「サー」
遠い音が近づいて来る。
(あれ俺今寝てるよな起きちゃったかな?いや目ぇ開かないし)
「ぼつ。ぼつ。ぼぼぼ・・ザー」
来た。
激しい雨。
(リビング窓閉めたっけ? 吹き込んだらやだな。仕方ない起きよ見てこよ)
テーブルの上のガラケー「ぴこぴこ」点滅。
(あり?何か来てら)
「明日から16日まで休み」と大家のメール。
(そか。夏休みか。ラーメンか)
(1時40分。寝よ)
いつもより早く出勤。
昨日やり残したことあるから。
2本前に乗ると座れるし。
モニターの陰に隠れてチャカチャカ。
これやっちゃわないとー
あっちの皆さんが出勤して来る前にアップロードしないと、まーた本庁から電話掛かって来ちゃうよ。
朝ミーティング終わったばかりの茄子さんが、慌てた様子で事務所に入って来る。
「1234の◯◯◯さん、様子が変ですっ」
(そーなのーそりわたいへんだあー)
「会話が出来ません」
「何を言ってるのかわかりません」
「突入しますので誰か一緒に」
「男性の方」
繰り返すが大型モニターの陰に隠れてる俺。
管理職の偉い人、
「え。◯◯◯さん⁈」
「突入っ⁈」
「kenさん」
(ん。とつにゅーけんさんて俺のこと?)
「それはうちのkenさんが行きます」
「同行します」
「大丈夫です」
「kenさーんん」(手をぐるぐる回しながら)
「RED入ってー」
はい行きます。
そらまー俺だろねー
この建物の中に居る男性で『居室に入った経験』ダントツで俺だろねー
小さな、それでいてパンパンもの言う小気味いい看護師さん、
「よろしくお願いします」
「暴れるかも知れませんので」
(え。)
茄子さんと二人きりイエロー更衣室ちょっとだけどきどき申し訳御座いません。
おおおおお。
久しぶりのボーゴ服。
しかもフル装備。
高級っぽいエレベーターでボーゴ服2人「ひゅいぃーん」と高層階。
事務所の粒子の粗い監視カメラ、SFみたいに見えてないかな。
あーりらー
ほんとだ。
なんかおかしいことになっちゃってる。
対象者が女性なので俺、室内に入らず廊下からドアを足で抑えて全開、両手をフリーにして『何かあったらいつでも飛び込める』ように。
・・・・・。
あの時もこうすれば良かったのか。
なんで、
こんなに、
思い出しちゃうんだろう。
考えちゃうんだろう。
恋慕か未練かいよいよの走馬灯か?
これぞフラッシュバック。
山で着けてたせいか、
酷い汗染みと硬化(紫外線かな)
時計バンドを自分で交換してみた。
小さな小さなマイナスドライバー「かちゃかちゃ」
・・・み、見えない。
ヘッドランプを着けて、
でーきたっ
今度はグレーにしてみた。
山を歩いたせいか、
酷い日焼け。
数年前まで地元の漁師と間違われる黒さだったのに。
こんなのは初めてだ。
額の生え際ボロボロ。
唇もっとボロボロ、痛くて痺れて感覚が飛んでる。