二足の草鞋 -68ページ目

孤独な道標 【第八章】~出逢い~

【第六章】
≪出逢い≫

辺りをキョロキョロと見渡しながら歩くのが日課になり、いつかは淳介に見つかってしまうという恐怖に怯えながらそれでも私は、毎日を一生懸命に過ごしていた。

そんな回春店で働く傍ら、みるきーという男性に恋をした。よく、淳介が私と出逢ったことは“運命”だと言っていたけれど、まさにそんな感じだった。恋をするのにどこをどう好きになるのかなんてわからない事はよくある。気づいたら好きになっていたっていうくだりは多い。でも、この恋は何か運命を感じるような出逢いだった気がする。
みるきーが何か特別、引き立つようなものを持っていたわけでもなく、淳介のようにルックスやトークが上手いわけでもなかった。世の中に、電流が走るみたいにビビッとくるような所謂、一目惚れなんて存在するはずもないと思っていた。

みるきーも同じように思っていたらしく、出逢った次の日にまた私に逢いに来てくれた。そんな、みるきーをもっと知りたくなった私は、出逢って3日後にデートをした。

みるきーは淳介と少しだけ似ているところがあった。同じオンラインゲームで楽しんでいること、淳介の住んでいる家から目と鼻の先に住んでいたことや、ちょっとS気があるところも。

2年間、淳介に束縛されていたから男性とデートするなんてことが久しぶりだった。それに、引っ越してからずっと何かが不安で、あまりよく眠れない日々が続いていたから、なんとなく癒されるみるきーの笑顔と喋り方にどんどん安心感を抱き始めていた。

何が2人の仲を急接近させたのかはわからない。でも、私には何か“運命”という文字に導かれたように、気づいたらみるきーが私の家に来ていた。その日は、終電も間近だったから家に泊めた。今まで、淳介さえも泊めたことないのに、ましてや逢ってまだ3日しか経っていない人を泊めるなんてどうかしてるとしかいいようがない。
翌朝、目覚めるといつもと違う光景に私は何か心の擽ったさを感じた。そして、自分の身体の軽さに驚いた。私は、昨夜、逢って間もない人の隣で深い眠りに就くことができた。私にとって、みるきーは不思議な人だった。

週末に、みるきーが「僕の家に来ない?」と言ってきた。

私はまだ、みるきーに淳介のことを話していなかった。正直、淳介の住む街には二度と行きたくないと思っていた。だから、私はみるきーの誘いを断り、また私の家に来てもらった。

たわいもない話をしていると、一通のメールが届いた。

その相手は、淳介からだった。メールアドレスを変えたはずなのに・・・どうして?真っ先にY子の顔が浮かんだ。私の新しい携帯アドレスを知っているのはY子くらいしかいない。もはや、Y子は淳介のルックスとトークで掌握してしまったんだろう。

「みるく。俺はおまえを諦めた訳じゃない。言ったはずだ、“俺は、みるくと一緒になれるのなら、たとえ天に背いても何も怖くはない。”いま、おまえが本当は寂しがって夜も眠れず、俺の身体を求めていることくらいわかっているんだからな。」

私は寒気がした。ここまで淳介に思われていたなんて。でも、それならなぜ、私が嫌がる浮気を何度も繰り返したのか理解できない。やっと、いま、みるきーとの出逢いが私の心から淳介を忘れ去ろうとしてくれているのに、また私の身体と心の片隅から沸き上がるように淳介から支配されているのではないかと錯覚を起こしそうになる。

私は、自分の過去が人には言えない、理解してくれないだろうと思っていたから何も話す気はなかった。自分だけの心の中に留めておきたかった。それと同時に、男性を信用することができなくなっていたことに気づいた。

そんな私の閉ざされた心を素早く読み取ったみるきーは私にいつも寄り添い、本当の信頼というものを言葉ではなく行動で教えてくれていた。

私は、淳介にはメールを返信せず、「なぜ、淳介にメールアドレスを教えたの?」とY子にメールをした。

Y子からはすぐに返信があった。「ごめん。勝手に淳介くんがワタシの携帯見たの。」

淳介ならやりかねないと思った。私をまた奴隷にするためなら、どんな手段だって使ってくる。Y子の携帯を見て私のアドレスを知ることなんて淳介にとってみれば朝飯前だ。

負けちゃいけない。私は、もう、淳介の奴隷にはならない。もう、淳介からの洗脳は終わったんだ。