娘がぼそっと、
「せいりだから」
そか。
だから昨日からしんどそうなのか。
それでも出掛けて行く。
また俺が寝た後、帰って来るのだろうから、何か夜食を買っといてあげよかね。
「開いてれば恵比寿で美味しいラーメン食べて来る。」とは言ってたけどね。
うん。開いてるといいね。食べといで。
ちっと西友行ってこよ。
夕方のバス通りとことこ。
褪せたオレンジのNIKE BLAZERにDIESELのダメージデニム(パッと見、雑巾みたいに大ダメージ)隣町の「貧乏人のアウトレット」で買った白Tに、UNIQLOのグレーのくたびれたパーカー羽織ってとことこ。
手にルブタンの鋲だらけの財布持ってとことこ。
ちと寒いね。
向かいから歩いて来る女の人。
30代か40に差し掛かったか。
見るともなく目が合ってすれ違う。
あれ俺、この人にいくらか渡してたんだっけ?盆正月、欠かさず贈り物してたっけ?ご先祖様が命の恩人だとか?前世で夫婦だった?
どなたか存じませんが、
「かっこいい・・」
いや嘘でも間違いでも「遠目夜目傘のうち」でも「実は酷い乱視なんです」でも。
ありがとうございます。
すれ違いざま呟いてくださってありがとうございます。
ひょっとしたら歩道脇の駐車場の青い4駆のことかも知れないけど、「学校いい」と言ったんだとしても、(E=mc²)と相対性理論を呟いただけの理系女性で、大きな勘違いだとしても、
ありがとうございます。
たまには何かいいことあってよ小さな幸せ。
ロケ焼けでヒリヒリする顔と両腕を見ながら思う。
俺はもうカメラマンだけでご飯を食べることはない。写真を撮ることすらやめてしまうかも知れない。
今でも「俺くらいの腕のやつは滅多に居ない」と本気で思ってる。
街や雑誌で広告写真を見る度に「へったくそ」と呟く。
あの平成の最後の頃、諦めてしまって良かったんだろうか?「コロナに引導渡された」と納得して良かったんだろうか?
あの熱はどこへ行っちゃったんだろう?「天才で天職だ」と嘯いて(うそぶいて)た俺はどこ行っちゃったんだろう?
そうじゃなくてね、
嫌になっちゃったんだよ。
経験の長さ、引き出しの多さ、腕の良さ、賞歴・・そういうものじゃなくて、社内政治とか人事とか。そういうくだらない糞みたいなこと、およそ感受性とか「ものを創ること」とかけ離れた生臭さ。
お前ら俺を誰だと思ってんだ? 馬鹿の為に写真は撮らない。筋を通せない仕事はしない。
したら、
こーなっちゃった。
ま、
もー
いーけどね。
筋を通して干されるなら、
筋を通して貧乏なら、
筋を通して独りなら、
本望だ。
ギターは下手なままだが、
どこにも恥ずかしくなく(でもないか)胸は張れてるぜ。