2017. 5. 20 (土) 15 : 00 ~ ビーコンプラザ・フィルハーモニアホール(別府市)にて
第19回 別府アルゲリッチ音楽祭
<室内楽マラソン・コンサート> ~アルゲリッチが贈る「星の王子さま」
小さな子どもだったあなたへ~ 私たちの星で音楽を奏でる理由(わけ)
To you who were once a little child - Why we have music on our planet
第四部
シューマン・アルゲリッチ ファミリープロジェクト
出演:マルタ・アルゲリッチ、リダ・チェン・アルゲリッチ、アニー・デュトワ、ステファニー・アルゲリッチ(映像)、Dorian Rossel (演出)
シューマン:おとぎ話の挿絵 Op.113より 第1楽章、第2楽章
(リダ・チェン・アルゲリッチ (Vla)、マルタ・アルゲリッチ (Pf))
シューマン:幻想曲 ハ長調 Op.17より 第1楽章
森の情景 Op.82より 予言の鳥
シューマン/リスト:ミルテの花 Op.25より 献呈 S.566 R.253
(マルタ・アルゲリッチ (Pf))
クララ・シューマン:ロマンス Op.22
シューマン:おとぎ話の挿絵 Op113より 第4楽章
(リダ・チェン・アルゲリッチ (Vla)、マルタ・アルゲリッチ (Pf))
前回の記事の続きです。
(今回演奏自体の感想はほとんどないので興味ない方はスルーしちゃってください)
いよいよ最終部はアルゲリッチとその3人の娘たちによるファミリープロジェクト。
私はアルゲリッチの3人のお嬢さんたちが勢ぞろいしたのは初めて見ました。
まずこの3人の娘さんたちを簡単に紹介すると、
長女のリダ・チェン・アルゲリッチ。ヴィオラ奏者。父親は中国人の作曲家・指揮者のロバート・チェン。 ジュネーヴ大学で法律を学び、法学士の学位も取得した才女でもある。
次女のアニー・デュトワ。父親は指揮者のシャルル・デュトワ。
比較文学やジャーナリズムを学んだあとアメリカの大学で教鞭もとっている。そのかたわらホロコーストの研究者として、また舞台芸術では俳優やプロデューサーとして活躍している。
三女のステファニー・アルゲリッチ。父親はピアニストのスティーヴン・コヴァセヴィチ。
映像作家、プロデューサー、写真家。
2013年には映画「Bloody Daughter ~アルゲリッチ私こそ、音楽!」を製作した。
(写真はそれぞれアルゲリッチ音楽祭のHPからお借りしました。)
それぞれ父親は違うけれど、3人はとても仲がいい。
客席から遠目に見ていると、長女のリダが一番アルゲリッチに似ているように見えた。髪をかきあげる仕草やちょっとした表情など若い時のアルゲリッチにそっくり。アニーはどっちかというと父親に似ている。ステファニーは写真で見るよりもっともっと美人でかわいらしかった。
実際のステージは下の写真のようになっていて(会場外のモニターから撮った写真です)、ステージ正面には映像を映すスクリーンが、ピアノの横には小さな四角いテーブルと椅子が、3か所にランプが置かれていた。
まず3人の娘たちがそれぞれのランプに明かりをつけ、そしてアルゲリッチも含む4人でテーブルに座った。 最初にリダが「母の第2の故郷であるこの別府で私たち家族が集い、家族のことを話せることがうれしい。」というような内容のことを話した。
内容はシューマン(ちなみにシューマンはアルゲリッチが一番好きな音楽家だそう)の妻、クララ・シューマンに彼女たちの母親であるアルゲリッチを重ねて、彼女たちが小さい頃も(クララと同じく)演奏活動に忙しかったこと、そのころの思い出、母親への想い、などを映像や過去の写真などを映しながら3人がそれぞれ(フランス語あるいは英語で)語り、その合間に曲の演奏がある、というものだった。
リダやアニーが時々アルゲリッチにマイクを向けて話を聞いたり、誰かがしゃべっている合間には残りの3人はテーブルで飲み食いしながらしゃべってたり、とてもくつろいだ雰囲気だった。
過去の写真では、若いアルゲリッチが片手でまだ小さいステファニーを抱っこしてもう片手ではアニーと手をつないでいる空港での写真があった。
アルゲリッチは離婚後にアニーとステファニーを引き取り、自分の演奏旅行にいつも連れて回ったのでその頃の写真だと思われる。
一方長女のリダとは、(出産前に離婚し)生まれてまもなく裁判で父親に親権が認められ(というのも大きな原因はアルゲリッチの強烈な母親ファニータといえる)、アルゲリッチには面会権さえ与えられなかったため、かなり長い間会えなかった。リダはその後父親ではなく父の知人や修道女たち、養父母などを転々としながら育った。アルゲリッチの娘であることも長い間知らなかったそうだ。
波乱万丈ともいえる人生を歩んできたアルゲリッチだが、3人のこどもたちもそれぞれが寂しい思いや複雑な思いを抱えて生きてきたことが彼女たち自身の言葉からも感じられた。
彼女たちがマイクを手に語っている姿を眺めるアルゲリッチの眼差しが本当に優しく見えた。まさに母親の顔でした。特に末っ子のステファニーが語っているときなどニコニコしていて、しゃべり終えてテーブルの席に戻ってくるなりアルゲリッチが彼女の髪の毛をくしゃくしゃっとする姿など本当に微笑ましかった。
普段ソロでピアノを弾くのは極度に緊張する(なので不機嫌になる)アルゲリッチだが、我が子たちがそばにいると安心するのか、シューマンの幻想曲など素晴らしいソロを披露してくれた。
特にシューマン/リストの献呈は最初の一音が鳴り始めたとたんに鳥肌が立って泣きそうになった。 やっぱりアルゲリッチの生み出す音色は最高だと思う。
(献呈の演奏前には「この歌詞って素晴らしいわよね。最近この曲一生懸命練習してんのよね。」などとアルゲリッチがしゃべってる動画がスクリーンに映し出された。)
長い間両親の愛情を知らずに育ったリダ、そして母親の元で育ったふたりも世界中を転々と連れまわされ母親は教育にも無頓着で、客観的に考えると決してよい環境で育ったとはいえないと思う。
けれど結果的には3人とも自分の好きなことをそれぞれ見つけて数か国語を操る立派な国際人になっている。そして3人ともお母さんのことが大好き。 私自身「子育て」という意味でも色々と考えさせられることが多い。
アルゲリッチ自身の人生などについて興味がない人にはこのプロジェクトは面白くもなんともないものだったかもしれませんが、本や映画などで多少なりとも知っていた私にとっては、今この4人が同じ場所に集ってステージの上にいるというだけでとても感慨深いものがありました。
この室内楽マラソン・コンサートは15時に始まって(3度の休憩も含みますが)終わったのが20時近くだったかな? 博多~別府間の往復5時間もいれるとこの日は10時間くらい座ってたのでおしりが痛くて! おしりさん、よく耐えてくれてありがとう!
最後に本と映画を紹介しときます。
オリヴィエ・ベラミー著 「マルタ・アルゲリッチ 子供と魔法」 音楽之友社
DVD 映画「「Bloody Daughter ~アルゲリッチ私こそ、音楽!」
映画「Bloody Daughter ~アルゲリッチ私こそ、音楽!」予告編
映画の中のワンシーンです。(写真はwebよりお借りしました。)