先日KBCシネマでまたまた映画を観ました
「ヒトラーに屈しなかった国王」
(原題 「Kongens nei / The King's Choice」)
監督:エリック・ポッペ
脚本:ヤン・トリグヴェ・レイネランド、ハラール・ローセンローヴ=エーグ
製作:フィン・イェンドルム、スタイン・B・クワエ
撮影:ヨン・クリスティアン・ローセンルン
キャスト:
ホーコン7世(ノルウェー国王):イェスパー・クリステンセン
オラフ(ノルウェー皇太子):アンドレス・バースモ・クリスティアンセン
クルト・ブロイアー(ドイツ公使):カール・マルコヴィクス
他
この映画観に行こうか迷っていたが、読者登録させていただいているブロ友様の記事で鑑賞した感想を拝読して、やっぱり行こう!と思い立った。
もうひとつ、観たかった理由が以前こちらの本を読んだから。
「希望のヴァイオリン ホロコーストを生きぬいた演奏家たち」
ジェイムズ・A・グライムズ著 白水社
2015年1月にアウシュヴィッツ強制収容所の解放70周年の記念行事としてベルリン・フィルの団員たちによって演奏会が開かれたのを覚えている方もおられるかもしれない。使用された楽器(15挺のヴァイオリンと1挺のチェロ)はかつてのホロコーストの犠牲者たちが持っていたもので、これらの楽器を提供したのはイスラエルに在住のヴァイオリン職人アムノン・ヴァインシュタイン。彼自身も親族の多くをホロコーストで失っており、彼はホロコーストを潜り抜けた楽器を集めて修復し、その持ち主の物語を伝える「希望のヴァイオリン・プロジェクト」を主宰している。 この本には彼が修復した7挺のヴァイオリンの物語が各章に書いてあって(必ずしも著名人ばかりではない)、第4章にこの映画の舞台でもある、ノルウェーの話が出てくる。オスロ・フィルのコンサートマスターを務めたアーンスト・グラーセルの話である。
恥ずかしながら私はこの本を読むまでナチス・ドイツがノルウェーなど北欧まで侵攻していたということを知らなかった。この本を読むとホロコーストのことを少しばかり知っている気になっていた自分がまだまだ全然知らなかったことをあらためて認識させられた。あまりの凄惨さに読み進められず、本を閉じて深呼吸したことが何度もあった。
話が横道にそれたが、この本でも読んだノルウェーが舞台ということでこの映画に興味を持ったのだった
映画の話をする前にノルウェーの歴史上の背景について・・・
ノルウェーが1905年にスウェーデンから独立したということを映画を観るまで私は全く知らなかった・・ それまではスウェーデン国王がノルウェー国王を兼ねるという「同君連合」という形をとっていたそうだ。1905年にノルウェーが完全独立したのち、新国王に国民投票で選ばれたのがデンマーク王フレデリク8世の次男のカール王子だった(兄はのちのデンマーク王クリスチャン10世)。カール王子はノルウェー国王に迎えられると同時に「ホーコン7世」と改名した。
映画のあらすじは・・・
1940年4月9日、ナチス・ドイツ軍がノルウェーの首都オスロに侵攻、その圧倒的な軍事力によって主要な都市は相次いで占領される。降伏を求めてくるドイツ軍に対しノルウェー政府はそれを拒否、国王のホーコン7世は政府閣僚とともにオスロを離れる。 一方、ヒトラーの命をうけたドイツ公使ブロイアーはノルウェー政府に国王との謁見を求める。 翌日ドイツ公使と対峙した国王は、ナチスに従うか、抵抗を続けるか、国の運命を左右する究極の選択を迫られる。---北欧の小国ながらナチス・ドイツに最も抵抗し続けたノルウェーにとって、歴史に残る重大な決断を下した国王ホーコン7世の運命の3日間を描く。
映画ではこの3日間を時系列を追って刻々と描いており、国王が皇太子やその家族とともに北へ北へと逃れて行く、そしてドイツ軍をそれを追っていく様子が緊迫感を持って伝えられる。
緊迫感をより増しているのが、そのカメラワークではないかと思った。時々まるで素人が撮っているのではないかと思うような撮影の仕方なのだ。ピントを合わせるのに少しタイムラグがあったり、ふたりの会話シーンではふたりの表情を交互に写すのにいちいちカメラを180度ぐるっと回して撮影したり、手榴弾が爆発するシーンではカメラもふっとんで地面に落ちたまま、カメラに血がついたまま、そのままずっと会話だけが聞こえてきたり・・・ まるで映画というよりドキュメンタリーを観ているような気持ちになった。BGMもほとんど使われず、最小限のみだったので、たまに音楽が流れると逆にハッとなって「あぁ、これ映画だった」と思うくらいだった。
パンフの中のポッペ監督のインタビューを読むと、やはり撮影にあたってドキュメンタリー的な撮り方を工夫した、と書いてあったので「うまいな~」と思った。
言語の対比もおもしろかった。当たり前だけどノルウェー側の場面はノルウェー語、ドイツ側の場面はドイツ語なのだが、それが観ている側にも気持ちの切り替えというか感情も変わる(なにせ早口でどなるように話されるドイツ語は激しいので・・)
ナチス・ドイツがオスロに侵攻したときホーコン7世は67歳。 杖をつきながら逃げまどう姿には本当にかわいそうになった。国民の犠牲を最小限にするために降伏するかそれとも祖国のために戦うのか究極の選択で悩む姿にも、"たまたまこの時代に生きていたからといってもこの年齢になってこんな思いをしなければならなかったなんて・・”と胸が詰まるような気持ちになった。 国王としての顔は威厳があるのだが、孫と接するときの顔はひとりのおじいちゃんでなんと優しいことか・・ 演じたイェスパー・クリステンセンのうまさが光っていた。
ホーコン7世(国王) オラフ(皇太子) クルト・ブロイアー(ドイツ公使)
(イェスパー・クリステンセン) (アンドレス・バースモ・クリスティアンセン) (カール・マルコヴィクス)
これが実際のホーコン7世(1872-1957) (wikipediaよりお借りしました)
映画ではドイツ軍のオスロ侵攻後の3日間しか描いていないが、実際はその後国王は皇太子や政府閣僚とともにイギリスへと亡命、BBC放送を通じてノルウェー国民を鼓舞し続けた。1945年6月にノルウェーに帰国した際には国民の大きな歓迎を受けた。
余談だが、1909年に日本であの八甲田山雪中行軍遭難事件のことを聞いたホーコン7世は、「我が国のスキー板があれば、このような遭難事故は起こらなかったのではないか」と考え、明治天皇宛てにスキー板2台をお見舞いを兼ねて贈呈したのだそうだ。
現在は映画では子役として登場していた、ホーコン7世の孫ハーラル5世が国王となっている。
最後に、パンフに載ってたノルウェートリビア
世界幸福度ランキングで、ノルウェーは1位(日本は51位)
国民生活の豊かさを示す「人間開発指数(HDI)」でも1位
民主主義度もノルウェーは世界1位
男女平等指数が世界3位(現在女性も徴兵制度の対象だそう)
国民一人当たりのGDPが世界3位
すごいんですね~
この話は約80年前の話だが、突然他国から攻撃されるという不測の事態が起こったときに、もし日本だったらどう対応できるのだろうか、単に右往左往するだけではないだろうかなどと考えてしまった。大昔の話ではなくたった80年くらい前の話でこういう歴史を忘れてはならないのだと思った。