二足の草鞋 -57ページ目

孤独な道標 【第十章】~不吉な予感②~

【第十章】
≪不吉な予感②≫

みるきーと一緒に過ごす誕生日。比べてはいけないんだけれど、私は淳介のサプライズや旅行などに連れて行ってくれたことを何かある度に常に思い出していた。だからといって、淳介のもとへ戻りたいワケではなくて・・・。

「みるく、31歳の誕生日おめでとう。これ、プレゼント。開けてみて!」
みるきーは、誕生日プレゼントに指輪を用意していてくれた。

私はそんなに物欲がある方ではないし、何か特別ブランドに拘っているワケではないが、私の好きな色やデザインなどの好みを知っていてくれたことが何より嬉しかった。

淳介はどちらかというと私の好みというより自分の好みを優先していたから、よく欲しくもないものを贈られていて箪笥の肥しになっていることはよくあった。

「嬉しい!ありがとう♪さっそく身に着けるね^^」
私が指輪を着けていると、みるきーは私に聞いてきた。
「ねね、みるく。オンゲーからは誕生日プレゼント何もらったの?」
みるきーは淳介の名前を使いたくないらしく、淳介のことを【オンゲー】と呼んでいた。
あんまり言いたくないな・・・淳介からのプレゼントもらって喜んだと思われたくないし。

「あ・・・オンゲーからは贈り物たくさんしてもらったから・・・。」私は、なるべく言葉を濁した。

「例えばどんな?」

「えっと・・・えっと・・・。」

私が答えられずに黙っていると、みるきーは話題を切り替えてくれた。そんな、強引ではないところや私の顔をきちんと見て話をしてくれるみるきーに対し、私は自分のような人間はみるきーの彼女として相応しくないのではないかと不安になった。

私は、みるきーを一度裏切った。淳介の部屋で起きた悪夢のような時間は、みるきーにバレてはいないとわかっていても、自分の心の愚かさにうんざりしていた。

月日が変わり、淳介と私が出逢った日から3年目の日が近づいた頃、私はある不安に駆られていた。

去年の2月、私たちがまだ別れる前の話。淳介と出逢った2年目の日にBARで、『みるく結婚して欲しい。TDSに行ったときの婚姻届、出してもいいよな。』と言われたとき、私は淳介とは一緒にはなれないと思った。

繰り返す浮気や自己中心的な考え方に私自身の心が崩壊寸前だった。

だから私はあの時、『ごめんなさい、まだ、そんな気になれない。もう少し付き合ってから・・・決めたい。だから、来年の自分たちに宛てた手紙でも書いてまた来年ここで逢いましょう。タイムカプセルみたいに・・・そしてその時もまだお互いが変わらぬ気持ちでいることができていたら、結婚してください。』と言い、3年目のBARイノセントで出逢うことはないとわかっていた上で、決別の手紙を書いた。
そして、もう一つ・・・。TDSのホテルでの模擬挙式の後の夕食の時に婚姻届を出され、プロポーズされた時、涙を流しながら私は手を震わせ署名した。

『わかった。書きます、ご主人様を信じます。』
『みるく、そんなに震えて書くと失敗するぞ。』

あの時は、本当にいろんな想いが頭の中を駆け巡った。

驚き、喜び、嬉しさ、不安、そしてなによりも奴隷契約書のときとは比べ物にならないくらい、身体に圧し掛かる恐怖。

だから、私は婚姻届を文書偽造した。本籍地を書く欄の実家の住所はデタラメを書いた。いずれ、本当に結婚をすることになったとしても婚姻届なんてもう一度書き直せばいいと思っていたし、挙式だって模擬挙式だし、あの時の婚姻届だって偽装なのよ。

私が婚姻届を書く手が震えていたのは、間違ったことを書いていたから。

BARイノセントの飲み干したボトルにお互いに寄せた手紙と婚姻届を入れて、マスターの下で保管してもらっていることを思い出した。淳介ならきっと3年目の日にBARに行って保管してある手紙と婚姻届を取り出すだろう。

もし、決別を意識した上での手紙を読み、そして婚姻届が偽造だと知ったら・・・。

ああ、こんなことになるんならあんな手紙書かなきゃよかった・・・。私は後悔をしていた。

そう思うと、居ても立ってもいられなかった。淳介より早く開け、手紙と婚姻届を破棄してしまわなければいけないと思った。