『夏のレプリカ』
森 博嗣、講談社文庫、2000年
たとえば『子供に夢を与える』と言いながら、本当に夢を見る者を徹底的に排斥しようとする社会。集団はいったい何を恐れているのだろう
萌絵の親友の簑沢 杜萌(ともえ)は大学の夏休みに実家に帰省した折りに、仮面を被った男によって家に軟禁されてしまう。さらに彼女の両親と姉は別の場所に誘拐され身代金の要求を受けていたのだ。
その後、杜萌と家族たちはぶじに解放されたが、誘拐犯のうち2人の射殺体がワゴン車から発見され、家にいたはずの杜萌の兄で盲目の詩人・素生(もとき)が姿を消した。
杜萌と共にいた誘拐犯には結果的にアリバイが存在するため、さらに別の人間が事件に関わっていた可能性も指摘されるが一向に判明せず素生の消息も不明のまま。
マジシャン・有里 匠幻の殺人事件と同時期に発生していたもうひとつの事件。
シリーズ第7弾。
前作同時期(発生は3日違い)に起こった事件。2つの事件に隠された繋がりがあるとか、そんなことはなく個別の事件となっています。
淡々とゆったりと物語が進んでいき、萌絵も有里 匠幻の事件や自身の受験などもありなかなかこちらの事件に関われなかった状態なので尚更です。
とはいえ事件自体はなかなか複雑にして不可解、ほろ苦い夏の思い出といった感じで、良質なミステリーではないでしょうか。
本作の森氏の素敵センテンス
“こういう場合の叔母の強引さは、ロードローラで餃子の皮を作るようなもので、速攻かつ圧勝なのである”
“一般に、子供のときの性格や習慣は、大人になっても直らない。人造人間のキカイダーだって、あのていたらくだ”