二足の草鞋 -66ページ目

孤独な道標 【第八章】~不意打①~

【第八章】

≪不意打①≫

月日が経つのは思ったより早く感じた。みるきーと出逢い、特別、大きなサプライズがあったわけでもないし、淳介のように数奇な運命を辿ってきた人でもなかったから平凡で平和な日々が続いた。本来、恋愛とはそういうものなのかもしれない。淳介との恋愛は、やっぱり夢だったんだ。

一方で、淳介はY子と頻繁に会っている様子だった。女性とはいざという立場に置かれたとき、男をとるか、女をとるかと選択されたら、たいがいの人が男をとるのだという。よく、友達以上恋人未満なんて言うが、男女関係はそんな簡単なものでは済まされない。実際に、私も嫉妬深く彼が昔の女と連絡を取り合っていたとしたら気分はあまり良くない。

Y子は、面食いだったから私が初めて淳介を紹介したとき「羨ましい」とよく言っていた。性格はあまり良くないよなんて冗談も言っていたけれど、面食いのY子にとってみれば、そんなの関係なかった。このままY子と一緒になってしまえばいいのにとすら思っていた。

暫くして淳介からメールがあった。

「みるく、俺・・・風邪引いたみたいなんだ。もう、3日も寝込んでる。会社も行かなきゃいけないのに、このままじゃいけない。なあ、みるく・・・おまえの作ったお粥が食べたい。」

私はちょっと心配になった。淳介はもともと風邪ひとつ引かない屈強な男だった。あまり、弱音を吐くことなどなかったから・・・。Y子に連絡をとった。

「ねえ、淳介・・・風邪引いているみたいだけど、Y子ちょっと看てきてやってよ。」

「一昨日行ったの。でも、ワタシの言うことなんて聞かないし、ご飯も全く食べてくれなくて・・・。薬もあまり効かないみたいで・・・みるくのことを何度も呼んでいたから・・・。ねえ、みるく、淳介くんのところへ少しだけでいいから行ってあげて。」
Y子の心配そうな声から深刻さを感じた私は、悩んだ。そうこうしてるうちに淳介から2通目のメールが届いた。

「みるく・・・みるくが俺の元に戻って来てくれないのなら、俺はこの世に生きている価値がないような気がする。俺は・・・このまま・・・。」
私の足は、淳介の家に向かっていた。みるきーには言っていない。でも、なんだろう・・・知らない間にK線に乗っていた。その間、淳介にメールをした。
「大丈夫?Y子に聞いたけど、何も食べてないみたいじゃない。ダメだよ、食べなきゃ。それに、生きている価値がない人間なんてこの世にはいないんだから。・・・お粥、作りに行くからちゃんと食べて。」
「ほんとか?みるく。ホントに来てくれるのか?ありがとう・・・。」

淳介の家の最寄り駅に着いた。8か月振りに来たこの土地は何も変わってはいなかった。私は、近くのスーパーで買い物をして淳介の家に向かった。そう・・・何の躊躇いも疑いもなかった。
玄関は開いていた。そっと扉を開けると、部屋中が私の昔使っていた香水の匂いがした。買い物したものを台所へ置き、寝室の扉を開けると窓側を向いて寝ている淳介がいた。

久しぶりの淳介の寝室。何も変わっていない・・・ただ、一つだけを除いて。私は淳介の元へ歩み寄りそっと肩を叩いた。

振りかえった淳介は、無精髭を生やしていた。今までに見たことない姿だった。もともとそんなに毛深くはない方だが、髭は毎日剃っているところしか見たことなかった。
淳介はニッコリ笑うと、「やっぱり来てくれたんだ。うれしいよ、みるく。」そう言って私の手を握った。

「らしくないよ。お粥、作るから・・・とりあえず、食べて滋養をつけて。」と言うと、

「みるくが何よりの滋養だよ。俺は、みるくがいないと何もできないんだ。」淳介の言葉は弱々しく聞こえた。

お粥を作っていると、台所へ淳介がやって来て背後から私を抱きしめてきた。びっくりした私は、固まってしまった。
しばらく、私を抱きしめている淳介の身体がそんなに熱くはないことに気がついた。もしかして、熱はないの?

「熱、下がってるんじゃないの?もう、平気なんじゃないの?」
「みるくが来てくれたから・・・。」

待って?もしこれがY子と淳介の企みだとしたら?きっとそうに違いない。私を淳介の家に行かせることが目的で、しかもこの密室で・・・ああ、私はなんでそんなことに今更気づいたんだ。

淳介はなかなか私を離してはくれなかった。

「病人なんだから、ベッドで寝てなよ。お粥できたら、ベッドまで持っていくから。」
「わかった。俺、2日、風呂に入っていないんだ。背中流してくれないか。」

「お風呂はいれるわ。でも、一人で入って。私は彼女じゃないからそんなことまでしたくない。」

そう言い放ち、お風呂を洗いにストッキングを脱ぎ、上の服を一枚脱ぎ入った。浴槽を洗っていると、まだ洗い終わっても、お湯を沸かしてもいないのに裸になった淳介が私の背後から下着に股下の棒を擦りつけてきた。