



***


馬に乗った青年が居た。

風が吹き抜ける草原だった。

小さく、歌を口ずさみながら、青年は馬と風の中を駆け抜けた。

小さな村で、青年は育った。

仲間と一緒に、色々な事を見て、くだらない事で笑い合って、日常を過ごした。

そして、一人の少女を見かける事が好きだった。

小さな幸せを拾いながら、生きていた。

一本の電話で、その日常は終わってしまった。

青年は机の上に置いてあった銃を掴み、家を飛び出していった。

昔の仲間と一緒に、赤い軍服を着て、焼けた村に並んだ。

戦火の中でも、青年は少女の写真をずっと持っていた。

そのすり切れた写真に写る彼女は、どんな晴れた空よりも眩しく見えた。