忘れられないCinema&Music -4ページ目

ミユキについて49

スナック『金のさじ』のママを始め客たち一同は店を出て、しばらく名残惜しそうに店の前にたむろして話し続けていた。

だがこれ以上飲ましてくれる店もないだろうという事で名残惜しそうに全員散り散りになって行った。

翌日になればここにいた、ほとんどの人間が今夜の出来事をうっすら覚えているかどうか。酒飲みの困った習性である。

僕達2人は駅からタクシーに乗る事にした。

他の客は、逗子マリーナの成金を除いて歩いて帰れるのだ。逗子マリーナの心配までしてられないのでさっさと駅のロータリーに向かった。

しかし、どうやら東京から深夜バスが着いたらしく思いの外タクシー乗り場がざわついている。

深夜バスが到着したということはもう午前2時を大分過ぎているのだ。この時間になると、タクシーの台数も少ない。

深夜バスの運転手は鎌倉に到着する少し前にタクシーに乗る希望者の人数をチェックして、系列のタクシー会社に連絡し台数を確保して駅前で待たせる。

深夜バスは高速を降りると大船、深沢、長谷などのバス停を通り乗客を降ろしながら鎌倉駅に着く。

だからタクシーに乗る人は八幡様の裏手の朝比奈あたりの人、北鎌倉又は稲村ヶ崎方面の人達だ。

僕らのように近い場所では運転手も喜ばないのではないかと不安になる。

もし、深夜バスから連絡を受けて待機しているタクシーに乗ったら台数と乗る人達の数が合わなくなりひと悶着起こる、これもいやだと思っていたら…………

その時ロータリーに湘南ナンバーのタクシーが客を乗せて現れた。そしてロータリーの片隅で申し訳なさそうに運賃のやり取りをしている。

鎌倉は横浜ナンバーなのでおそらく藤沢方面から客の指示で鎌倉駅のロータリーまで来たのだろう。

タクシーは営業場所が決められていて決まった駅以外では営業出来ない事になっているので運転手も落ち着かないのだろう。

もちろん客の指示で鎌倉駅まで来たのだから運転手に責任はないのだが。

『あのタクシー鎌倉駅のタクシーとマークが違うけど乗ってもいいんだよね』とミユキはそのタクシーに向かい僕も後を追った。

ミユキはすかさず『私たち藤沢から来たから乗せて』と、そのタクシーと話をまとめた。タクシーの運転手も往復で稼げるから文句はないはずである。

『運転手さん海に向かって』

『ちょっと寄って行くから、由比ヶ浜でお願いします止まる場所が来たら言いますから』

『えっ、あっ、はい』運転手はけげんな返事をした。夜中の2時半に『海にちょっと寄って行く』という言い方もおかしな物である。

海沿いの134号線の稲瀬川の手前でタクシーを降りた。運転手に2000円渡して不満を封印した事は言うまでもない。

夏の浜辺でもこの時間なら、誰もいないのではないかと思いきや、まくら木のような太い木を集めて焚き火をしながら20人ほどでビーチパーティーをしている連中がいた。

僕達は興味津々でそばまで行くと欧米の男性と女性、そして日本人の女性もけっこういる。日本人の男性は判別出来ない。

はて、この人達は何者なんだろう。

なぜか皆白っぽい衣服である。大騒ぎをするでもなく、瞑想にふけるでもなく談笑していると言える、ちょっと見はいかがわしい新興宗教かと想像したがそうでもなさそうだ。

バックグランドでかかっているミュージックはコルトレーンである。でも新興宗教だってコルトレーンを聞くかも知れない。

ちょっとびっくりしたがその中の一人の日本人女性が缶ビールを2本持って来て『良かったらどうぞ』と僕達に手渡した。なかなかの美形である。

僕もミユキも素直に受け取りビールのプルトップを開けた。

彼女の属する集団が何なのかミユキはどうしても聞きたくなったのか。
『何の集まりなんですか楽しそう』と絶妙な質問をした。

『ああ何か微妙な感じですよね。絵画教室の集まりなんです。向こうの髪の毛の長い人が先生であとは生徒と先生のお友達なの』

彼女の指差す方を見ると見覚えがある謎の欧米人がいた。

僕は彼に何度も会った事があった。そしていつも何者だろうと思っていた。

まるでキリストを彷彿させるような風貌で自転車に乗り駅の周辺に出没しているのを見かけていた。
『何処の国の人ですか』

『カナダの人です、お友達はアメリカやカナダの人オーストラリアの人もいるわ半分の人は絵画教室にも来てるの日本人の女性はほとんど絵画教室の生徒。もし興味があったらどうですか』

と言われても。女の子は押し並べて美しいけど絵画には興味がないしなぁ………などと考えていると、欧米人の男性が英語で『最後にダンスして解散しよう』とゆうようなニュアンスを言った。時間は3時を回っている。

ダンスと言ってももちろん男女が身体を密着させてするやつである。半分位の男女が即座にカップルになっている、中にはもうやるしかないと思わせるほどいやらしく密着しているのもいる。

僕達もこの時とばかりに身体を密着させた。先ほどのビールを持ってきてくれた彼女は…と見ると、先生と密着していた。あぁ成る程と思った次第である。

流れたのは麗しの?タワーオブパワー
ちょっとはまり過ぎだよね。

踊ったら、帰って。やってから寝ようと思わせるに充分な曲だった

ミユキについて48

スナック『金のさじ』は、世が更けるにつれだんだんホットな雰囲気になってきた。

ママは相模原のおじさんと熱心に話し込んでいる。一見おじいさんが何かしら深刻な状況を話しママがアドバイスしているようだが、そんな訳はない。

所詮、人生の大事を飲み屋で相談する男はいないしそれを聞いて解決案を出せる女もいない。

悩む男風と、それを真剣に聞く風の女のジェスチャーにすぎないのだ。二人ともそれを楽しんでいるとも言える。

逗子マリーナの成金男と愛人、そして不倫カップルはほっておかれている。

ママの娘はミユキが気にいったらしく二人で熱心に話している。時々二人の高笑いが聞こえる。

僕は、左側に座っているお土産屋の主人の自慢話に付き合わされている。

お土産屋という言葉にコンプレックスがあるのか。店の売上がいかに凄いか、お土産がいかに利益率が高いかを遠回しに聞かされる。

彼の話を元にちょっと計算すると年間の利益がこれくらいあるということが判るのだ。

さらに彼はこう加えた「大学を卒業して銀行に勤めたんだけど、父親がなくなって家業を継いだんだから偉そうなことは言えないけど」

サラリーマンだとしたら大会社の社長でもならなきゃもらえない額の収入があるらしい事がわかった。


そんな自慢話より、ママの娘とミユキの話しの方が面白い。

当然、男女の話しなのだが~

だんだん話が潔癖症の人間はだめだと言う話になってきた。

潔癖症=男女の交わりが下手という論理展開になっている。

ママの娘『三秒ルールっていうの知ってる』

ミユキ『触れたら三秒で終わっちゃうとか』

二人でばか笑い!!

ミユキ『わたし、何でも飲んじゃうから』

ママの娘『白いのも透明のも』

ミユキ『そうよ、この人凄く喜ぶの』と言って僕の目を見つめる。
二人でばか笑い、僕は苦笑い

ママの娘『私なんか、穴の開いている所は全部舐めてあげるの』

ミユキ『舐めて綺麗にしたげるのね、それって潔癖症じゃない』
二人でばか笑い

しかし、二人の話しは本質をついている。

あれは出来ない、これはイヤという女性は性の名人にはなれないだろう。まあ男もそうである。

夜もかなり深くなってきた、2時を大分過ぎている。相模原のおじさんは駅の裏にあるペンション風の宿に泊まる事になった。

『今日はそろそろ閉めるわよ、最後に歌いたい人』

ママの娘とミユキが何を歌うか相談して最後に歌う曲を決めた。他の人はもう歌う気力も失せていた。

歌うのはまたアニメソング『風になる』先ほどの二人の会話とは、かけ離れた曲である。
ミユキは物まね風に歌い皆を感心させた。

この曲でお開きになった。続く

ミユキについて47

ミユキと訪れた『金のさじ』は僕が月に1、2度顔を出し、深夜まで過ごすスナックである。

狭い店内は入口からカウンターが奥に向かって続きその奥で曲がってL字になっている。せいぜい10人も入れば満席になるのである。

色彩は茶系を中心とした地味なものである。

そこにママとママの娘がカウンターで客の相手をする。そして興が乗るとカラオケが始まるママも娘もなかなかの歌い手である。

カラオケが延々と続くことはなく、上手い具合に休み時間があり客同士の会話がはずむ。

だから、来ている客の素性はだいたい分かっている。

一番奥に座っている中年カップルは一見夫婦だがそうではない。

八幡さまに続く若宮大路で男性はお土産屋、女性は書店の経営者二人とも既婚者である。

小学校の同級生だという事だがどう見ても不倫にしか見えない。いや、恐らくその通りだと思うのである。

二人とも結婚していらるがパートナーが酒を飲まないと言う理由で小学校の同級生の男女でつるんでいるのだ。

しかも地元のスナックでというのは非常に危険な香りがする。

そして、そのとなりに座っているのは代々鎌倉に住んでいたが、バブル期に土地持ちの祖父が亡くなり相続税が払えず父親が国に借金した。

すると翌年、父親も亡くなりダブルで相続税が来てしまい払い切れずに土地を売り払い相模原に転居したのだが鎌倉を忘れられずにここへくるのだ。

そして、一番入口近くにいるカップルは世田谷に住んでいて、逗子マリーナを別荘にしている。

男もかなりフアッショナブルだが、女性はブランド物で身を固めている。おそらく夫婦ではない。

男は逗子マリーナにクルーザーを置いて釣りが趣味らしくしょっちゅう魚の話しをする。

まあ、一般人からは好かれない種族である。

僕達二人はこの人達にどう見られているのか気になる。

お土産屋の男性は、それとなくミユキにちょっかいをかけて来る。

『あなたは、どの辺りに住んでるの?』

『杉並区浜田山です』

『あなたは、いくつくらい?』

『もうすぐ25歳です』
ミユキは嘘か誠か分からない会話で煙にまいている。


僕はかつて日常鎌倉で飲む事はなかった。

鎌倉は帰って来る所であり、飲む所ではないと思っていたからだ。

鎌倉で飲むきっかけは知人の Y氏の『銀座で飲んでも終電で帰ります』という宣言だった。

彼は経営コンサルタントという仕事がら、取り引き相手と銀座で飲むのが仕事の一部のようなものだった。

しかし銀座で飲む連中は仕事相手がいなくとも銀座で飲む事をやめられ無くなるのが常である。

それは、良い女がたくさんいて相手をしてくれるからという単純な物ではない気がするのだが。

そんな彼が『銀座は高いし、閉店が早いし、泊まるはめになるから終電で帰ります』と言った。

だが、終電で帰って来てから鎌倉で飲むとゆう芸当を彼がやってのけた。しかもだいたいの店が4時までやってくれるから始末が悪い。

そのまま会社に出勤することになるのである。

ママの娘がミユキにまた歌えと言いだした。
二人で相談して二人で歌いだした。
内藤やす子の名曲『六本木ララバイ』である
作曲がモトふゆきの兄エド山口という事に感心する。