「防犯カメラは?」
「何も映ってないです」
70台超の防犯カメラがあり、オフィスの壁片側一面がディスプレイで埋められている。
出勤すると、夜勤さん5人がその前で立ったまま。
(え。脱走?)
(今更だろ。自主退所に制限ないし「どーぞどーぞ出てってください」だし)
閉所前提に高層階から使用をやめている。
現在使っているのは『一桁階』のみ。
その内の○階が夜勤さん達の仮眠室フロア。
元は『精神的に不安定な人』『問題行動のある人』向けのフロアだった。工事して、パーテーションと鍵付きの扉でグリーン・イエロー・レッド、3つに仕切ってあるのはそのまま。
「木の板に固いボールが落ちて跳ね返るような、カンッ、カーン、カーン、カンカンカン・・て音が聞こえて」
「女の人が何人かで騒いでた。手を叩きながら笑ってた」
(俺の頭の中に「サンバの半裸の衣装を着た南米の太っちょなおばさん達が満面の笑みで踊りながら廊下を練り歩く」シーンが。ちょっと見たいかも)
「いや男の声だった。廊下をレッドからグリーンの方へ歩いて行った」
「壁をドンドン何度も叩かれた」
「イエローの扉が開いてた。絶対に鍵、掛け忘れたりしません」
俺も立ったまま黙って聞いてた。
(うーん・・ありがちだけど、集団催眠ってか、集団心理ってあるからな。 何となく「そうそう俺もあたしも」的な。たーだな「カンカンカン・・」て音、俺の時(どっかに書いた広島の夜)と一緒だ)
話を聞いてた日勤の女性。線の細い大人しいあまり会話をしない人が、
「あの・・」
「昨日、あたし部屋移動の電話をしたんですけど」
(?)
効率良くフロアを消毒清掃して空ける為に、退所間近の方に下のフロアに移ってもらうことがある。
今回は中年の女性。
「その方が」
「ここ、出ますよね。て突然言われて」
「このホテル、出ますよね。この部屋も出ました」
「幽霊出るから部屋変わるんですか?って」
「・・・・・そんなことは御座いません。てお話ししたんですけど」
ざわついてたオフィスが、本当に、水を打ったように静かになった。
管理職が、
「今後は部屋チェックなどでフロアに上がる時、一人では行かないように。必ず二人以上で行って(トラン)シーバーを持って行ってください」
(まぁ、そうとしか言いようないよね)
幽霊が出た。
らしい。
世界中から色んな人が来て、業(ごう)とか澱(おり)とか落として行くだろうから、そりゃ幽霊くらい出るでしょ。
それは俺が前章で書いた『細腰の美人』のことではない。
俺が勝手に幽霊だと思っただけで、うちの医療スタッフの一人で生きた人間だ(多分)
で、
昨日。
これだけ大きな施設になるとピークの頃は、診察する部屋、看護師詰所、医療機器置き場が複数あった。それぞれの在庫を把握して医療機関に返却、斡旋するのは俺の仕事。
これで全部なのかな?まだどっかの部屋に置きっぱになってたりするんじゃないかな?
今日ひまだし、ちょっと見てくっか。
俺、最上階から全部屋開けてチェックしながら降りて来るからマスターキー貸して。
シーバー? 要らない。
え? 一人でいーよ俺そういうの慣れてるから。
幽霊で死んだやつぁいないよ。生きてる女が一番怖い。
誰も居るはずのないフロアを、ひと部屋ひと部屋ノックして開ける。
各部屋の瑕疵(かし=傷や破損など)もチェックしながら回る。
怖くないことはない。
けどまぁ仕事だし昼間だし・・・うーん・・
段々機嫌悪くなる俺。
2時間かけて全部屋をチェックしてオフィスに降りる。
派遣さん達が、
「どうでした?」
「大丈夫でした?」
「何も出ませんでした?」
確かに、
この部屋やだな。
入りたくないなって感じる部屋は何部屋かある。
○○階の突き当たり左の部屋とか。
あの部屋だけ倉庫になってるっておかしいよね?見晴らし凄くいいじゃん?何かあったってことだろね。
だけど、
「はい?」
そこじゃねえ。
「?」
あれ、
掃除とベッドメイクどこがやってんの?
全然じゃん。
ゴミが落ちてる。それもドアストッパーにしてたんだろう段ボールそのままいくつも。
ツイン部屋の並んだベッドの、シーツの折り方がそれぞれ違うってどういうことだよ?
枕カバーに皺が寄ったままってありかよ?
窓際に虫の死骸、テーブルの上にバスマット。
「あー」
「清掃業者、だめですよね」
「ベッドメイクの業者さんも・・」
ちゃんとチェックしないのかな。
俺ん時はさ、一人、厳しくチェックして駄目出しする人が居てくれてさ、
「え。kenさんベッドメイクやってたことあるんですか?」
あ・・
いや、
いいや。
