島田荘司、講談社文庫、1992年

「これには私も驚いた。指紋のトリックと同様、君の知恵に素直に頭を下げるとしよう」
札幌の実業家のバラバラ死体が二つのトランクに詰められ自宅に届けられるという事件が発生。水戸に住む娘夫婦から送られたトランクの中身が、どこかで死体と入れ替わっていたのだ。
その後、死因は溺死で、殺害場所は銚子と推定された。被害者は死の直前に東京の知人を訪ね歩いていた最中、突然思い立って銚子に向かったらしい。
札幌署・牛越刑事が事件に迫るが、被害者な生活態度は潔癖そのもので恨みを買うようなことが見当たらない。トランクの中身が入れ換えられたタイミングも被害者の謎の行動も不明のまま。
警視庁の中村刑事の強力も得ながら、やがて容疑者に辿り着くもそこには鉄壁のアリバイが立ち塞がっていた。
執念の捜査の末に、牛越刑事は容疑者との一騎討ちに挑む。
『斜め屋敷の犯罪』や『寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁』にも登場している牛越刑事が主役のお話。中年の、名前の通りどこかゆったりした印象を受けるごく凡庸な人物です。
ちなみに中村刑事も吉敷竹史の先輩として吉敷シリーズに登場してます。
社会派ミステリーのように、ひたすら歩き回って事件を追っていくわけですが、そこは島田流の時刻表トリックと本格ミステリーのトリックを掛け合わせた重厚な内容。
事件の起こりのインパクトの大きさ、奇術的な謎、とどめの時刻表と、言うことなし。
相変わらず犯人の動機が深くて、思わず同情してしまいます。