■あらすじ
長年、麻薬の密売に手を染めてきたドラッグ・ディーラーのバッジは、恋人ソフィアと共に裏社会から足を洗おうとしている。引退後、堅気の友人グレアムと自動車のカスタム・ショップを立ち上げるための資金作りに、最後の大口取引を画策。ソフィアのコネでウクライナ人プッシャーから50キロのブツを仕入れ、倍の値段で売り抜けるのだ。そのために、裏社会でも一目置かれ恐れられる闇金のジョーから10万ポンドを借りる羽目となるが、売り先も確保しすべては順調に思えた。しかし、弟分のヘマからブツを積んだバンが何者かに乗り去られてしまい、買い手にも逃げられる事態に。ジョーへの返済期限が迫る中、ブツを積んだバンを探し出し、新たな買い手も見つけ金を作り出さなければ、彼の人生計画はフイになり、見せしめにジョーの手によって消されるだろう。残り僅かな時間で窮地に立たされたバッジのもと、彼が買い手を失ったことを知ったジョーはすでに手下を仕向けていた…。(公式サイトより)
■ネタバレ
*「愚か者は救世主の前身である」(ユング)
*ドラッグの売人バッジとその恋人ソフィア。家の中で「これが終われば足を洗える」と話している。その後、バッジは1人で外へ。車までの道で顔馴染みのトロイと擦れ違い「大仕事か?」と声を掛けられる。車に乗り込み、走り始めるバッジ。
*フィリックスに発信/10:39/大口のドラッグの買い手である男。「少し遅れてる、11:15に行く」と伝えると「もう1週間も遅れてる」と呆れた声が返ってくる。「仕入れ先が慎重でね」「ド素人が、こんな大口取引は初めてだろ」「50kgだ、降りないでくれよ」「1分でも遅れたら中止だ」
*レフティに発信/10:40/彼の傍にはビーカーも居る。2人はバッジの手下で[医療用品]を積むバンを入手して移動中。充分には給油されていない様子だが、自分でやることにして「何もしなくて良い、車を取りに行く」と告げる。
*スカラーに発信/彼は小口の取引相手。「あと2分で着く」と伝える。
*グレアムから着信/真っ当なビジネスの共同出資者。不安気な様子で「明日9時に金が届かなければ、手付金が流れる。没収されるんだ」と念を押してくる。彼の負担分は、両親が家を抵当に入れて用意したものだ。一方、バッジの負担分については「どんな金かは聞きたくない」と言う。「俺の負担分の6万ポンドは任せろ」と請け負うバッジ。「俺達の店を手に入れよう、必ず現金を持って行くから」
*停車、スカラーが乗車/10:42/スカラーにブツを渡して金を受け取り「電話は明日から不通になる」と告げる。「引退か?」と訊くスカラー。彼には新しい仕入れ先があるが、小口の取引では相手にされないようだ。彼は博士論文に7年も取り組んでいるが、ドラッグの売買を優先していていつまでも完成しない。テーマは『マイケル・マン映画に見る運命と儚さ』だとか。「カーンには報酬を払うのが身のためだぞ」「あんたは辞めて何をするんだ?」「ビジネスさ、本物のな」「儲かるのか?」「眠れれば、それで良いんだ。この世界は呑むか呑まれるかだ。忘れるな」
*コズから着信/10:44/彼女は15歳の少女。「仕事中だ、この番号は消せ」と伝える。コズはアプリで知り合った男とのデートへ自転車で向かっている。
*コズとの電話を切り上げて、ソフィアに発信/バックミラーに映る車を気にして「尾行されている」と相談すると「何度か曲がってから停まってみて」と言われる。指示通りにすると、怪しんでいた車は姿を消す。
*コズへ発信/10:47/先刻、番号を消せと言ったが「緊急時には電話してこい」と告げる。バッジが経営しようとしているのは車のカスタムショップ。「雇って欲しい」と言うコズを、素気なく断る。停車した駐車場には、自分が乗り込む筈だった[キャプテンハッピーのハッピーおむつ]のバンが停まっているが、思案の末、そのまま走り出す。
*グレアムに発信/10:51/彼は[北京宮殿]という店で、料理を待っている。やはり尾行が気になり「金を取りに行って欲しい」と依頼。(グレアム曰く「イカれ野郎」の)ジョーから10万ポンドを受け取るため、シグジーの店へ。「11時までに届けないと、お前の両親は大金を失う」と強引に説き伏せる。
*レフティに発信/何処に居るのか尋ねると「オルモー通りの店に居る」と言う。「自分は尾行されているから、バンに戻って運転してくれ」と指示。給油も頼む。
*ジョーに発信/借り入れ相手の危険な男。自分ではなく、代理人に行かせることを伝える。予定変更を嫌うジョーは、今回の取引について改めて確認。「ドラッグの密売から手を引くことになって、ウクライナ人が困っていた。在庫を捌くにしても、商売敵には売れないからだ。幸い俺の身内にコネがあった。信用出来る相手で、買い手も決まっている」と説明。ジョーは「俺から金を借りるなら、必ず手数料を付けて返せ」と要求。「10万ポンド借りるなら、12万ポンド戻せ。そして、俺からの電話には必ず出ろ」
*レフティから着信/再びバンに乗ったと言う2人に「カッターズワーフへ行って、ウクライナ人からブツを受け取れ。その後、買い手のフィリックスが待つチャーチロードの駐車場へ行け」と指示。
*グレアムに発信/10:56/彼はもう間もなく、シグジーの店に到着する。「金を受け取ったら、タクシーでカッターズワーフへ向かってくれ」と頼む。そこに[ハッピーおむつ]のロゴ入りのバンで、手下が待っていると説明。
*フィリックスに発信/彼にも「尾行されていて、自分は行けない」と伝える。警戒されるが、どうにか説き伏せる。
*レフティから着信/2人はウクライナ人と接触。電話を切らずに待つように言う。
*グレアムに発信/10:58/タクシーに乗り、鞄が重いとボヤいている。「あと2分で着く」とのこと。ジョーに名前を訊かれて答えたらしい。「不味かったか?」「いや、問題ない」
*11:00/停車して煙草を吸うバッジ。車に戻って電話が繋がったままだったレフティに確認すると、ブツは無事に受け取った様子。ビーカーがトイレに行きたがっているようだが「先に仕事を済ませろ」と促す。
*グレアムに発信/取引が進んで安堵したバッジは、機嫌良く「今度、北京宮殿でごちそうしてやる」と話す。そして改めて、明日9時の約束を念押し。
*コズから着信/約束の時間よりも早く待合せ場所に到着したため、時間潰しに電話してきたようだ。自転車を押している様子のコズに「代わりに自転車を押してくれない男ならナシだぞ」と助言。
*レフティから着信/狼狽えている様子の2人。問い詰めると、ガソリンスタンドでバンが消えたのだと言う。レフティは支払いをしていて、ビーカーはトイレに入っていてバンから目を離してしまった。「20万ポンド相当のブツだぞ」と憤るバッジ。サウスエリアを走り回って、バンを探すことしか思い付かない。レフティには「車が盗まれて、警察に通報したと従業員に言うんだ。監視カメラの映像を確認させろ」と指示。
*フィリックスに発信/「ブツは手元にあるが、到着が遅れる」と嘘を吐き、1割引を提案。「二度と連絡するな」と言われ、2割引を提案するが電話を切られる。
*ジョーから着信/「俺からの電話には必ず出ろ」と言われていたが、この状況では出ることが出来ない。
*ソフィアに発信/「バンが消えた。盗まれたんだ、買い手にも逃げられた」と吐露。「私に頼んで欲しかった」と言うソフィア。彼女はレフティ達より頼りになるが、巻き込んで危険に晒すことは避けたかったのだ。ジョーを恐れるバッジを、ソフィアは「今夜中にバンを見付けて、新しい買い手も探すしかない」と励ます。
*レフティから着信/「警備室へ案内させるのに、50ポンドも払った」と泣き言。監視カメラの映像を確認すると、レフティと少年院で一緒だったターキーという男がバンを奪ったと判明。「バーナーズ地区の辺りで見掛けたことがある」と話すレフティ。2人をそのエリアへ向かわせる。
*マジックショップに発信/過去に取引した相手。取引を持ち掛けようとするが、留守番電話のメッセージが流れる。
*ジョーから着信/電話に出られなかったことを詫びて「遅れが出て調整してた」と言い訳。しかし既に情報が届いているようで「取引相手が下りたと聞いた」と核心を突かれる。金は0時までに返す約束だ。「どうにかする」と強がるしかない。
*マジックショップに発信/また留守電。
*グレアムに発信/金の無心。「6万ポンド以外に幾らある?」と尋ねる。「コンクリート詰めにされる」と訴えるが「別の手を考えろ」と断られる。
*レフティから着信/「バーナーズの酒店で目撃情報があった」との報告。暗くて車体のロゴは確認出来なかったようだ。「あと10分で着く」と伝える。
*コズから着信/11:11/緊急事態ではなく「すっぽかされた気がする」との内容。「もう1分待て。今は話せない、掛け直す」と返す。
*レフティ達と合流するつもりだったが、やはり尾行されている。直接対決を決意して、人影のない場所で停車。車を降りると、尾行の相手はトロイだった。「警察に協力してるのか?」と尋ねると「俺が密告屋だって言うのか?」と反感を買う。トロイは尾行については認め、ジョーの指示だと話す。「ジョーは自分の金から目を離さない」と。思わず「尾行がなければ、今頃は金が手に入ってたのに」と零すと、もう金は戻らないと踏んだトロイに撃たれそうになる。しかし結局、トロイはバッジを撃つ代わりに「自分が見せしめになりたくないなら」と3Dプリンタ製の銃を寄越す。住所の書かれた紙片も手渡し「ナビに入力しろ」と言う。「俺がやっても構わないが、これはお前への救済措置だ。ジョーは単に殺したがってた。お前ならやれる、愛する者のためだ」
*トロイは走り去り、自分の車に戻るバッジ。已む無くカーナビに住所を入力すると、目的地までは7分。
*11:22/ナビの音声が「ダーガン通りを直進」と案内する。そして200m先を右折。
*ソフィアから着信/状況を確認され「ジョーと交渉したら、急ぎの仕事を頼まれた。これで借金がチャラになる」と伝える。不穏なものを感じ取るソフィア。
*コズから着信/11:24/約束を破られ、気落ちして帰る途中。コズは慰めて欲しかったのだが、バッジは切羽詰まっていて余裕がない。「どうして雇ってくれないの?」「あの話なら立ち消えだ、もう店は持てない。仕事が欲しけりゃ[ハッピーおむつ]のバンを探せ」
*マジックショップから着信/留守電を聞いての折り返し。50kgを今すぐ捌きたいと伝え、20万ポンドで打診。「9万でなら買う」「最低でも12万」それはジョーに払う金額で、6万ポンドは捻出出来ない。急な話で危険を伴うため相手は9万ポンドを譲らず、交渉決裂。
*トロイから着信/11:27/到着を見計らっての、状況確認の電話。「殺しは初めてか?俺も通った道だ。先ず顔面に弾をぶち込め。残った弾で胸や背中を撃って歩き去るんだ。走るなよ、人目を引くからな」等とアドバイスしてくる。「銃は捨てるな、俺に返せ」
*ソフィアから着信/「別の手がある。国を出るの、早朝の便でキーウへ」と提案するソフィア。航空券は2人分で500ポンド。しかしバッジは「ウクライナでは暮らせない。頼ってくれる連中がここに居る。俺は逃げない」と言う。ソフィアはジョーからの仕事の内容を察して「お願い、やらないで」と懇願する。「手を汚せば後戻り出来ない。ジョーの操り人形になるのよ」ソフィアの言葉の途中で電話を切るバッジ。
*レフティから着信/バーナーズ地区に到着した2人。バンを盗んだ男のあだ名はターキーではなく、実際にはルースターだと言う。バッジは「狭い住宅地だ、パーティしてる家を探せ。若しくはボロ家だ、板張りの窓に荒れた庭の」と助言する。
*バッジの方も標的の家に到着。相手はスカラー。「せめて顔を見せてくれ」と言われて、被っていた目出し帽を脱ぐ。スカラーはドラッグの買い付けを増やすために、ジョーから資金を借りたのだと言う。新しい仕入れ先が、小口では相手にしてくれないからだ。スカラーを押さえ込み、銃口を向けて「お前をやらなきゃ俺がやられる」と言うバッジ。しかし躊躇いはある。
*レフティから着信/ルースターを見付けたとの報告。今はまだ、家の外から様子を窺っているらしい。「ドアを蹴破って、バンの在処を吐かせろ」と指示。
*バッジはスカラーに銃を向けたままだったが、ブツを取り戻せればまだ別の手もあるだろう。スカラーの新たな仕入れ先はリンゴという男だと聞き、スカラーから連絡させることにする。「危険な男だぞ」「紹介しろ、捌かなきゃならないブツがあるんだ」リンゴへの電話は繋がらないが、着信を残せば折り返しがあると言う。
*車で走るのを再開し、ソフィアへ発信/無言のバッジに「まさか」と問い掛けるソフィア。「やってない」と答える。「買い手候補が居る」「バンは見付かった?」「もう少しだ」
*ジョーから着信/「[配達]は終わったか?」と尋ねられる。「金は返す、元本も利息もな」「始末したか?」「スカラーも金を返す」「取り立ては頼んでない、お前の仕事は配達だ。…時間切れだ、担保を回収する」「預けてない」「預ってるさ、俺と取引した瞬間からな。愛する者の命だよ」
*ソフィアへ発信/家の周囲に怪しい車が停まっていないか訊くと、窓が黒い車から男が降りてきたと言う。「ドアを蹴ってる」「ジョーの手下だ、逃げろ」ソフィアは辛うじて家から逃げ出し、車で走る。義兄の家へ向かうように促す。
*警官に車を止められ、免許証や保険証書を渡すバッジ。身元を照会されるが、逮捕歴はない。(そのせいでフィリックスには、密告屋ではないかと警戒されていた。)程なく解放されて、再び走り出す。
*スカラーに発信/まだリンゴからの折り返しの電話はない。スカラーは何度も連絡することには否定的だが、バッジは「誰のお陰で生きてるんだ?俺の番号を知らせとけ」と要求。スカラーも折れて、留守電にメッセージを残すことに。
*レフティに発信/家に踏み込んだがルースターはハイになっていて、小突き回しても発言が支離滅裂だと言う。積荷については気付いておらず、バンを停めた場所も覚えていないようだ。どうにか駐車場所を聞き出すしかない。
*リンゴから着信/ドラッグが50kgあることを伝え、20万ポンドで打診。「15万なら」と返されるが駆け引きの末、18万ポンドでの取引が成立。波止場は危険だと判断されて、グレンパークに1時間後を提案。「0:00なら良い」と言われるが、今は11:46。言い淀むと「監視班を配置する時間が要るのか?」と囮捜査を疑われ、已む無く受け容れる。
*レフティに発信/ルースターは、バンを近くの鉄道橋の下に乗り捨てたらしい。レフティは場所の目星を付けているようで、既に向かっていて「2分で着く」と言う。電話を繋いでおくよう指示。
*ソフィアに発信/無事に義兄の家に辿り着いた様子。「買い手が見付かった、新婚旅行代は出ないが」と伝える。気持ちは上向きになる。
*レフティの声が割り込んで「騙された、バンはない」と言う。橋の上にも下にもバンはなく、橋の先は行き止まりだ。場所を思い出せず、苦し紛れに嘘を吐いたのだろう。瞬く間に気持ちは沈む。
*ジョーから着信/ドリルの音とグレアムの悲鳴が聞こえる。狼狽えつつ「そいつはカタギだ」と抗議すると「巻き込んだのはお前だ」と指摘される。「軽く甚振っただけだ、今はまだな」悲鳴はずっと止まない。「俺が行くからグレアムを解放しろ」「それが正解だな」フェリー発着所でトロイに会うよう指示されるバッジ。「0時までに来なければ、友達の両足に穴が開くぞ」
*車を停めてソフィアに発信/「グレアムが拉致された、ジョーの所へ出向いて交代する」と伝える。「グレアムには子供が居る」「私だって子供が欲しい」取り乱すソフィアを説き伏せる。
*再び走り始めてレフティに発信/バンはまだ見付かっていない。死を覚悟し「俺のシマはお前に譲る、ゲームオーバーだ」と告げる。
*コズから着信/11:54/涙を流しながら「先刻は悪かった、お前は良い子だ」と伝える。ソフィアにもレフティにも、それぞれが別れの言葉のつもりだ。バッジが意気消沈している理由を、コズは知っている。「バンが見付からないんでしょ?私の目の前にあるよ、ラガンウェイの駐車場に」車はロックされておらず、キーは挿さったままだと言う。コズがバンを運転して、グレンパークへ向かうことに。
*ソフィアに発信/11:55/「バンが見付かった、グレンパークで金を受け取って運んで欲しい」と頼む。しかし約束は0時、自分で幾らか時間を稼ぐ必要がある。
*リンゴに発信/「仲間が行く、信頼出来る女が2人だ」と伝える。「面識がない」「俺ともないだろ」「…5分で到着するんだな?」「2分で着く」
*11:57/港に到着、トロイと会う。「殺すから銃を返せ」と言うトロイ。先ずジョーに電話を繋がせて、グレアムの安否を確認。「取引が終わって、金はここへ向かってる」と伝えるが、結局銃は取り上げられる。
*リンゴに発信/取引が終了したのかどうか尋ねる。「金を渡して女は発った、2分前に」
*繋がったままの電話で、ジョーはトロイにこの状況をどう判断するか訊く。「女は裏切って、ここには来ないだろう」と予想するトロイ。バッジが「2分待ってくれ」と頼むと、ジョーは思案して「1分経ったら殺せ」と命令する。
*「今頃、空港へ向かってるさ。最初の便でキーウへ行くだろう」「そんな女じゃない」「騙されてるのさ」トロイに銃口を向けられつつ、彼を煽って僅かな時間を稼ぐ。一旦電話は切っていたがジョーから着信があり「殺したかどうかの確認だ」と言うトロイ。
*いよいよ撃たれるという時に車が到着、ソフィアがトロイに金を手渡す。トロイが「金が届いた、12万ポンド揃ってる」とジョーに報告し、解放されるバッジ。グレアムは運河沿いで解放すると言う。
*「ジョーが話したいそうだ」とトロイから携帯電話を渡されるバッジ。先刻までジョーとの会話は張り詰めた雰囲気だったが、今は「開店はいつだ?」と訊いてくる。「2週間後だよ」「ハマーにデカールを貼りたい」「安くはないぞ」
*「次は…」と言い掛けるトロイの言葉を遮り、バッジが「次はない」と言う。その後はもうお互い無言で、フィストバンプで別れる2人。傍でソフィアがその様子を見守っている。「6万はあるか?」「バンの中で分けたわ」ソフィアが着込んだコートを開いて見せると、そこに6万ポンドが隠されている。
*寄り添う2人の邪魔をするかのように、グレアムから着信/開口一番「この野郎…漏らしたんだぞ」と言うグレアム。「金が出来た」「この身勝手な…何だと?」状況からして、ジョーに金を返すので手一杯だと思っていたのだろう。笑いながら「俺にひれ伏せ」と言うと、グレアムは「こんな目に遭わせたお前と、付き合いを続ける理由なんか…」と恨み節だ。「足を洗った、これっきりだ」「…9時に銀行だぞ」
*携帯電話を投げ捨て、ソフィアと抱き合いキスするバッジ。少し離れた場所で、トロイがその様子を見守っている。
*ジョーから着信/トロイが「もう上がって良いか?」と訊くと、ジョーは「まだ仕事がある」と言う。「レフティとビーカーに制裁を与えろ。今夜はまだまだ働いてもらうぞ」電話を切ると、トロイは「何て夜だ」と呻いた。
■雑感・メモ等
*映画『ナイトライド 時間は嗤う』
*レンタルにて鑑賞
*ワンショット撮影の、イギリス製クライムスリラー
*[ワンショット風]の場合もあるけど、この作品は公式サイトによると「ロックダウン下のベルファストで、1日11時間のリハーサルを連日1週間重ねた末、6晩で全6テイクの撮影を敢行」したそうな。凄い。リアルタイムで進行するお話には臨場感や緊張感が生じたりするけど、現場ではまた別の緊張感があったんだろうなと思ってしまう。
*主人公が忙しなく相手を変えながら、車内で電話をするのがお話の軸。『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』を彷彿とさせるけど、今作は本当に忙しない。電話が多いのは尾行されているせいなんだけど、この理由付けで概ね人任せなのは些か物足りなさも。『オン・ザ・ハイウェイ』とは違って、数人は画面上にも登場。(ソフィア・トロイ・スカラーの3人と、通話相手ではないけど職務質問してくる警官。この警官は本物で、故に映像にモザイク処理されている模様。面白いな。)
*専ら車内で展開する点は『ワイルド・ロード』とも類似。ネットで知り合った男に会いに行こうとしている少女が居る(そして最終的に、少女が大切なものを運ぶ)点も共通。
*今までに稼いできた金があって、もう一押しで店を持てるから最後の仕事で不足分を儲けるぞ。という話ならまだしも、必要な全額を前日に用意しようとしてるの無茶過ぎない?
*バッジは普段はジョーと距離を置いている雰囲気なので、車のカスタムショップについてはグレアムが小突き回されつつ話したのかな。グレアム可哀想。(想像するとちょっと面白いけど。)「ひれ伏せ」じゃねえのよ。
*ジョーは開店を踏まえて(6万ポンドを入手するものとして)話をするし、トロイは(それが定番なのかもしれないけど)「最初の便でキーウへ」とかソフィアとそっくり同じことを言うし、取り敢えずバッジは盗聴されてるんじゃないか。
*最終的に1台は投げ捨てていたし、携帯は2台持っているのかな。レフティに「電話を切るな」と言いつつグレアムにも発信したりしてたので。
*バッジとスカラーのマイケル・マン談義はもう少しあって「名監督だな、『ヒート』に『ラスト・オブ・モヒカン』」「1番は『マイアミ・バイス』だ」「ドラマの方だろ?」「映画だよ」「ふざけろ、ジョンソンが出演してない」「マンのポストフィルム時代の最高傑作だ。あんたのイチ押しは?『ヒート』は月並みだぞ」「あれも人気だが『ザ・クラッカー』だ」「マンの描く孤独なプロ犯罪者の典型だな」てな具合に続く。
*エンドロールの背景は、夜の街を走る車からの映像。ただし上下が逆で、路面が上になっている。やがて街から離れて、朝が近付くという風情。