今回は、当初塚本邦雄著『新古今新考』を取り上げる予定でいたのですが、読売新聞6月6日夕刊「伝承サイエンス」の記事を、いろいろな意味で今こそ取り上げるべきと考え、変更することにしました。

〈光源氏はわらわ病みにかかった。まじないや加持をさせたが効き目がなく、たびたび発作が起きた〉

記事は上記のように、『源氏物語』若紫巻の冒頭の(端折った)引用で始まります。この病気の治療のため、光源氏は北山に行き、そこで、幼少の紫の上に出会うわけですが、今はこの病気でたびたび発作が起きたということに着目してください。次に記事は、この病気について平安時代の書物に記述が多く残る一例として、今のNHK大河ドラマ『光る君へ』にも登場する、秋山竜次演じる藤原実資の日記『小右記(しょうゆうき)』に、後一条天皇が、この病にかかり、熱が一日おきに上が竜次り下がったりする様子が記録されていることに触れます。

僕も、瘧(おこり)とよく訳されていた、この病が今でいうマラリアだということは承知していたのですが、どうして、間欠的に起きるのかは知りませんでした。この記事では、マラリア発症の仕組みが分かりやすく解説されています。

 マラリアは、ハマダラカという蚊を媒介にして流行します。この蚊に寄生したマラリア原虫が、人の血液中の赤血球に侵入して増殖します。やがて赤血球が破裂し、原虫が血液中に飛び出した時に高熱が出て、再び原虫が次の赤血球に侵入すると、熱が下がるのだそうです。光源氏がかかったのは、48時間周期で発熱を繰り返す「三日熱マラリア」だと考えられています。一方、平清盛の死因である熱病も、致死率が高く、40度を超える高熱に見舞われる「熱帯熱マラリア」だとされます。

 マラリアは現在でも、熱帯、亜熱帯のアフリカや東南アジアでも流行していますが、ではどうして、平安時代の日本で流行したのは何故か?という疑問がわきます。

そこで、その理由と考えられるのが、この前、北海道でもオーロラが発生し、その原因とされた太陽活動(太陽フレア)の活発化によると、宇宙気候学の専門家の説が紹介されます。
 

太陽の放出する宇宙線が大気と反応してできる「炭素14」の増減の周期は、太陽活動の活発な時期では、短くなるのだそうです。樹齢2000年の屋久杉の年輪でその点を調べたところ、平安時代は寒冷だった17世紀よりも、さらに現代よりも周期が短い、と判明しました。つまり、平安時代は、太陽活動が活発だったわけです。宇宙線は、大気で雲の発生に一役買っていると見られるところから、平安時代は晴天が多く、気温が高かったのではないか、とされるのです。

記事はここで終わりません。地球温暖化のため、マラリア(デング熱も)の流行が世界各地域に拡大しているというのです。WHOの推定によると、2022年、世界で約2億4900万人が発症し、約60万人が死亡した、と。さらにIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書によると、温暖化対策を取らないと、今世紀半ばにはマラリアによる死者数が年間約6万人も増えると推計されるという。

 この記事を最初は『源氏物語』に関わるということで興味深く読み始めたのですが、終いには、暗澹とした気分に襲われてしまいました。温暖化対策に対する日本人の関心の薄さを思い、またあの自国ファーストのトランプ大統領が誕生する可能性を考えると、不安は募るばかりです。世界各地で洪水、豪雨、竜巻などの災害が発生し、地球温暖化対策は、全世界が一団となって取り組まなければならない危急の課題であるのに、西側諸国とロシア・中国との対立、イスラエルとアラブ諸国の対立がますます激しくなっている現状、ウクライナやガザの惨状、さらには、スーダンで起こっている虐殺、ミャンマーの内乱状態…もう止めます、やりきれなくなるばかりですから。